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第8章  リーダーシップが足んない

リーダーシップが足んない 2

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 花子さんが望海ちゃんの横に下がり、「どうぞ」と自分がさっきまでいた立ち位置を僕に譲る。

「え……いや、でも……」

 僕が躊躇してたら、

「さっさと行くのにゃん!」

 後ろの猫助が僕の背中をドーンと押した。
 つんのめって飛べない鳥みたいに両腕バタバタさせてバランスを保とうとするも、結局は派手にズッコけてしまった。
 カカカと笑う望海ちゃんはいいとして、ニャハハハと笑う猫助だけは許せない!

「オマエがやっといて笑うな!」
「どうせコケるんなら、すぐコケればいいにゃんよ?」
「コケ方じゃない! 押すなって言ってんだ! ――白衛門、何で黙って突っ立ってんだよ? オマエの主人が倒されてんだぞ?」
「今のは愛嬌でござる。暴力ではござらん」

 そういう意味じゃなくて、恥掻かされたんだぞ……って、もういいや。
 よく考えたら、女の子に倒されたくらいでティッシュの怪物に「仇を討て」と命令する方がよっぽど恥ずかしい。
 そう思いながら立ち上がって、この僕を仕切り役に指名した花子さんを見る。

「何ですか、その行き場を失ったズブ濡れの仔犬みたいな瞳は?」

 冷たい言い方だよな。無表情だから余計に傷つく。

「だって、いきなり後を任されても……僕はこの世界のこと殆ど知らないんですよ?」
「拓海様に低級魔界の説明をしてもらおうとは思っていません。どうか、この私達を一つにしてほしいのです」
「えッ、ぼ、僕がッ? む、無理無理無理無理無理無理ッ!」

「あぁン?」

 いきなり望海ちゃんが般若ヅラで絡んでくる。

「オメー、何を今更そんなフザけたこと抜かしてやがんだァ!」
「な、何だよ?」
「記憶力ねーのか? オメー、エラそうにドヤ顔でウチに言ったじゃねーか! 『キミをパーティから外す。だって僕はリーダーなんだぞ、エヘン!』ってな!」
 
 ほっぺ膨らませて腰に手をあてて……もしかして、ソレって僕の真似?

「確かにそう言ったけど、それは僕が立場的にここの王子だからであって、リーダーになるのはもっとみんなに助けてもらった後のことだよ。今はとても無理!」
「都合のいいこと言ってじゃねーよ! 面倒なのはイヤ、でも最後のオイシイとこだけもらうって、とんだワガママボーイだな!」

 ワガママボーイ……

 何、そのネーミングセンス……ちょっとウケる。

「あ? 今オメー、笑いやがったな?」
「ほら、花子さん! こんな狂暴な熊パンダ、どう考えても僕なんかが指揮できないですよ?」

 
 ピキーンと何かがキレた音。


 ヤバイ、そう思った瞬間にはオデコに怒りマークつけた望海ちゃんが猪突猛進で僕に……と、思ったら、白衛門が盾になって守ってくれた。

「これは暴力でござるな!」
「ぎゃああああああああああああァ――ッ! き、汚いィィィィ!」

 イノシシは急に止まれない。
 涙目の望海ちゃん、僕の白いのとティッシュとで成立してるスペル魔にそのまま突っ込んでいく。飛べない鳥みたいに両腕バタバタさせて。
 
 ……嬉しくないな、こんな鎮圧法。
 二人の遺恨深まるだけだし。


 口から泡吹いて倒れてる望海ちゃんは白衛門と猫助に任せ、僕は花子さんに詰め寄る。

「見たでしょう? 僕はまだリーダーのうつわじゃない。ここは年功序列で花子さんが仕切るべきです」

 無表情の花子さんはおもむろに首を横に振る。

「拓海様は咲柚様の統一計画を耳にした筈ですが?」
「え、ああ……一応は。壮大過ぎてよくわかんなかったですけど」
「拓海様に絶対服従の白衛門様は別として、この洞窟内にはたった三人の女しかいません。……拓海様は将来、人間界と低級魔界を束ねる御仁なのですよ?」
「そ、それは咲柚さんが勝手に……」
「だとしてもです。拓海様は自ら統治の王冠クラウンを手に入れるため、この冒険に名乗り出ました。それは何故です?」

 言葉に詰まる。

「答えてください」

 う、威圧的……。
 もはやこの段階で、パーティのリーダーは花子さんじゃないのか?

「人間界のためです。花子さん達がリップアーマーの副材を安全に調達できるように」
「小さいです」
「小さい?」
「そんな物、私達がいなくても咲柚様の力を持ってすれば簡単に入手できます。そんな小さいことを考えて、拓海様は統治の王冠クラウンを手に入れようとしてるんですか?」
「そ、そうですよ! 確かに咲柚さんが直接ここに来れば蜂蜜も蜜蝋もホホバオイルも難なく手に入るでしょう。それどころか、統治の王冠クラウンなんてなくても、あの人なら完全にこの世界を制圧できます」
「しかし、それは恐怖政治です」

 花子さんは割れたレンズの奥から、怯む僕を容赦なく捉えてる。

「何故わからないのです? 咲柚様がハーフ・インキュバスである拓海様に、そのアイテムを手に入れさせようとしてるのか?」
「……同属の僕に、彼らの呪いを解かせるため」
「その通りです」

 そのためにも、いずれ僕は僕の中にいる悪魔――咲柚さんを排除しなきゃならない。


「拓海様」


 え……


 気づくと、僕は……花子さんにハグされてた。

 ニオイなんて気にならないと言ったら嘘になる。モロだもん。



 でも、



 信じられないことに、




 花子さん相手に、








 僕は、











 勃ってた。
 
 ビンビンに!






「あなたが私達のリーダーです。勇気を出して立ち上がってください」





 はい、勃ち上がって、おまけに反りまくってます。




 ……花子さんも気づいてるでしょ? だって当たってるんだから。

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