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月曜日
終末が月曜日 2
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部屋のエアコンつけたままキッチンに行くと、母さんがよそ行きのまんま座ってる。
赤のワンピース? 情熱の国に感化されたか。
化粧もシンクロみたく気合い入ってるし、いよいよスペインぽくなってきたな。
「イル、ごめんね。おなか空いてるでしょ?」
あたしに気づいて、母さんが椅子から立ち上がる。
「まぁね。てか、扇風機くらいつけなよ。暑いって」
言われた通り、母さんが扇風機をつけてあたしに風を送る。
敬老の日、気温だけはまだまだ夏だ。
「首振りでいいよ」
喉が渇いたから、冷蔵庫から麦茶を出してグラスに注いで一気にそれを飲む。
考えてみれば、あたしはドリンクなしであのビックサイズのポテトチップスを平らげてた。喉がカラカラなのも頷ける。
麦茶一杯じゃ足らないから、もう一杯注いでから椅子に座る。
「着替えたら? それと、早く何か作ってほしいんだけど」
「遅くなったからコンビニで牛丼買ってきたの。今、あっためるから」
ポテチの後にチルドの牛丼……。
「オレのは……ないよな?」
パジャマ姿の父さんが背後で呟く。
母さんの代わりに電子レンジがチンと返事する。「ない」って。
「はい、どうぞ」
胸やけしそうだけど、匂いにつられてあたしは一口それを食べる。
うん、普通にイケる。カロリー配分なんて概念、もうどっか飛んでった。
母さんがあたしの向かいに再び座る。
父さんはあたしの隣に腰掛ける。
それでいて、二人とも食事をする気配はない。
ん?
「……晩ごはん、ひょっとして、あたしだけ?」
「母さん、夕方に食べてきたの」
「オレはまだだけどな」
「あらそう? 作る気もないけど」
「こっちも期待してない。今のは独り言だ」
……な、何だ、この不穏な空気?
あたしは箸を置いて、牛丼を横にスライドさせる。
「父さん、食べていいよ。あたしは激空きってワケじゃないし」
すると、母さんが素早くそれをあたしの前に戻す。
「イルのために買ってきたの。遠慮せずに食べなさい」
父さんも抗議しないで、テーブルの上で両手を組み出した。
何か喋りたそうな雰囲気だけど、それでいて二人とも無言を貫いてる。
あたしは気まずくなって麦茶を口に含む。
グラスをテーブルに置く。
沈黙が続く。
二人揃って下を向いている。
やがて、母さんが顔を上げて「ホラ、冷めるから」と牛丼を勧める。
「何か食べづらいんですけど……」
そこで父さんと母さんが目を合わせる。
オマエが言えアンタこそ言いなさいよ冗談じゃないぞ何でオレなんだアンタ世帯主でしょしっかりしなさいわかったオレが言うよどうぞどうぞ、という実にわかりやすいアイコンタクト。
「実は……」
父さんが話の口火を切った時、
「ちょっと待った!」
あたしは慌ててストップをかけた。
「もしかして、今からすっごい重たい話するの?」
同時に頷く二人。
どうやら避けて通れそうもない。
「わかった。……じゃあ、その前にコレ食べちゃうから」
重い話を聞いた後で高カロリーの牛丼を平らげる自信がない。
あたしは味も咀嚼もあきらめて、一気に器を空にして麦茶を飲み干してから「どうぞ」と覚悟を決める。
「入果にはすまないと思っている」
え、いきなり謝罪から?
眉間にシワを寄せながらうつむいて喋る父さん。
ダメだ。緊張に堪えられない。
このままだと食べたばかりの牛丼が逆流しそうだ。
場を和ませるべく仕掛けてみる。
「父さんの会社が倒産とか? あははははははは……」
「……」
「……」
二人とも笑ってくれないし、ツッコミも放棄。
やってしまった痛恨のツンドラマジック。
重い上に寒い空気まで作ってどーするあたし!
激ヤバだって。緊張と羞恥心で死にそう。
トイレへ避難しようと思ったところに、父さんが話を再開させる。
「どんなに責められても弁解するつもりはない。入果の決断を尊重するとオレ達は決めたから」
「は、はい」
あたしは続きを待った。
けれども、父さんは組んだ両手をモジモジさせて口は真一文字のまま。
「……え、それで終わり?」
「いや、終わりじゃない」
父さんはチラッと前を見る。
その視線をかわした母さん、助け舟を出す気など更々なさそうだ。
「そんなに言いにくいことなの?」
気まずそうに頷く父さん。
ピーンとカンが働く。
これはアレだ……女だな。
確かに、父さんは娘のあたしから見てもそこそこカッコイイ。
ハゲてないしおなかもそんなに出てない。
加齢臭もないし足もそこまで臭くない。
欠点を挙げるとすれば、いくら放出しても果てることのない無尽蔵なオナラとゲップくらいだけど、浮気相手にまさかそこまで自分を晒さないだろうから、外見だけなら女の人は簡単に騙されるかもしれない。
平静を装って言ってやる。
「そっか。不倫したんだね。サイテー」
けれども、あたしのその言葉に、父さんだけでなく何故か母さんもビクッと反応した。
「え……?」
見る見るうちに、母さんの顔が服の色と同じ真っ赤に染まってく。
まさか? 相手はフラメンコ教室のスペイン人かあ?
ちょっと……ちょっとちょっとちょっとちょっとちょっと……ブチッ!
「ちょっとおおおおおおおおおおおおおおぉ――ッ! 二人して何やってんのよおおおぉ――ッ!」
大声出しすぎて牛丼少し口から出ちゃったけど、そんなのどーでもいい!
「何か言ったらッ? 否定して『夜中に大声出すな!』って叱ってあたしにビンタして『もう寝ろ』って言ってよッ! マジあり得ないってッ! 片っぽだけでも受け入れらんないのにダブルで不倫なんてドロドロの昼ドラ再現じゃん!」
思わず立ち上がる。
腹が立って、おもいきりテーブルをバンと叩く。
その衝撃で右肩にビリビリ電気が走った。
深く頭を垂れたまま、父さんも母さんもあたしの顔を見ようともしない。
知らなかった。
全然疑ったことさえない。
昔はしょっちゅう口喧嘩してた二人だけど、ここんとこその喧嘩もなかったし、むしろ仲のいい夫婦だと思ってて友達に自慢したくらいだった。
あたしがインターハイ出場決めた時なんてホテルの食事でお祝いしてくれたし、御褒美にずっと欲しかったお掃除ロボット(ルンルンと命名)も買ってくれたし…… あの時、水泳続けてホントによかったと思った。
二人の喜ぶ顔が見れたから、あたしは右肩が壊れてもその時ばかりは後悔しなかった。
インターハイに強行出場してひどいタイムで犬掻きゴールした時も満足感でいっぱいだったし。
馬鹿だね、あたし。
あの満足感に浸ってた時だって、二人はそれぞれ好き勝手やってたんだ。
作り物の笑顔であたしを祝福して欺きの家庭を維持してた。
右肩の痛みに堪えてリハビリしてる娘に同情しながら、二人は不潔で淫らな時間を過ごしてたんだ……。ホント鬼だわ。
涙は出ない。まだ現実とは思えないから。
あたしはゆっくり座り直して、フゥーッと息を吐く。
結局、扇風機はこっちに向けられたまま。
どうやら、暑いと思ってるのはあたしだけみたい。
「ねえ、マジのマジなの?」
父さんと母さんが目を合わして同時に頷く。
この二人、さっきから息ピッタリだ。なのに何で不倫なんかしたんだろ?
「じゃ、まだ他に言うべきことあるでしょ? あたしにばっか喋らせないでさ?」
「入果」
父さんがあたしの名前を呼ぶ。
ものすごい遠いところから聞こえるカンジがする。
「父さん達、離婚するんだ」
赤のワンピース? 情熱の国に感化されたか。
化粧もシンクロみたく気合い入ってるし、いよいよスペインぽくなってきたな。
「イル、ごめんね。おなか空いてるでしょ?」
あたしに気づいて、母さんが椅子から立ち上がる。
「まぁね。てか、扇風機くらいつけなよ。暑いって」
言われた通り、母さんが扇風機をつけてあたしに風を送る。
敬老の日、気温だけはまだまだ夏だ。
「首振りでいいよ」
喉が渇いたから、冷蔵庫から麦茶を出してグラスに注いで一気にそれを飲む。
考えてみれば、あたしはドリンクなしであのビックサイズのポテトチップスを平らげてた。喉がカラカラなのも頷ける。
麦茶一杯じゃ足らないから、もう一杯注いでから椅子に座る。
「着替えたら? それと、早く何か作ってほしいんだけど」
「遅くなったからコンビニで牛丼買ってきたの。今、あっためるから」
ポテチの後にチルドの牛丼……。
「オレのは……ないよな?」
パジャマ姿の父さんが背後で呟く。
母さんの代わりに電子レンジがチンと返事する。「ない」って。
「はい、どうぞ」
胸やけしそうだけど、匂いにつられてあたしは一口それを食べる。
うん、普通にイケる。カロリー配分なんて概念、もうどっか飛んでった。
母さんがあたしの向かいに再び座る。
父さんはあたしの隣に腰掛ける。
それでいて、二人とも食事をする気配はない。
ん?
「……晩ごはん、ひょっとして、あたしだけ?」
「母さん、夕方に食べてきたの」
「オレはまだだけどな」
「あらそう? 作る気もないけど」
「こっちも期待してない。今のは独り言だ」
……な、何だ、この不穏な空気?
あたしは箸を置いて、牛丼を横にスライドさせる。
「父さん、食べていいよ。あたしは激空きってワケじゃないし」
すると、母さんが素早くそれをあたしの前に戻す。
「イルのために買ってきたの。遠慮せずに食べなさい」
父さんも抗議しないで、テーブルの上で両手を組み出した。
何か喋りたそうな雰囲気だけど、それでいて二人とも無言を貫いてる。
あたしは気まずくなって麦茶を口に含む。
グラスをテーブルに置く。
沈黙が続く。
二人揃って下を向いている。
やがて、母さんが顔を上げて「ホラ、冷めるから」と牛丼を勧める。
「何か食べづらいんですけど……」
そこで父さんと母さんが目を合わせる。
オマエが言えアンタこそ言いなさいよ冗談じゃないぞ何でオレなんだアンタ世帯主でしょしっかりしなさいわかったオレが言うよどうぞどうぞ、という実にわかりやすいアイコンタクト。
「実は……」
父さんが話の口火を切った時、
「ちょっと待った!」
あたしは慌ててストップをかけた。
「もしかして、今からすっごい重たい話するの?」
同時に頷く二人。
どうやら避けて通れそうもない。
「わかった。……じゃあ、その前にコレ食べちゃうから」
重い話を聞いた後で高カロリーの牛丼を平らげる自信がない。
あたしは味も咀嚼もあきらめて、一気に器を空にして麦茶を飲み干してから「どうぞ」と覚悟を決める。
「入果にはすまないと思っている」
え、いきなり謝罪から?
眉間にシワを寄せながらうつむいて喋る父さん。
ダメだ。緊張に堪えられない。
このままだと食べたばかりの牛丼が逆流しそうだ。
場を和ませるべく仕掛けてみる。
「父さんの会社が倒産とか? あははははははは……」
「……」
「……」
二人とも笑ってくれないし、ツッコミも放棄。
やってしまった痛恨のツンドラマジック。
重い上に寒い空気まで作ってどーするあたし!
激ヤバだって。緊張と羞恥心で死にそう。
トイレへ避難しようと思ったところに、父さんが話を再開させる。
「どんなに責められても弁解するつもりはない。入果の決断を尊重するとオレ達は決めたから」
「は、はい」
あたしは続きを待った。
けれども、父さんは組んだ両手をモジモジさせて口は真一文字のまま。
「……え、それで終わり?」
「いや、終わりじゃない」
父さんはチラッと前を見る。
その視線をかわした母さん、助け舟を出す気など更々なさそうだ。
「そんなに言いにくいことなの?」
気まずそうに頷く父さん。
ピーンとカンが働く。
これはアレだ……女だな。
確かに、父さんは娘のあたしから見てもそこそこカッコイイ。
ハゲてないしおなかもそんなに出てない。
加齢臭もないし足もそこまで臭くない。
欠点を挙げるとすれば、いくら放出しても果てることのない無尽蔵なオナラとゲップくらいだけど、浮気相手にまさかそこまで自分を晒さないだろうから、外見だけなら女の人は簡単に騙されるかもしれない。
平静を装って言ってやる。
「そっか。不倫したんだね。サイテー」
けれども、あたしのその言葉に、父さんだけでなく何故か母さんもビクッと反応した。
「え……?」
見る見るうちに、母さんの顔が服の色と同じ真っ赤に染まってく。
まさか? 相手はフラメンコ教室のスペイン人かあ?
ちょっと……ちょっとちょっとちょっとちょっとちょっと……ブチッ!
「ちょっとおおおおおおおおおおおおおおぉ――ッ! 二人して何やってんのよおおおぉ――ッ!」
大声出しすぎて牛丼少し口から出ちゃったけど、そんなのどーでもいい!
「何か言ったらッ? 否定して『夜中に大声出すな!』って叱ってあたしにビンタして『もう寝ろ』って言ってよッ! マジあり得ないってッ! 片っぽだけでも受け入れらんないのにダブルで不倫なんてドロドロの昼ドラ再現じゃん!」
思わず立ち上がる。
腹が立って、おもいきりテーブルをバンと叩く。
その衝撃で右肩にビリビリ電気が走った。
深く頭を垂れたまま、父さんも母さんもあたしの顔を見ようともしない。
知らなかった。
全然疑ったことさえない。
昔はしょっちゅう口喧嘩してた二人だけど、ここんとこその喧嘩もなかったし、むしろ仲のいい夫婦だと思ってて友達に自慢したくらいだった。
あたしがインターハイ出場決めた時なんてホテルの食事でお祝いしてくれたし、御褒美にずっと欲しかったお掃除ロボット(ルンルンと命名)も買ってくれたし…… あの時、水泳続けてホントによかったと思った。
二人の喜ぶ顔が見れたから、あたしは右肩が壊れてもその時ばかりは後悔しなかった。
インターハイに強行出場してひどいタイムで犬掻きゴールした時も満足感でいっぱいだったし。
馬鹿だね、あたし。
あの満足感に浸ってた時だって、二人はそれぞれ好き勝手やってたんだ。
作り物の笑顔であたしを祝福して欺きの家庭を維持してた。
右肩の痛みに堪えてリハビリしてる娘に同情しながら、二人は不潔で淫らな時間を過ごしてたんだ……。ホント鬼だわ。
涙は出ない。まだ現実とは思えないから。
あたしはゆっくり座り直して、フゥーッと息を吐く。
結局、扇風機はこっちに向けられたまま。
どうやら、暑いと思ってるのはあたしだけみたい。
「ねえ、マジのマジなの?」
父さんと母さんが目を合わして同時に頷く。
この二人、さっきから息ピッタリだ。なのに何で不倫なんかしたんだろ?
「じゃ、まだ他に言うべきことあるでしょ? あたしにばっか喋らせないでさ?」
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