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【第一部 きみいろ ~君と僕がみている世界の色は~】

第八話 合縁奇縁

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 入道雲の集団がまるで集会をしているかのように空いっぱいに広がっている。その入道雲と入道雲の間を飛行機が飛んでいき赤い糸のような線を繋げていく。太陽は雲と雲の間にいて気まぐれで顔を出す。そんな空を眺めていると大きな狐の姿になった金平糖が飛んでいくのが見える。

 彩は金平糖たちが気になり後を追いかけていくと金平糖たちは人里離れた森の中に下りていく。そこには葉、金平糖、ワンタン、リン、メロンクリームソーダと他見たことがない妖怪たちが集まっていた。
 彩は息を切らしながらやっとのことで追いつき、話し込んでいる葉たちに話しかける。

「みんな、ここで何をしているの?」
 彩は荒い呼吸をしながら膝に手をついた状態で話しかける。
「彩? 君こそ、ここで何をしているの?」と葉が驚いた顔で振り向く。
 妖怪たちは知らない人間が来たことでみんな隠れてしまう。

 あれ? 私がここにいたらまずいってことかな?
「あ、えっとね。空を見ていたら金平糖さんが飛んでいたので、なんとなく気になって来たんだけど……お取込み中だったよね? ごめんね。か、帰るね」
 彩は苦笑いで後ずさりしながらその場を後にしようとする。

 妖怪たちは金平糖が見えるという彩の話を聞いて、木の陰や草むらから顔を出しはじめる。
 え? なに? なんか見られていない?

「君がここに来たのならこれは偶然じゃなくて必然な気がするんだ。だから君さえよければここにいて大丈夫だよ?」と葉はニッコリと笑う。葉は手をパンパンパンと叩き注目を集め「ねぇ、妖モノたち、聞いて。彼女は例の女の子だよ」と大きな声を出す。

 例の女の子? どういうこと?

 妖モノたちは一斉に姿をみせる。妖モノたちは目をキラキラと輝かせて彩を囲う。

「おお、あのおなごか!」
「よく来たね~お茶でもしていかないかい」
「それがいい、日本茶しかないが飲んでいきなさい」
「和菓子もあるわ」
「ほれほれ、こっちにおいで」
「おねーしゃん、会いたかったの」
「ね、会いたかったね」

 妖怪たちは彩の手をとり森の中にある広場まで連れていく。広場に着くとお菓子やお茶を出しワイワイとお茶会をはじめる。とある妖怪たちは舞を披露し、とある妖怪たちは笛や琵琶で音楽を奏でる。まるで彩の歓迎会かのように大いに盛り上がっている。

 彩は妖モノたちの世界に浸っていたが、ふと葉たちが気になりキョロキョロと辺りを探してみるが姿が見当たらない。妖怪たちに話を聞くと葉たちは探し物をしているらしいと伝えられる。

 さっきまで妖モノたちと話をしているかと思ったらいつの間にかいなくなっていた。今ここにいる人間は私だけってことだよね……なんか緊張してきたな。葉くんたちどこへ行ったんだろう?

「なんだか煩いと思ったら、こんなところでなにしてるし」
「おお、なんか楽しそうじゃん」
 空から茶釜に乗った絵がおりてくる。茶釜になったタルトは狸の姿に戻り、妖怪たちの輪の中に入っていく。絵はドスンと大きな音を立て彩の隣に座る。

「絵くん、こんにちは」と彩は絵に微笑む。
「どうも、彩さん。ねぇ、こんなところで妖怪たちと何してるし」と絵は彩と話したいが恥ずかしくて顔を合わせられないでいる。

「さっきまでは葉くんたちもいたんだけど、なんか居なくなっちゃって」
「あぁ、例の件か……。まぁそこにいる奴らはオレらの味方っていうか、悪い奴らじゃないから安心していいと思うけど」

「そうみたいですね」
「まぁ問題点をあげるとしたら、そこにいる奴らは下級の妖モノたちだから何かあってもオレらがいないとってとこがね」

「かきゅう?」
「そう、下級。要するに弱いってこと。妖怪の世界は弱肉強食だから弱いものは強いものに喰われるし、殺されるのが日常だし」

「そうなんですね」
「そ。別に奴らを助ける義理はないけど、情報をもらう代わりに助けるって感じの関係性だったり……なんていうか普通に彼らと友達っていうか仲が良いから助けるっていうか」

「へぇ。そうなんですね」
「それよりさ、なんで敬語なわけ」

「え? ああ、癖というかなんというか」
「オレの方が年下だし、タメ語でいいし」
 絵はじっと彩の顔を見つめる。

 キーン! という高い音が聞こえた瞬間、空間が赤み掛かった色に変化する。
「これは……」と絵が立ち上がる。
「結界じゃん」と絵の目の前に飛んできて、タルトは絵と双子のような姿に変化する。

 ガサガサガサッ!
 草むらから音がした瞬間、絵とタルトは彩や妖モノたちを守るように音がする方を向き、たち立ちはだかる。妖怪たちも騒ぐのを止め、じっと様子を窺っている。音は消え、沈黙が続く。

 音を立てていた妖怪は動く気配がない。絵がキョロキョロと辺りを見渡していると小さな石が彩を目掛けて飛んでいく。それに気づいた絵は彩を守ろうとするが絵の耳につけているヘッドホンが別の何者かに奪われてしまう。ヘッドホンを奪われた絵は耳を塞ぎながらその場に崩れるように座り込んでしまう。

「っち! 小石はおとりじゃん! 絵!」と大きな声をあげタルトは絵の奪われたヘッドホンに変化し、絵の耳を塞ぐ。
「ありがとう、タルト。オレの大事なもの返してもらわないとだし」

「おう、小物なんかさっさと片付けるじゃん」
 絵は立ち上がり目を閉じ気配を探しはじめる。
「聞こえるし、ヤツの音。場所はそっち!」と絵は攻撃してきた者の場所を指差す。

「行くじゃん」
「おう」
 絵とタルトは攻撃をされた者がいる場所へ猛ダッシュしていく。

「オレのヘッドホン返しやがれ!」と絵は何者かの手のようなものを掴んだ瞬間、煙に覆われる。
「げ! ヤバイのじゃん」とタルトはヘッドホンの姿から狸の姿に戻ってしまう。

 この煙には狸が苦手とするハーブが含まれており、変身した姿を保てないくらいの強烈な匂いがしている。絵が掴んだ者が声ではない普通の人間には聞こえない音で大きな叫び声をあげる。絵は間近にいたためその音に耳をやられてしまい、その場に倒れこんでしまう。

「絵!」
 タルトは絵に手を伸ばすがまた別の妖モノに狸が苦手とするハーブで出来た蓑をかけられ、そのまま気を失ってしまう。

「絵くん! タルトさん!」と叫ぶ彩。

 彩にゆっくりと近づいていく二体の妖モノ。一体は正面からみると人のような形で横から見ると紙人形のようにペラペラした妖モノ、もう一体は白目をむき屍のような老人の姿をした妖モノが自分の意志ではなく操られ歩かされているかのように一歩一歩進んでくる。

 ど、どうしたらいいんだろう。

 彩は咄嗟に足元にあった木の棒を手に取りギュッと握りしめる。そこに妖モノたちが走ってやってきて彩を囲う。震え怯えながらも彩を守ろうとする妖モノたち。

「わ、わしたちが守るぞ」
「あ、あたしたちだってやるときゃやるんだかんね」
「そうじゃ、負けはせんぞ」
「お嬢さん、下がっていて」
「ほほほ。逃げるなら今じゃぞ」
「あんな奴、ぼくらがボコボコにしちゃうんだから」
「そ、ボコボコだ」
 妖モノたちは恐怖のあまり、声が震えていたり裏返っている。

 老人のような妖モノが立ち止まりニヤッと笑うと、腹が破裂しそうなくらいに大きく息を吸いモスキート音のような音を出し、同時に突風が吹き荒れる。彩を囲っていた妖怪たちは一時的に耳が聞こえなくなり朦朧としはじめる。そして追い打ちをかけるかのような大きな風に吹き飛ばされてしまう。

 紙人形のような妖モノはくねっと丸まり、老人のような妖モノはボキボキボキっと骨が折れたような音を立てながら突然海老ぞりしたかと思うと、同時に猛スピードで走り出し、彩に向かっていく。

 もう、ダメ……。
 彩は目をギュッと閉じ、その場にしゃがみ込む。
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