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金曜日
水着で金曜日 7
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あたしはカバンの中のスク水を探る。
競泳用は今日使ってまだ干してる最中だけど、スク水なら……あれ、見つかんないな。
どうしよ……一瞬だけ電気つけちゃおっかな。
どうせ暗いまんまじゃ着れないしね。
えーい、かまうもんか!
電気をつけてスク水を見つける。
服を脱いでそれを身に着けたあたしは再び電気を消して、畳の上で入念にストレッチをした。
できるだけ体をあっためとかないといけない。
外、寒いだろうな。水温も……。
そう。これからあたしは夜中のプールに侵入する!
そして泳ぐ!
時刻は十時を少し回ったところ……コレ見つかったらシャレなんないだろうな。
うん、そん時はそん時だ!
あたしはワッシーから絶大なパワーをもらった。
あたしはあたしで在り続ける……泳げない、水が怖い、居場所がない……。
そんなのあたしじゃない。
ポテチはやめられても水泳だけはやっぱりやめられない。
泳法はこだわらない。
泳げないなら犬掻きでも何でもいい。
ワッシーが言いたかったことって、夜中にプールに入れってことじゃない。
それくらいはいくら馬鹿でもわかってる。
でも、あたしはこの方法でワッシー理論を実証しようと試みる。
ただし、順序は逆。
焦ってるこの自分をまず何とかしたい。
明日が来るまでに何とか……
そうだな、目標百メートル泳ぐ。
そして自信を取り戻す。
自信を取り戻したら自ずと結果は出てくると思う。
あの人達を許す許さないは別として。
*
七月だったかな。
日曜の部活に出たあたし達、あまりの暑さに鍵持ってくるノン様が待てなくてフェンスを乗り越えてプールサイドに入ったことがある。
フェンスの鍵部分がいい足場になってて、あたし達全員簡単に侵入できた。
……後でノン様にこっぴどく叱られちゃったのは、今となってはいい思い出。
真っ暗だけど、月明かりだけでも何とかなるもんだ。
体育館を出たあたしはダッシュでプールに移動する。
うううううぅ、やっぱ寒い。
九月の夜中にプールなんて入るもんじゃない。
……一時間は無理かな。三十分が限界かもしれない。
忍者のように颯爽とフェンスを乗り越えて、シャワー室でスニーカーを脱ぐ。
と、ここまではよかった。
塩素水に足をつけてシャワー浴びた途端に気持ちが萎えた。
冷たいなんてもんじゃない。
凍え死ぬ!
プールサイドでセームをまとってガクガク震える。
水温はどうだろ?
手を突っ込むと絶望的な気分になった。
でも、こんなところで躊躇してたらどんどん体温が下がってしまう。
心臓に水をあててあたしはチャポンとプールに潜る。
確かに冷たい。
でも、慣れれば凍え死ぬほどでもない。
シリコンキャップだけでゴーグルはしない。
そこまで本格的に泳ぐわけじゃないから、飛び込みもやめとこう。暗いし危ない。
目的はあくまで百メートル泳ぐのみ!
一応、水の中で右腕を動かしてみる。
……う~ん、やっぱバタフライは無謀だ。
水泳肩に悩んでる人ってバタフライと自由形の選手が多い。
背泳ぎもおもいっきり腕を使う。
……じゃ、平泳ぎ? やってみよう。
まずは二十五メートルを目指して泳いでみる。
最初は順調だった。
平泳ぎはスピードが出ない。
ストロークをする度に痛みが増すのは覚悟してたけど、その割に全然距離が稼げてない。
ダメだ!
あたしはタッチ直前で早めにあきらめた。百メートルなんてとても無理。
こんなことしても水泳肩を悪化させるだけだ。
平泳ぎがダメならもう犬掻きしかない。
……いや、ちょっと保留。
比較的ラクに泳げる平泳ぎができないのは、あたしが右肩を痛めてるから。
じゃあ、右肩をなるべく使わない泳ぎ方ってないのかな?
犬掻きなんてムチャクチャ使う割に全然進まないし。
あ、あった! 意外とクロール!
右腕を最小限だけ動かして左腕メインで泳げば、百メートルくらい簡単かも。
右腕はバランスを取るだけ。プルもリカバリーもなし。
スピードは期待できない。
だけど、右腕が痛くなければ問題ないし、自分のペースで息継ぎできるから大丈夫。
何でこんな単純なことに気づかなかったんだろう……。
水泳肩だからバタフライとクロールを同列に考えてしまったからかな?
バタフライは両腕を同時に使う。
クロールは別々……全然違う。
そりゃ片腕クロールじゃ勝負にはなんないけど、タダのスイマーならば全然アリ。
そう、あたしはスイマーでありたい。
競技者である前に一人のスイマーなんだ。
泳げさえすればいい。
今は大好きなバタフライ封印。
水を怖がらず仲良しのまま、あたしはこの夏を終わらせたい。
片腕クロール……やってみて思い出した。
コレ、前にやったことある!
遠い遠い昔、あのスイミングスクールでマリエと遊びながらいろんなことを試してた。
二人ともバタフライがなかなかできなくて、それでも毎日が楽しくて、練習の後にあたしとマリエ、母さんとマリエのお母さんと四人で食べたピザ……懐かしい。
dolphinの入果
marineのマリエ
あの頃に戻りたいとは思わない。
ただ、どうしてあたし達はあの時間をそのまま現在にスライドさせることができなかったんだろう。
みんなバラバラになるなんて、あの時のあたしは想像してなかった。
時は流れて過去が腐る。
それを考えるととても哀しい。
あたしとマリエと母さんとマリエのお母さん、仲の良い四人だったのにな。
それぞれの家でお誕生会とかさ、八景島の水族館行ったり東京観光したり……。
今のあたし、どれくらいターンしただろう。
わかんない。
とっくに百メートルなんて超えてる。
仲が良かった頃のあたしとマリエのこと考えてたら、もう無心で泳いでた。
さよなら、マリエ……。
多分、あたしはもうあなたを思い出さない。
そして、ありがとう。
あたしはこの先もずっと泳いでる。
あなたに出会えたから、あたしは今もあたしで在り続けられるんだよ。
競泳用は今日使ってまだ干してる最中だけど、スク水なら……あれ、見つかんないな。
どうしよ……一瞬だけ電気つけちゃおっかな。
どうせ暗いまんまじゃ着れないしね。
えーい、かまうもんか!
電気をつけてスク水を見つける。
服を脱いでそれを身に着けたあたしは再び電気を消して、畳の上で入念にストレッチをした。
できるだけ体をあっためとかないといけない。
外、寒いだろうな。水温も……。
そう。これからあたしは夜中のプールに侵入する!
そして泳ぐ!
時刻は十時を少し回ったところ……コレ見つかったらシャレなんないだろうな。
うん、そん時はそん時だ!
あたしはワッシーから絶大なパワーをもらった。
あたしはあたしで在り続ける……泳げない、水が怖い、居場所がない……。
そんなのあたしじゃない。
ポテチはやめられても水泳だけはやっぱりやめられない。
泳法はこだわらない。
泳げないなら犬掻きでも何でもいい。
ワッシーが言いたかったことって、夜中にプールに入れってことじゃない。
それくらいはいくら馬鹿でもわかってる。
でも、あたしはこの方法でワッシー理論を実証しようと試みる。
ただし、順序は逆。
焦ってるこの自分をまず何とかしたい。
明日が来るまでに何とか……
そうだな、目標百メートル泳ぐ。
そして自信を取り戻す。
自信を取り戻したら自ずと結果は出てくると思う。
あの人達を許す許さないは別として。
*
七月だったかな。
日曜の部活に出たあたし達、あまりの暑さに鍵持ってくるノン様が待てなくてフェンスを乗り越えてプールサイドに入ったことがある。
フェンスの鍵部分がいい足場になってて、あたし達全員簡単に侵入できた。
……後でノン様にこっぴどく叱られちゃったのは、今となってはいい思い出。
真っ暗だけど、月明かりだけでも何とかなるもんだ。
体育館を出たあたしはダッシュでプールに移動する。
うううううぅ、やっぱ寒い。
九月の夜中にプールなんて入るもんじゃない。
……一時間は無理かな。三十分が限界かもしれない。
忍者のように颯爽とフェンスを乗り越えて、シャワー室でスニーカーを脱ぐ。
と、ここまではよかった。
塩素水に足をつけてシャワー浴びた途端に気持ちが萎えた。
冷たいなんてもんじゃない。
凍え死ぬ!
プールサイドでセームをまとってガクガク震える。
水温はどうだろ?
手を突っ込むと絶望的な気分になった。
でも、こんなところで躊躇してたらどんどん体温が下がってしまう。
心臓に水をあててあたしはチャポンとプールに潜る。
確かに冷たい。
でも、慣れれば凍え死ぬほどでもない。
シリコンキャップだけでゴーグルはしない。
そこまで本格的に泳ぐわけじゃないから、飛び込みもやめとこう。暗いし危ない。
目的はあくまで百メートル泳ぐのみ!
一応、水の中で右腕を動かしてみる。
……う~ん、やっぱバタフライは無謀だ。
水泳肩に悩んでる人ってバタフライと自由形の選手が多い。
背泳ぎもおもいっきり腕を使う。
……じゃ、平泳ぎ? やってみよう。
まずは二十五メートルを目指して泳いでみる。
最初は順調だった。
平泳ぎはスピードが出ない。
ストロークをする度に痛みが増すのは覚悟してたけど、その割に全然距離が稼げてない。
ダメだ!
あたしはタッチ直前で早めにあきらめた。百メートルなんてとても無理。
こんなことしても水泳肩を悪化させるだけだ。
平泳ぎがダメならもう犬掻きしかない。
……いや、ちょっと保留。
比較的ラクに泳げる平泳ぎができないのは、あたしが右肩を痛めてるから。
じゃあ、右肩をなるべく使わない泳ぎ方ってないのかな?
犬掻きなんてムチャクチャ使う割に全然進まないし。
あ、あった! 意外とクロール!
右腕を最小限だけ動かして左腕メインで泳げば、百メートルくらい簡単かも。
右腕はバランスを取るだけ。プルもリカバリーもなし。
スピードは期待できない。
だけど、右腕が痛くなければ問題ないし、自分のペースで息継ぎできるから大丈夫。
何でこんな単純なことに気づかなかったんだろう……。
水泳肩だからバタフライとクロールを同列に考えてしまったからかな?
バタフライは両腕を同時に使う。
クロールは別々……全然違う。
そりゃ片腕クロールじゃ勝負にはなんないけど、タダのスイマーならば全然アリ。
そう、あたしはスイマーでありたい。
競技者である前に一人のスイマーなんだ。
泳げさえすればいい。
今は大好きなバタフライ封印。
水を怖がらず仲良しのまま、あたしはこの夏を終わらせたい。
片腕クロール……やってみて思い出した。
コレ、前にやったことある!
遠い遠い昔、あのスイミングスクールでマリエと遊びながらいろんなことを試してた。
二人ともバタフライがなかなかできなくて、それでも毎日が楽しくて、練習の後にあたしとマリエ、母さんとマリエのお母さんと四人で食べたピザ……懐かしい。
dolphinの入果
marineのマリエ
あの頃に戻りたいとは思わない。
ただ、どうしてあたし達はあの時間をそのまま現在にスライドさせることができなかったんだろう。
みんなバラバラになるなんて、あの時のあたしは想像してなかった。
時は流れて過去が腐る。
それを考えるととても哀しい。
あたしとマリエと母さんとマリエのお母さん、仲の良い四人だったのにな。
それぞれの家でお誕生会とかさ、八景島の水族館行ったり東京観光したり……。
今のあたし、どれくらいターンしただろう。
わかんない。
とっくに百メートルなんて超えてる。
仲が良かった頃のあたしとマリエのこと考えてたら、もう無心で泳いでた。
さよなら、マリエ……。
多分、あたしはもうあなたを思い出さない。
そして、ありがとう。
あたしはこの先もずっと泳いでる。
あなたに出会えたから、あたしは今もあたしで在り続けられるんだよ。
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