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第17章 人肌が足んねえ

人肌が足んねえ 1

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 今やレベル106のこの艦はヘンリーに憑いた白虎丸が島主だ。
 アンドリューはこう言ってやがった。

「僕が退いたことで、この艦の島主は空位となった。そして、キミは目の前の舵輪ラットの名前を手に入れた。勿論、ここにいるヘンリーにも新たな島主になる資格はある。……ただ、彼がその意思を示せば直ちに殺すけどね」

 そう、アンドリュー自ら暴露したことにより、子分のヘンリーは舵輪ラットの名前がオリビルだと知っちまった。
 だが、アンドリューの誤算はそのヘンリーに憑いた白虎丸によって自分自身が首を刎ねられ殺されたことだ。つーか、元から死んでんだが……。首は白鵜によって大海へと拉致られてなお喋ってたしな。
 その白鵜を追うように白鮫人と白鯨を即座に海へ飛び込ませたが……今となっちゃどうでもよかったな。猫の生首なんぞ用はねえ。
 それよか、鴉王の居場所を探るよう命じておけばよかった。まー、それも今の俺には関係ねえか。
 屍術師ネクロマンサーとしてこの艦を実質支配してやがった黒猫野郎が失脚したことにより、タダのお飾り島主だった俺は明智の三日天下よりひでえ半日天下で再び閉じ込められちまった。尤も、さっきまでいた船室キャビンの扉はさっき白海星しろヒトデで溶かしちまったから、今いる場所は別室だけどよ。

 白虎丸……。

 まさか、ここまで手強いとはな。
 ヤツは自分を超えるスペル魔召喚を恐れてやがる。そして乗っ取りを企むこの体が傷つけられることも望んでねえ。岩清水拓海が777に分裂した島を統一し真のリデリア王になった際、ヤツは初めてこの体へと入ってくる。

 だが、何故ヤツは現状の俺ではなくヘンリーの体を選んだ?

 答えは簡単だ。
 戦乱の今の時点では妖刀の姿でいたかったからだ。さすがに俺を乗っ取り岩清水拓海になっちまえば、妖刀は抜け殻……それこそ単なる使用済みティッシュ……日本刀ですらなくなる。肝心の魂魄はこの貧相な岩清水拓海に移るからな。
 その点、ヘンリーの体は借り物に過ぎねーし、いざとなりゃ盾としても使えるもんな。
 だから憑いたと言っても100パーセントじゃねえ。洗脳という表現が近いかもしれねえが、どっちにしろ俺を軟禁しておけば一石二鳥……スペル魔召喚を防げるし敵から大事な乗っ取り先を守ることもできるんだ。
 やれやれ、こうなるとお手上げだぜ。


《さっきまでの威勢の良さはどこへいったのかしら?》


 スイカみてえな爆乳を揺らせ、オリビルのお出ましだ。

「何しに来やがった? 俺はもう島主じゃねーぞ。……そうか、嗤いにきたか?」

《まさか。アナタこそ私を哀れんでいるのでは?》

「意味がわかんねえ。黒猫に裏切られたからか?」

《わかってるじゃない。……以前の島主は私と二人三脚でコツコツとレベルを67まで上げてくれた。あっけなく戦死したけどね。そこに突然、あのアンドリューが派遣されてきたと思ったら乗組員クルー全員をいきなりゾンビにしてしまったの。一瞬にして全てを失ったけれど、それでも私はアンドリューに賭けたわ。顔は猫ちゃんだけど立派に紳士だったしね。事がうまく運んだら彼とは結婚する積もりだった》

 訊いてねえことまでベラベラよく喋りやがる。

《だけど、それも長くは続かずアンドリューはアナタに私を売った。思えば、私の人生は常に裏切られてきたわ。……鴉王様にもね。あの方は私を正室に迎えてくださると仰ったのに》

「鴉王を信用してたのか? ありゃ女たらしで人食いだぞ。喰われなかっただけマシだろーが」

 すると、オリビルが俺に近づきソッと鼻先に触れた(幽体だけどよ)。

「アナタにも裏切られた」

 ムッとした表情が妙に色っぽい。
 やべえ、勃ってきやがった。今はそれどころじゃねーんだ、おとなしくキ○タマにひっついてろ、ムスコ!

「……はあ? 俺はオメーなんか裏切ってねーよ。裏切るどころか最初からオメーに悪態ついてただろうが。それにオメーはこの俺に《ゾンビになって艦で働け》って言ったんだぞ。……ああ、そーか。そういう意味じゃオメーの期待に応えられてねーわな」

《違うの。……少しだけ期待しちゃった。ギラギラと野心に満ちたアナタの目にね》

 どーいう意味だ? この俺を買ってたってコトか?

 何の言葉も返せねえでいると、オリビルが早口で《今の忘れて》と目を逸らしやがった。何か申し訳なくなってきた。

「すまねーな。口だけ番長でよ」

《拗ねてる。やっぱりまだ子供だね》

「舐めんじゃねえ! 大人のチ○コ見ただろーが(毛は生えてねえし仮性包茎だけど)! それに拗ねてなんかねーよ! 最初に言ったが、オメー何しに来やがったんだ?」

 すると、茶化すような表情から一転して真剣な眼差しで俺を見やがる。

《質問に答えて。アナタはこの艦に来る前、そこにいた舵輪ラットの女が嫌いだった?》

「ああ、大嫌いだよ! アイツ、俺を殺して自らリデリア王になろうとしてたからな! まあ、いろいろあってアイツは人の姿に戻る気はなくなったらしいし、俺は俺で……いろいろあって……その……」

 自然と口ごもる俺に今度はオリビル、モジモジと上目遣い。

《私は……どう?》

「え……どうって……ヤラしてくれんのか?」

《馬鹿ッ! アナタって本当にそればっかりね!》

「自慢じゃねーが、そればっかりだ。だが、安心しろ。オメーは幽体だし、生憎この俺はセックス前に射精する仕組みになってるからな。どう転んでも俺達は交われねーんだ」

 オリビル、今度は俯いたまま空咳をコホン。

《これは一般論として聞いてほしいんだけど……あ、愛は心が通い合えば成立すると思う……のです》

「馬鹿か、オメーは! どの乳ぶら下げて言ってやがる! 肉と肉が絡み合ってこそのセックスだろが! 心じゃ人肌が足んねえどころか温もりがゼロじゃねーか!」

《お黙りなさい! 私は愛について語っているのよ! それに心だけでも温もりは感じられるわ!》

「嘘つけ! そんなのあり得ねーよ!」

《あり得るの!》

「しつこいな。どうしてそう言い切れる?」

《そ、それは……………》

 やがて意を決し口元を引き締めたオリビル、自分の爆乳に諸手を添えながら言いやがる。 

《ここが……キュンとしてるから。それが答えよ》



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