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第18章 足んねえ者同士

足んねえ者同士 4

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 意識が戻った時、既に俺は真っ赤に染まる海水の中にいた。どうやら大鴉の翡翠のペンダントに幻惑され、そのまま甲板デッキから海に向かってダイブしたようだ。
 息苦しいのは当然のこと。
 今現在、水深何メートルくらい沈んでるかわかんねぇが、水圧でいよいよペシャンコに潰されそうになった時、俺は意識朦朧になりながらも咄嗟に例のまじないごとを唱えた。



 でよ、我がしもべ! 汝、我を守護せよ!



 よし、これで俺はまた強くなれる!
 しかも今回のはガチで死にかけてるからティッシュマスターとして正当なスペル魔召喚だ。白虎丸の二の舞にはならねえ……筈だったが、待てど暮らせどそのスペル魔の野郎が現れねえでやんの。

 オイ、どーなってんだッ! マジのマジで死んじまうだろうが!!!

 と、海中で叫んだ俺。

 ……ん、さっきまでと違って苦しくねーな。誰かが藻掻もがきまくる俺を陸へ引き上げてくれたとか?

 いや、この世界に陸地は存在しねえ。
 相変わらず視界は真っ赤なままだしな。
 だとすれば、ここは軍艦でもねえ。状況変わらず、俺は鴉王の肉体が待つ海底目指して一直線のようだ。
 んじゃ、どうして息苦しくねーんだよ。
 そうだ、俺をそそのかした大鴉は何処だ?
 アイツは鳥だから海底までは来れねーか? チッ、地母神てのはたいしたことねーな。後は俺と鴉王と当事者同士――サシで話つけろってか?
 まー、その方がいいや。この重大局面にお互い母親は不要……咲柚も大鴉もお呼びじゃねえ。
 そういう意味じゃ、俺の頭部へ完全に根づいてやがる統治の王冠クラウンもこの場にそぐわねーんだがな。

 あれ? 大鴉め、結局は俺と王冠を引き剥がせなかったのか?

 どっちにしろ、もうすぐその王冠はなこともオサラバだ。
 後はヘタレのオリジナルを介護してやんなよ……と、ポンポンそこに触れた時だ。
 俺は自分の肉体の異変に気づいた。

 指と指の間に……何かついてやがるッ!

 俺は手の平をゆっくり広げてをまじまじと確認する。

 水掻きだとッ!?

 そ、それってつまり……。

 俺はおそるおそる忌々しいその手で己の顎関節に触れてみる。
 何だよッ、この空洞は?


 エラじゃねーかあぁぁぁ――ッ!!!


 つーことは何か?
 この俺自体にスペル魔が宿って人魚マーマンになっちまったってことかよ!!!!

 バ、バケモノじゃねーか……。しかも、人魚マーマンとしての号数で表せば5号になる。俺が本体なのに5番手かよ。
 そりゃ俺はこれから鴉王の体を手に入れようとしてこの貧弱な拓海を捨てる腹積もりだからどうなろうと知ったこっちゃねーが、それでもほんの僅かの間とはいえ半人半漁の醜い姿になるのはショックだった。この窮地を脱する方法って、人魚マーマン化する以外他に手段がなかったのか?

 こりゃ、オリジナルは気の毒だな。
 仮に奥に引っ込んだ精神が戻ろうとも、岩清水拓海はエラつき水掻きつきの人魚マーマンになっちまったんだ。咲柚も大切な一人息子の激変にさぞ哀しむだろうな。

 フン、別にこの俺には関係ねーけどよ。

 あ、そういや鴉王の容姿はどーなんだ?
 もしかして今の半人半漁の拓海よりブサイクかもしんねーな。

 ……いいさ、それでも。

 俺は誰よりも強くなりてーんだ。それさえ叶えば極端な話、今の半人半漁のまんまでもかまわねえ。
 ただ、今のまんまじゃ弱くてキモいブサイクでしかない。

 鴉王!

 すぐにそっちへ行くぜ。
 今となっちゃわかる。俺が放ち急に姿を消した白鬼……オメー、食いやがったな。
 微かに感じるんだよ、俺の#分身の居場所がな。即ちそれはオメーの胃袋だ。

 ――ッ!?

 と、ここで別の分身が異様な早さで俺の元に垂直で近づいてくる。

 白鯨……いや、白鮫人か?

 いや、ち、違うッ! この気配は人魚マーマンじゃねえ!


 ――白虎丸ッ!!!

「テメー、こんなとこまで何しに来たやがったんだ?」

 すげえ! 海ン中でも喋れてるぞ俺! 
 さすが人魚マーマン5号だぜ……て、喜んでる場合か!

 テ・ウ・チ・ダ

 俺の鼻先で止まった白虎丸がそんな都合のいいことをほざきやがった。

「ハァ? 今更”手打ち”だと? そんなの信用できっかよ! つーか、オメー、言葉はどうし……あ、そうか! ヘンリーから離れたから再び喋れなくなっちまったんだな。……そのヘンリーはどうしたんだ? まさか……」

 コ・ロ・シ・タ

「やっぱりな。オメーのことだ、あのハゲには気の毒だが、利用価値がなくなったらいずれそうすると思ってたぜ。ところでどうした、急に? オメーはこの俺の体を乗っ取るんじゃなかったのかよ?」

 ア・オ・ウ

「だよな。こんな貧弱でおまけにグロテスクな体になっちまった拓海よりも鴉王あおうの方が遥かに魅力的だろうぜ。手打ちってことは白虎丸……オメーも漸く”分相応”の意味がわかるようになったか。つまり、俺と鴉王の得物として仕える気になったんだな?」

 ソ・ウ・ダ

 さて、白虎丸の言うことをそのまま鵜呑みにしていいものか。
 どうせ最終的に自分が俺に成り代わって鴉王と一体化しようと企んでやがるだろうが、考えが甘いぜ!
 鴉王は自らこの俺を選んだんだ。間違っても、オナニーティッシュの寄せ集めなんかじゃねえ。

 だが、コイツの殺傷能力は是が非でも我が手中に収めたい。
 鴉王の体を手に入れても、だ!

「いいだろう。来いよ、俺の元へ」

 いつ以来だろう。
 俺がこの手で白虎丸のつかを握るのは……。

 しかも今の俺の手には水掻きなんて厄介なモノがくっついてやがるし。



 それから間もなくのことだった。

 海底に辿り着いた俺と白虎丸の目の前に……ついに現れやがった。



 ――鴉王!

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