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第16章 何かが足んねえ

首にまつわる回想

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 眠れねえ……。
 そんな時はやっぱオナニーに限るぜ。ティッシュがねえから、甲板デッキに横たわるゾンビの衣服を剥ぎ取ってそれで大量に放出した精子を拭いてやった。これで当面の性処理には困らねえ。
 だが、俺はティッシュマスターなんだ。飽くまでシコシコした後はティッシュを使わねーと、それは本当にタダのオナニーでしかねえ。俺のオナニーはスペル魔召喚に備える弾丸補填の目的があるんだからよ。
 いずれはレベル7のあの軍艦からティッシュを奪還しなきゃなんねえな。自らフレールの元に置いてきといてアレだけどよ。

 俺は何もしねえうちに、漁夫の利で軍艦レベル106の島主になった。どう考えてもフレールなんざ目じゃねえ。屍術師ネクロマンサーである主を失った死人はもはや何の役にも立たねえ腐乱死体でしかねーが、その気になりゃ簡単に落とせんだろ。黒リータはどうでもいいが、白衛門と小園は間違いなく俺につくだろうぜ。奴らがフレールを守る理由なんて最初からねーもんよ。
 再び島主不在となったフレールの軍艦、亡き者にするのは忍びねえが……いや、まだ結論は出てねえ。吸収してレベル113になるのは既定路線だが、どっちを捨てるか、だ。即ちフレールかオリビルか……。

 俺の名はグゼゲドフ。
 ああ、大鴉に教えられた今となっちゃ素直に認めてやるさ。


 


 本物は心の奥に引っ込んじまった”僕ちゃん”だ。
 この甘ったれた坊主は、俺が今戴いてる統治の王冠クラウン夫婦めおとになった花子の死が受け入れられなかった。咲柚は構えた手刀を袈裟斬り上に振り落とした……だが、実際は肩じゃなく花子の首を切り落として介錯しやがったんだ。
 その首から上、花子の顔を黒リータがつけてやがる。

 首……首……首……

 この俺もそうだ。

 俺はあっちの世界の断頭台で、首を刎ねられ絶命した。
 いろいろ悪事を繰り返したが、主な罪名は王妃絞殺……俺はかつての幼馴染であり恋人だった女の首を絞めた。
 その首が不思議と小園を連想させやがる。何故だろう……。

 まだある。
 軍艦レベル3の島主――四つ腕の顔面表裏の辮髪野郎、奴は白虎丸によって首を刎ねられた。
 その白虎丸、今度は屍術師ネクロマンサーであるアンドリューの首までも斬り落としやがった。尤も、奴は白鵜に拉致られたその後も喋ってやがったがな。さすがは悪魔だぜ。

 それにしてもわかんねえ。何でこうも首ばっかりなんだ?

 そして、今の俺の立ち位置はどうなってやがる……?

 俺はサルガタナスに転生の実を食わされて”岩清水拓海”となった。
 ティッシュマスターとして飛躍するには”僕ちゃん”より、俺みてえなアグレッシブな男が相応しいと奴が判断したからな。
 ただし、体は無尽蔵な精子を出すハーフインキュバスの岩清水拓海じゃなきゃならなかった。ある意味、グゼゲドフと拓海のコラボはティッシュマスターとして最高なんだ。
 だが、俺がティッシュマスターとして成長していく様を見届けたかったサルガタナスは、結果的に目付役であるアンドリューを失っちまった。
 更には多島海アーキペラゴに来た時点で、俺は咲柚の監視下にねえ。

 今の俺は自由か?

 ……否!

 俺は俺の分身――俺の魂魄が染みついた使用済みティッシュであるスペル魔の白虎丸によって自由を奪われている。換言すりゃ、俺は俺によって支配されているんだ。
 そしてこの俺もまた、元の体の持ち主である岩清水拓海に寄生している。ややこしいな。

 ただ少なくとも、白虎丸は俺を殺せねえ。
 それは屍術師ネクロマンサーと死人の関係と一緒だ。俺が死んだら、俺によって召喚された白虎丸も死んじまうからよ。奴は最終的に俺を……いや、俺に成り代わって岩清水拓海を乗っ取ろうとしてやがんだ。そういう意味ではフレールも危険だがな。
 とにかくこのままじゃダメだ。強くなんねーと!
 けれど、それも手詰まり状態だ。ティッシュマスターである俺は死に瀕してこそ強くなれるが、白虎丸がそれを阻止しやがる。このまま白虎丸主導で事は進んじまうのか?

 つまんねーな。

 このまま女も抱けねえ運命みたいだし、死ぬまでオナニー三昧……やがてはそのオナニーティッシュで形成された白虎丸の軍門にくだるしかねーのか。




「いいえ、そなたをこの世に導いた私が死なせません。……グゼゲドフ――誰よりも悪しき者よ。鴉王に変わり、そなたがこの世を統べるのです」





 ――ッ!? ひ、翡翠のペンダントッ!


 思い出したぜッ!

 俺がキューティクルのチン毛を思い浮かべて意識を失いそうになったあの時、大鴉が現れてそう言いやがったんだ。

 大鴉め!
 何故だ? どうしてオメーがあの翡翠のペンダントを首にぶら下げてんだ?

 わかんねえッ!

 大鴉……小園……そして、俺が絞め殺した幼馴染の王妃……二人と一羽が首に下げていた翡翠のペンダントは同一なのか? それとも、単なる偶然でそれは全くの別物なのか……。


 わかんねえッ! わかんねえッ! 何が何だか全くわかんねーよッ!!!

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