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第6章  ダンジョンが足んない

ダンジョンが足んない 1

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 その日、寝不足の僕は学校で居眠りして、トイレで白いの出して、ティッシュ一箱分をダストシュートでポイしてまた居眠りして、横山さんが作ってくれたお弁当食べてまた居眠りして……要は本能でしか行動してない。
 花子さんはああ言ってくれたけれど、これじゃ学校へ来る意味なんてまるでない。

 居眠りしながらも、僕の頭の中は終始ダンジョンでいっぱいだった。
 あの秘密の地下室で花子さんが話してくれた内容が、この僕をすっかり虜にしてしまった。

 勿論、遊びにいくワケじゃない。
 失敗すれば必ず死んでしまう。
 にもかかわらず、片時も頭から離れなかった。

 それくらい魅力的だったんだ。ダンジョンという響きが!
 
 猫助に地下室の更なる抜け穴を初めて見せられた時、僕は胸をときめかせた。
 ゲームみたいな世界が僕を待ってる……そんな期待は見事に裏切られたけど、あの低級魔界にはちゃんとしたダンジョンがあったんだ。それが僕には嬉しい。
 
 そして、そこにはが隠されてることも。





「おぼっちゃま、お帰りなさいませ」

 いつものように横山さんが出迎えてくれる。
 今朝、いろいろ僕に話しかけてきたけど、睡魔と格闘中だったので殆ど覚えてない。
 それは横山さんにも伝わってて、途中で何も話さなくなった。

 ただ、「鍵が必要でしたらまたお申しつけください」とだけ言ったのを覚えてる。

 鍵か……。

 もうあそこに行く用もなくなっちゃったんだよな。リップアーマーの製造がしばらく中止になったから。

 でも、花子さんは約束してくれた。
 黙ってダンジョンには行かない、行く時は絶対に知らせるって……。


 その時は僕も行く。

 
 だって僕はその当事者なんだし、それにそのダンジョンは特殊なんだ。
 
 人数が少なければ少ないほど、ダンジョン内のフロアも少ないらしい。
 三人でそのダンジョンに入れば地下三階、十人で入れば地下十階と人数分のフロアが用意されるんだけど、その各フロアに一つずつ、パーティの一人を惑わす魔法が用意されてるんだ。
 
 そして一番危険なのはそこに一人で行くこと。
 
 そこに一人で行ったら地下一階しか存在しない。
 そんなのダンジョンとは呼べない。タダの地下室じゃん、超楽勝かと思いきや決してそうじゃない。
 命知らずのハーフ・インキュバス、ハーフ・サキュバスはトラップにかかって、そのダンジョンとは呼べない地下室に喰われてしまってる。
 ダンジョンを制覇した者は当然今までいないけど、中でも一人で行けば生還率はゼロという結果が出てるんだって。

 それは花子さんや猫助、それにこれまで前任のリップアーマー製作者が副材調達時に仕入れた情報で、場所は孤児院の地下ということまではわかってる。
 夢魔と人間の間に産まれた半悪魔――ハーフ・インキュバスとハーフ・サキュバスを14歳まで保護する施設……そして本来ならこの僕もそこで育つ筈だった場所だ。

 興味は尽きない。

 今のこの平凡で退屈な生活の中、僕にはダンジョンという魅惑的な部分が足んない。
 このまま白いの出してティッシュを消費し続けるだけの青春なんてごめんだ!

 そうだ。
 横山さんはダンジョンのこと知ってるのかな? いまだに低級魔界のこと喋んないけど。

 そんなことをずっと考えてたら、横山さんはおもいっきり現実的な話題で僕のロマンをぶち壊してきた。

「おぼっちゃま、これは昨夜お話を伺った分のお金でございます」

 薄い茶封筒を手渡される。

 僕は中身も見ないまま、それを横山さんに返した。

「ありがとう。でももう必要じゃなくなったんだ」
「……どういうことでございますか?」
「そのメイドさんに言われたんだよ。弁償しなくていい、眼鏡は割れたまま使うからって」

 横山さんは小首を傾げつつもそれ以上は問いたださなかった。ありがたい。

「そのメイドかどうかは存じませんが」

 そう前置きして、

「不思議なこともあるもんですな。『拓海様のお部屋を掃除させてください』と申し出た者がありました。おぼっちゃまの身の回りはこの爺めの役目なので断りましたが、あまりにしつこいのでとうとう任せてしまいましたぞ」
「え、誰なのソレ?」
「わかりません。何せ、あのものものしい服ですからな。それにこの爺めもおぼっちゃま同様、メイドの顔を知らないのです」

 誰だろう。花子さんかな。


 それとも……。






 部屋に戻ると、すっかり食べなくなった節分豆の袋に挟まれて、折り畳まれた便箋を見つけた。



 やっぱり!




 望海ちゃんからだった。



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