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第10章 一人、足んない
折り返し階段にて
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石畳の穴にできたばかりの急勾配の階段を下りて、僕達は地下三階を目指す。
でもその前に、僕達はてっきりさっきのように踊り場で小休止を挟むものだと思ってた。
体力の消耗はないけど、猫助はまだ完全に泣きやんでなかったし、それに崩れつつあるパーティの信頼関係を立て直す必要もあったんだ。
ところが、先頭の花子さんは歩調を緩めることはなく、踊り場を通過してひたすら折り返し階段を下りていく。
これにはさすがに、声をかけずにはいられない。
「望海ちゃん、ちょっと懐中電灯貸して。……花子さん、ちょっと休みましょう! 僕、疲れました!」
僕に照らされ、立ち止まった花子さんが見上げて言う。
「何を言っているのです? 拓海様は何もしてないじゃないですか」
狭い空間に双方の声が響いてる。
……キツイ口調だけど、花子さんの言う通りだ。
勿論、僕は疲れてない。踊り場でパーティの態勢を整える口実だ。
「リーダーとして、このパーティの亀裂修復を図ろうとしているのなら無駄ですよ。時間が経てば経つほど、私達の確執は生まれます。むしろ、この流れで先に進んだ方が、余計なことに惑わされる心配もないでしょう」
――ムカッ!
「いいから止まれッ! 単独行動は許さないぞ!」
つい叫んでしまった僕の一喝にも、花子さんは全く動じない。
「……少しは男らしくなりましたね」
すごい見下されてる。
そりゃ花子さんとは6歳も離れてるけど……どうせ僕はガキだよ!
「ですが、今も申した通り、私とあなた方の関係はもはやどうにもなりません。私達に一番必要なのは共通の敵なのです。新たなトラップが現れて私達が重大な危機に瀕した時、少しくらいは絆が戻るかもしれません」
何て言い草だ!
その絆をぶち壊したのは花子さん、アンタ自身じゃないかよ!
確かにあの場面、花子さんが猫助を救ったのは間違いないけれど、彼女の人格をああまで全否定する必要なんてなかったんだ!
そう喚いてやりたかったけど、花子さんは再び階段を下り始めてもう視界から消えてしまってる。
胸の中のモヤモヤは解消されるどころか、更にフラストレーションが溜まってきた。そうなったのは僕だけじゃない。
「拓海ィ、やっぱウチはねーわ。あの女とは共に行動できねーよ! つーか、返せ!」
望海ちゃんが僕から懐中電灯をふんだくると、超巨乳の女の子に姿を変えてる白衛門を親指でさす。
「代わりはコイツでいーじゃん。無駄に乳がデケーのはムカつくけどよォ! な、セーコちゃん? オメーもあの眼鏡、嫌いだろ?」
「某はおなごの諍い事に些かの興味もござらん」
「その姿で武士言葉やめろッ!」
「望海ちゃん、冷静に……」
そうなだめる僕だって、今の今まで頭に血が上ってたけど。
つーか、今の”セーコ”って”精子”のことだよな、絶対。
心情的には、完全に望海ちゃんと一致してる。
でも、このまま彼女に同調し続けてたら僕達三人は暴走しかねない。
花子さんをこのまま孤立させても、いいことなんて一つもないんだ。
「白衛門は白衛門の役割があるし、花子さんの代わりにはなんないよ。それより、もしかしたら花子さんはあえて憎まれ役を演じてる……という仮説は成り立たないかな?」
「あぁン?」
「わかった。その般若ヅラだけでもう十分だよ」
キレる直前の望海ちゃんを超巨乳の白衛門に任せて、僕はしょげ返ってるズーフィリアの顔を覗き込む。
「猫助、さっきの返事を聞いてなかった。……キミは花子さんに助けられた事実を無視して、心を傷つけられたことだけに拘るのか? そんなの不公平だ。今度はキミが花子さんを助けなきゃならないんだぞ!」
「……拓海様」
涙を拭って彼女は言う。
「あたし、はにゃんが大好きにゃん。はにゃんに何て言われても、やっぱし嫌いににゃんてにゃれにゃいにゃんよ」
望海ちゃんがまさかという顔。
超巨乳の女の子――セーコは元々、顔のパーツがない。
そして、この僕……。
猫助のその言葉に嬉しくて一気に心が晴れた。
猫助、破顔一笑。僕もつられて笑顔になる。
僕だって花子さんが大好きだよ。
花子さんだけじゃない。
みんな、僕のために命を投げ出してこんな危険なダンジョンに潜入してくれたんだ。
だからこそ!
誰一人として、ここで命を失っちゃダメなんだ。
「猫助、行こう! 早く花子さんに追いつかないと。……ほら、望海ちゃんも!」
僕と猫助、それに超巨乳のセーコが一斉に階段を駆け下りると、渋々ながら望海ちゃんもついてきた。
……よかった。花子さんを想う猫助に助けられた。
僕達はまだバラバラじゃない。
少なくとも、全員揃ってこのダンジョンを出るその時まで僕達は一緒だ!
程なくして、花子さんの背中が見える。
パーティの年長者は振り返ることなく言う。
「ありがとう」
みんなが耳を疑った。
花子さんが僕達にお礼を言うなんて……。
その言葉に、猫助じゃなく望海ちゃんが何故か涙ぐんでる。
やっぱり、彼女も花子さんを嫌いになれなかったんだな。
ところが、だ。
感激も束の間、
「皆さん、忘れないでください。生き物は例外なく、いつか死ぬということを……。それは哀しみではなく、一つの解放として存在するのです」
そう言い終えた花子さんは、呆然と佇む僕達を置き去りにして第三のステージへと消えた。
でもその前に、僕達はてっきりさっきのように踊り場で小休止を挟むものだと思ってた。
体力の消耗はないけど、猫助はまだ完全に泣きやんでなかったし、それに崩れつつあるパーティの信頼関係を立て直す必要もあったんだ。
ところが、先頭の花子さんは歩調を緩めることはなく、踊り場を通過してひたすら折り返し階段を下りていく。
これにはさすがに、声をかけずにはいられない。
「望海ちゃん、ちょっと懐中電灯貸して。……花子さん、ちょっと休みましょう! 僕、疲れました!」
僕に照らされ、立ち止まった花子さんが見上げて言う。
「何を言っているのです? 拓海様は何もしてないじゃないですか」
狭い空間に双方の声が響いてる。
……キツイ口調だけど、花子さんの言う通りだ。
勿論、僕は疲れてない。踊り場でパーティの態勢を整える口実だ。
「リーダーとして、このパーティの亀裂修復を図ろうとしているのなら無駄ですよ。時間が経てば経つほど、私達の確執は生まれます。むしろ、この流れで先に進んだ方が、余計なことに惑わされる心配もないでしょう」
――ムカッ!
「いいから止まれッ! 単独行動は許さないぞ!」
つい叫んでしまった僕の一喝にも、花子さんは全く動じない。
「……少しは男らしくなりましたね」
すごい見下されてる。
そりゃ花子さんとは6歳も離れてるけど……どうせ僕はガキだよ!
「ですが、今も申した通り、私とあなた方の関係はもはやどうにもなりません。私達に一番必要なのは共通の敵なのです。新たなトラップが現れて私達が重大な危機に瀕した時、少しくらいは絆が戻るかもしれません」
何て言い草だ!
その絆をぶち壊したのは花子さん、アンタ自身じゃないかよ!
確かにあの場面、花子さんが猫助を救ったのは間違いないけれど、彼女の人格をああまで全否定する必要なんてなかったんだ!
そう喚いてやりたかったけど、花子さんは再び階段を下り始めてもう視界から消えてしまってる。
胸の中のモヤモヤは解消されるどころか、更にフラストレーションが溜まってきた。そうなったのは僕だけじゃない。
「拓海ィ、やっぱウチはねーわ。あの女とは共に行動できねーよ! つーか、返せ!」
望海ちゃんが僕から懐中電灯をふんだくると、超巨乳の女の子に姿を変えてる白衛門を親指でさす。
「代わりはコイツでいーじゃん。無駄に乳がデケーのはムカつくけどよォ! な、セーコちゃん? オメーもあの眼鏡、嫌いだろ?」
「某はおなごの諍い事に些かの興味もござらん」
「その姿で武士言葉やめろッ!」
「望海ちゃん、冷静に……」
そうなだめる僕だって、今の今まで頭に血が上ってたけど。
つーか、今の”セーコ”って”精子”のことだよな、絶対。
心情的には、完全に望海ちゃんと一致してる。
でも、このまま彼女に同調し続けてたら僕達三人は暴走しかねない。
花子さんをこのまま孤立させても、いいことなんて一つもないんだ。
「白衛門は白衛門の役割があるし、花子さんの代わりにはなんないよ。それより、もしかしたら花子さんはあえて憎まれ役を演じてる……という仮説は成り立たないかな?」
「あぁン?」
「わかった。その般若ヅラだけでもう十分だよ」
キレる直前の望海ちゃんを超巨乳の白衛門に任せて、僕はしょげ返ってるズーフィリアの顔を覗き込む。
「猫助、さっきの返事を聞いてなかった。……キミは花子さんに助けられた事実を無視して、心を傷つけられたことだけに拘るのか? そんなの不公平だ。今度はキミが花子さんを助けなきゃならないんだぞ!」
「……拓海様」
涙を拭って彼女は言う。
「あたし、はにゃんが大好きにゃん。はにゃんに何て言われても、やっぱし嫌いににゃんてにゃれにゃいにゃんよ」
望海ちゃんがまさかという顔。
超巨乳の女の子――セーコは元々、顔のパーツがない。
そして、この僕……。
猫助のその言葉に嬉しくて一気に心が晴れた。
猫助、破顔一笑。僕もつられて笑顔になる。
僕だって花子さんが大好きだよ。
花子さんだけじゃない。
みんな、僕のために命を投げ出してこんな危険なダンジョンに潜入してくれたんだ。
だからこそ!
誰一人として、ここで命を失っちゃダメなんだ。
「猫助、行こう! 早く花子さんに追いつかないと。……ほら、望海ちゃんも!」
僕と猫助、それに超巨乳のセーコが一斉に階段を駆け下りると、渋々ながら望海ちゃんもついてきた。
……よかった。花子さんを想う猫助に助けられた。
僕達はまだバラバラじゃない。
少なくとも、全員揃ってこのダンジョンを出るその時まで僕達は一緒だ!
程なくして、花子さんの背中が見える。
パーティの年長者は振り返ることなく言う。
「ありがとう」
みんなが耳を疑った。
花子さんが僕達にお礼を言うなんて……。
その言葉に、猫助じゃなく望海ちゃんが何故か涙ぐんでる。
やっぱり、彼女も花子さんを嫌いになれなかったんだな。
ところが、だ。
感激も束の間、
「皆さん、忘れないでください。生き物は例外なく、いつか死ぬということを……。それは哀しみではなく、一つの解放として存在するのです」
そう言い終えた花子さんは、呆然と佇む僕達を置き去りにして第三のステージへと消えた。
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