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水曜日
決戦は水曜日 2
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何事もなかったように午前中が過ぎた。
いつも通りの水曜日だ。
洗濯はうまくいったし、スポーツブラも無事にフィットしてくれてるのは何より。
ただ一つ違うのは弁当がないこと。
母さん、殆ど毎日作ってくれてたもんね……。
当たり前のように食べてたけど、考えてみたら今まで感謝なんてしたことなかったな。後悔しても遅い。
「イルたん、学食? 珍しい」
いつも一緒に食べる玲ちゃんにそう言われて、あたしはエヘヘと笑うだけ。
玲ちゃん達とお弁当のおかず交換……もうできなくなっちゃったな。
いつかはみんなに離婚のこと話さなきゃなんない。
それにしても、両親の仲良し自慢したの一学期だった。
なのに、二学期に離婚てシャレなんないわ。
バイバイと玲ちゃん、美智子、カオリン三人に手を振って教室を出る。
カオリン、何か元気なかったな。応援団に選ばれてちょっとナイーブになってるみたい…って、人のこと心配してる場合か!
寂しさ半分、今日は一人になりたいからちょうどよかったかも。
上の空で一緒にお昼食べたらカンジ悪いしね。
学校の食堂って滅多に利用しないから勝手がわからない。
食券買って受け取り場で出せばよかったっけ?
うーん、何食べよう……。
お昼はまだいい。
今晩、何食べたらいいんだ?
夜に食べられそうもないの頼もうかな。
かつとじ丼? 日替わり定食? うーん、イマイチ……。
券売機の前で頭を悩ませてたらケータイが鳴る。
メールだ。
あたしは列から離れて、端っこでそれを確認する。……ミユキ先生だ!
『先に帰る。映画でも観る。水曜レディースデイとは何たる幸運。校長は校外にいる。地域住民との会合で多分直帰だろう。伝言だ。柔道場の件は木津川先生に一任してあるとのこと。ケケケケケ!』
最後のケケケケケはきっと悪魔の嗤いなんだろな。
優しいんだかドSなんだか……。
簡単にメールを返してケータイをしまう。
やっとあたしから解放されたんだし、ゆっくり気分転換してくださいね。
キヅラガワと接触しなきゃなんないのは憂鬱だけども、ちゃんとお膳立てしてくれた校長先生はナイスだ! 卒業したら菓子折り持って挨拶しなきゃ。
「あれ、瀬戸じゃん?」
振り返ると、ワッシーが驚いた顔して立ってた。
トレイには絢爛な冷やし中華が乗ってる。
「何でこんなとこにオマエがいんの? いつも潮田達と弁当じゃなかったっけ?」
「大きなお世話だって。てか少なっ! 柔道部がそんだけで足りるの?」
「食欲ねーんだよ。それより、オマエは何食うの?」
あたしは正直に「決まってない」と答える。
「学食って去年一回利用しただけだから、何頼んでいいのかわかんないし」
「くだらねえ。食いたいの頼んだらいいじゃん」
そりゃそうだ。言われなくてもわかってる。
ワッシーを無視して、あたしはもう一度列に並び直す。
昨日、二度もミユキ先生のバラエティに富んだお弁当もらったから、食堂のメニュー程度じゃときめかない。
しいて言えば冷やし中華なんだけど、ワッシーとかぶるのヤだから無難にカレーを選んだ。
さてと、どこ座ろうかな。
食堂で席選ぶのってけっこう緊張する。……すごいなあ。みんな、毎日こんな体験してるの?
誰とも喋りたくないから、なるべく知ってる人がいないところがいい。
あ、ヤバッ! 一年水泳部!
しかも男子女子一緒に食べてるし!
……何でよ? そんな繋がりあったんだ。ま、別にいいんだけどさ。
でも、あそこにだけは絶対に行きたくない。
話のネタにされるの目に見えてるし。
幸い、向こうの集団はあたしに気づいてない。
あんまりトレイ持ってウロウロすんのも惨めだし、適当な場所に早く落ち着こう。
窓際へ避難したところ、さっきの冷やし中華野郎の隣が空いてるのを偶然見つけてしまった。……ぼっちメシかよ。あたしもだけど。
もうここでいいや。
ワッシー、さっさと食べてどっか行くだろ。
「座るよ?」
ぶっきらぼうにそう言い放つと、ワッシーは驚いた顔してあたしを見た。
「お、もしかして、オレの横狙ってた?」
「馬鹿! 言っとくけど喋りかけんなよ。あたし、ちょっとディープな考え事するからさ」
そうなのだ。
あたしは放課後になったらあの家に戻って、着替えやら何やら取りに行かなきゃなんない。
母さんと会ってしまったらどう対処していいかわかんないから、その時を想定していろいろ頭の中を整理しておく必要がある。
感情的になって、もうこれ以上母さんと険悪になりたくないしね。……お金、幾らあったかな?
これからキヅラガワとも会わなきゃなんないし気が重い。
はあぁ~と深い溜息をつく。ワッシーが。
え……?
「ちょっと! あたしより先に溜息つかないでくれる?」
ワッシーは「あ?」と、しかめっ面であたしを睨む。
「そんなの知らねーわ! オマエこそオレの世界に入ってくんなよな」
「何よ? アンタなんかでも悩むことあんの?」
「大きなお世話だ。喋りかけるなって言ったオマエがオレに喋りかけてんじゃねーかよ」
その通りだ。悔しい。返す言葉もない。
……あれ?
ワッシーの冷やし中華の色鮮やかな盛りつけがそのままなことに気づいた。
本当に食欲ないのかな?
いいなぁ。アレ食べたい。
ちょうどいい。あたしもまだカレーは一口も食べてない。
「ねえ、ワッシー」
「何だよ? まだ喋んのか? 全然ディープじゃねーじゃん」
「用が済んだら黙るよ。そっちの冷やし中華だけどさ、あたしのカレーと交換したげる」
「は?」
ワッシーは真顔で「どうして?」と訊いてくる。
「馬鹿なの? あたしが冷やし中華を食べたいからに決まってんじゃん」
「確認するけど、それってオマエがオレにお願いしてんだよな?」
「それが何か?」
「何で上から目線なんだ?」
「何よ? たかが冷やし中華で土下座しろっての? いいじゃん。アンタ別に損するワケじゃないし」
「だったら最初から頼んどけよな。オレ言ったじゃんか。『食いたいの頼め』ってさ」
「アンタが頼んでたからマネしたくなかったの。責任とってよ」
「うわ、信じらんねえ! そんなことまでオレのせいにすんのかよ?」
「そうよ。確かにカレーを選んだのはあたし。……でも、やっぱし譲れない。今のこの自分の気持ちを偽りたくないの」
「だからって、何でオレのと交換って発想に繋がるんだ?」
「だって箸つけてないし。食欲ないんでしょ? オッケー! 交渉成立!」
「してねーよ!」
ワッシー、トレイをつかんだあたしの手にチョップ食らわして阻止した。
「確かに食欲ねーけどカレーだって食いたくねーわ。オレんち、昨日カレーだったから」
「家のカレーとは味が全然違うじゃん。それに夏はやっぱカレーだよ? 過ぎゆく夏の思い出に学食カレーをどうぞ」
「断る!」
また同じ部位にチョップ。軽く痛い。
「それ言うんなら冷やし中華は夏限定だからな。カレーなんざ年中食えるわ! 大体、ソレ並で三百円だろ? 冷やし中華は四百四十円するんだ。『損しない』って圧倒的にオレが損するじゃんか!」
「そんなのわかってるって。差額分、ちくわパンで返すからさ」
「いらんわッ!」
そう言ってワッシー、箸で盛りつけをグチャグチャにしてパクッと一口食べてしまいおった。
ガーン……
一気に冷やし中華に対する情熱が冷める。
さよなら、また来年の夏に会おうね。転校しちゃったらダメだけど。
あたしはスプーンで掬ったカレーを口へと運ぶ。
……あ。
考えてみれば、あたしの家も日曜日カレーだったわ。
母さんのカレー、けっこう好きだった。
違うメーカーのルウを混ぜて作る豚肉とナスが入った瀬戸家定番のカレー。
ほどよい甘さが食べやすかった。
ロールキャベツは無理でも、あれくらいなら一人で作れるかも。
母さん、あたしが知らないうちに小田急で麻布まで飛んでサフランライスでパエリア作ったりしてたんだろうな。
口にバラくわえたセニョールに手取り足とり教えてもらいながら……馬鹿! 歳考えろって!
コップの水を飲んであっという間にカレー完食。
食欲なかったけど、朝ワックだけじゃ体育会系女子にはやっぱ足りなかったか。最近、運動不足だけど。
「瀬戸」
「へ?」
いきなりワッシーが喋りかけてきた。
「何よ?」
「やっぱ、コレ食うか?」
ワッシー、ハムとキュウリと錦糸卵とトマトがカオス状態になったグチャグチャの冷やし中華をあたしに勧めてきた。
う……。
一昨日吐いた自分のゲロが一瞬頭によぎる。
「……いらね」
「オレ、やっぱ食欲ねえわ」
「今更遅いわ、馬鹿! あたしだってカレー食べちゃってもう食べれないよ」
「そろそろ『馬鹿』攻撃やめてくんねーか? ナイーブな神経にズカズカ効いてきてる」
ナイーブって誰がよ? カオリンならまだしも……。
「アンタの発言が馬鹿って言わせてんだからね。カレー食べた直後の女子に、残り物の冷やし中華食べさせる男がお利口さんなワケないでしょ?」
「あんなの並盛じゃん。たいした量じゃなかっただろ?」
「そういう問題じゃないって。せめてビジュアル整えて寄こせよ。そうなった以上、もう手遅れだけどさ」
「だよな……」
ワッシー、つまんなさそうに箸を持ったまま自分の世界に入っていった。
昨日、うろこ雲を見てた時とおんなじ顔だ。……マジで元気ないね。
ひょっとして、アンタの世界もディープなの?
昼食を済ませると、食堂に用はない。
「バイバイ」
またも返事はない。
放心状態のワッシーを残して、あたしはその場を離れる。
いつも通りの水曜日だ。
洗濯はうまくいったし、スポーツブラも無事にフィットしてくれてるのは何より。
ただ一つ違うのは弁当がないこと。
母さん、殆ど毎日作ってくれてたもんね……。
当たり前のように食べてたけど、考えてみたら今まで感謝なんてしたことなかったな。後悔しても遅い。
「イルたん、学食? 珍しい」
いつも一緒に食べる玲ちゃんにそう言われて、あたしはエヘヘと笑うだけ。
玲ちゃん達とお弁当のおかず交換……もうできなくなっちゃったな。
いつかはみんなに離婚のこと話さなきゃなんない。
それにしても、両親の仲良し自慢したの一学期だった。
なのに、二学期に離婚てシャレなんないわ。
バイバイと玲ちゃん、美智子、カオリン三人に手を振って教室を出る。
カオリン、何か元気なかったな。応援団に選ばれてちょっとナイーブになってるみたい…って、人のこと心配してる場合か!
寂しさ半分、今日は一人になりたいからちょうどよかったかも。
上の空で一緒にお昼食べたらカンジ悪いしね。
学校の食堂って滅多に利用しないから勝手がわからない。
食券買って受け取り場で出せばよかったっけ?
うーん、何食べよう……。
お昼はまだいい。
今晩、何食べたらいいんだ?
夜に食べられそうもないの頼もうかな。
かつとじ丼? 日替わり定食? うーん、イマイチ……。
券売機の前で頭を悩ませてたらケータイが鳴る。
メールだ。
あたしは列から離れて、端っこでそれを確認する。……ミユキ先生だ!
『先に帰る。映画でも観る。水曜レディースデイとは何たる幸運。校長は校外にいる。地域住民との会合で多分直帰だろう。伝言だ。柔道場の件は木津川先生に一任してあるとのこと。ケケケケケ!』
最後のケケケケケはきっと悪魔の嗤いなんだろな。
優しいんだかドSなんだか……。
簡単にメールを返してケータイをしまう。
やっとあたしから解放されたんだし、ゆっくり気分転換してくださいね。
キヅラガワと接触しなきゃなんないのは憂鬱だけども、ちゃんとお膳立てしてくれた校長先生はナイスだ! 卒業したら菓子折り持って挨拶しなきゃ。
「あれ、瀬戸じゃん?」
振り返ると、ワッシーが驚いた顔して立ってた。
トレイには絢爛な冷やし中華が乗ってる。
「何でこんなとこにオマエがいんの? いつも潮田達と弁当じゃなかったっけ?」
「大きなお世話だって。てか少なっ! 柔道部がそんだけで足りるの?」
「食欲ねーんだよ。それより、オマエは何食うの?」
あたしは正直に「決まってない」と答える。
「学食って去年一回利用しただけだから、何頼んでいいのかわかんないし」
「くだらねえ。食いたいの頼んだらいいじゃん」
そりゃそうだ。言われなくてもわかってる。
ワッシーを無視して、あたしはもう一度列に並び直す。
昨日、二度もミユキ先生のバラエティに富んだお弁当もらったから、食堂のメニュー程度じゃときめかない。
しいて言えば冷やし中華なんだけど、ワッシーとかぶるのヤだから無難にカレーを選んだ。
さてと、どこ座ろうかな。
食堂で席選ぶのってけっこう緊張する。……すごいなあ。みんな、毎日こんな体験してるの?
誰とも喋りたくないから、なるべく知ってる人がいないところがいい。
あ、ヤバッ! 一年水泳部!
しかも男子女子一緒に食べてるし!
……何でよ? そんな繋がりあったんだ。ま、別にいいんだけどさ。
でも、あそこにだけは絶対に行きたくない。
話のネタにされるの目に見えてるし。
幸い、向こうの集団はあたしに気づいてない。
あんまりトレイ持ってウロウロすんのも惨めだし、適当な場所に早く落ち着こう。
窓際へ避難したところ、さっきの冷やし中華野郎の隣が空いてるのを偶然見つけてしまった。……ぼっちメシかよ。あたしもだけど。
もうここでいいや。
ワッシー、さっさと食べてどっか行くだろ。
「座るよ?」
ぶっきらぼうにそう言い放つと、ワッシーは驚いた顔してあたしを見た。
「お、もしかして、オレの横狙ってた?」
「馬鹿! 言っとくけど喋りかけんなよ。あたし、ちょっとディープな考え事するからさ」
そうなのだ。
あたしは放課後になったらあの家に戻って、着替えやら何やら取りに行かなきゃなんない。
母さんと会ってしまったらどう対処していいかわかんないから、その時を想定していろいろ頭の中を整理しておく必要がある。
感情的になって、もうこれ以上母さんと険悪になりたくないしね。……お金、幾らあったかな?
これからキヅラガワとも会わなきゃなんないし気が重い。
はあぁ~と深い溜息をつく。ワッシーが。
え……?
「ちょっと! あたしより先に溜息つかないでくれる?」
ワッシーは「あ?」と、しかめっ面であたしを睨む。
「そんなの知らねーわ! オマエこそオレの世界に入ってくんなよな」
「何よ? アンタなんかでも悩むことあんの?」
「大きなお世話だ。喋りかけるなって言ったオマエがオレに喋りかけてんじゃねーかよ」
その通りだ。悔しい。返す言葉もない。
……あれ?
ワッシーの冷やし中華の色鮮やかな盛りつけがそのままなことに気づいた。
本当に食欲ないのかな?
いいなぁ。アレ食べたい。
ちょうどいい。あたしもまだカレーは一口も食べてない。
「ねえ、ワッシー」
「何だよ? まだ喋んのか? 全然ディープじゃねーじゃん」
「用が済んだら黙るよ。そっちの冷やし中華だけどさ、あたしのカレーと交換したげる」
「は?」
ワッシーは真顔で「どうして?」と訊いてくる。
「馬鹿なの? あたしが冷やし中華を食べたいからに決まってんじゃん」
「確認するけど、それってオマエがオレにお願いしてんだよな?」
「それが何か?」
「何で上から目線なんだ?」
「何よ? たかが冷やし中華で土下座しろっての? いいじゃん。アンタ別に損するワケじゃないし」
「だったら最初から頼んどけよな。オレ言ったじゃんか。『食いたいの頼め』ってさ」
「アンタが頼んでたからマネしたくなかったの。責任とってよ」
「うわ、信じらんねえ! そんなことまでオレのせいにすんのかよ?」
「そうよ。確かにカレーを選んだのはあたし。……でも、やっぱし譲れない。今のこの自分の気持ちを偽りたくないの」
「だからって、何でオレのと交換って発想に繋がるんだ?」
「だって箸つけてないし。食欲ないんでしょ? オッケー! 交渉成立!」
「してねーよ!」
ワッシー、トレイをつかんだあたしの手にチョップ食らわして阻止した。
「確かに食欲ねーけどカレーだって食いたくねーわ。オレんち、昨日カレーだったから」
「家のカレーとは味が全然違うじゃん。それに夏はやっぱカレーだよ? 過ぎゆく夏の思い出に学食カレーをどうぞ」
「断る!」
また同じ部位にチョップ。軽く痛い。
「それ言うんなら冷やし中華は夏限定だからな。カレーなんざ年中食えるわ! 大体、ソレ並で三百円だろ? 冷やし中華は四百四十円するんだ。『損しない』って圧倒的にオレが損するじゃんか!」
「そんなのわかってるって。差額分、ちくわパンで返すからさ」
「いらんわッ!」
そう言ってワッシー、箸で盛りつけをグチャグチャにしてパクッと一口食べてしまいおった。
ガーン……
一気に冷やし中華に対する情熱が冷める。
さよなら、また来年の夏に会おうね。転校しちゃったらダメだけど。
あたしはスプーンで掬ったカレーを口へと運ぶ。
……あ。
考えてみれば、あたしの家も日曜日カレーだったわ。
母さんのカレー、けっこう好きだった。
違うメーカーのルウを混ぜて作る豚肉とナスが入った瀬戸家定番のカレー。
ほどよい甘さが食べやすかった。
ロールキャベツは無理でも、あれくらいなら一人で作れるかも。
母さん、あたしが知らないうちに小田急で麻布まで飛んでサフランライスでパエリア作ったりしてたんだろうな。
口にバラくわえたセニョールに手取り足とり教えてもらいながら……馬鹿! 歳考えろって!
コップの水を飲んであっという間にカレー完食。
食欲なかったけど、朝ワックだけじゃ体育会系女子にはやっぱ足りなかったか。最近、運動不足だけど。
「瀬戸」
「へ?」
いきなりワッシーが喋りかけてきた。
「何よ?」
「やっぱ、コレ食うか?」
ワッシー、ハムとキュウリと錦糸卵とトマトがカオス状態になったグチャグチャの冷やし中華をあたしに勧めてきた。
う……。
一昨日吐いた自分のゲロが一瞬頭によぎる。
「……いらね」
「オレ、やっぱ食欲ねえわ」
「今更遅いわ、馬鹿! あたしだってカレー食べちゃってもう食べれないよ」
「そろそろ『馬鹿』攻撃やめてくんねーか? ナイーブな神経にズカズカ効いてきてる」
ナイーブって誰がよ? カオリンならまだしも……。
「アンタの発言が馬鹿って言わせてんだからね。カレー食べた直後の女子に、残り物の冷やし中華食べさせる男がお利口さんなワケないでしょ?」
「あんなの並盛じゃん。たいした量じゃなかっただろ?」
「そういう問題じゃないって。せめてビジュアル整えて寄こせよ。そうなった以上、もう手遅れだけどさ」
「だよな……」
ワッシー、つまんなさそうに箸を持ったまま自分の世界に入っていった。
昨日、うろこ雲を見てた時とおんなじ顔だ。……マジで元気ないね。
ひょっとして、アンタの世界もディープなの?
昼食を済ませると、食堂に用はない。
「バイバイ」
またも返事はない。
放心状態のワッシーを残して、あたしはその場を離れる。
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