12 / 12
建徳二年長月二十八日 柿→宿借→紅葉
しおりを挟む
君がはや秋の宮居にうつるべきほどもゝみぢの色にこそしれ
嘉喜門院
(紅葉、貴女は今のところ女御でいらっしゃるけれども、もう"秋の宮"――中宮……つまり、"複数の中の一人"ではなくて、ちゃんとした后になるのがまさにちょうどいい頃合いだと、秋の深まりを表す紅葉の色によって知ることですよ)
散らで猶千年の秋も色そへよ藐姑射の山の峰の紅葉ば
御製
(中宮に代わって詠ませていただきます。どうか散らないで、さらに千年の秋も綺麗に秋を映えさせてくださいね。母君も、紅葉も、お二人ともいつまでもお美しく……。そうそう、お二人の秘密の日記は、三年半経った今でも私の手元に保管してありますのでどうぞ御安心なさってください)
君すめば千年の秋もみかは水くもらぬ月の影やどる也
中宮
(清らかなあなた様が住んでらっしゃるから溝の水には曇りのない月光が映って見えます……って、そんなことはさておき本当でございますか? てか、盗った? 三年半もソレ隠して置きながら今更「日記はここにあります」だなんてサラッと衝撃的注釈、寛成様ってば一体どんな料簡なの? あとさ、歌と関係ない注釈なんてもはや注釈でも何でもないから。まあ私のもそうだけど。んで、ずっとお黙りになられて三年半も私達のことを扇子の内側でほくそ笑んでおられたのね? 双六の頃からまんま変わってない。全然清らかじゃないし、寧ろ寛成様の御心ってばドロドロに澱んでんじゃん。今からでも詠み直そうかしらん。思い出したくないけど、思い出しちゃったわ。日記を失くしたあの時、私はボロ雑巾のように柿様にこっぴどく叱られたんだから! 本当シャレになんないんだから。……あ、そうだ。アレお読みになられた上でこの私を選んでくださったってことは、もう首チョンパはとっくに免れたって解釈していいわよね? よかった! この三年半ずっと生きた心地がしなかったんだからね。そうそう、日記の首謀者たる柿様のことは、どうぞ隠岐でも佐渡でも八丈島でもどこでも御好きな場所へと御流しあそばせ。何ならこの私もほんの少しだけの間なら流されてもよくってよ? 私、天橋立とか厳島神社に流されてみたいわ。死ぬまでに富士の御山にも流されたいし。そうよ! 寛成様は筋金入りの宿借でいらっしゃるのだから、どうせなら三人揃って景勝地でも巡りましょうよ? そうしたら私、いっぱいあなた様のために恋の歌を詠んでさしあげるわ。……無理よね。そんなの夢物語だってわかってる。あなた様は小さな縄張りに縛られ幕府に狙われる哀れな宿借ですもの。それでいて、北朝と和睦など到底受け入れられない頑固な御方ですから八方塞がりよね。でも、私はそういうまっすぐなぶれないあなた様の御心に惚れたのです。ドブ川のように澱んでおられるからこそ、誰にも流されない強固な御意志をお持ちなのだから。あ、コレ一応褒めてるから。これで御心までが宿借みたいにあっちこっちウロウロしてる優柔不断だったらもう救いようがないからね。ぶっちゃけ私、足利に敗けるのもう覚悟してるし。それ込みで私は寛成様の元へ飛び込んだんだから。……で、今度はいつ吉野へお戻りになられるの? 別にいいのよ。私、あの辺鄙な場所、決して嫌いじゃないから。京になんて戻れなくても私は幸せ。鯛も松茸も鮑もいらない。そこに寛成様と柿様が側にいてくれさえすれば……。ねえ? 私、またあの寂しくて退屈な吉野で筍と浅利をおなかいっぱい食べたいわ。勿論、筍は頓珍漢より大きくて浅利はちゃんと砂抜きしてるやつね?)
――了――
嘉喜門院
(紅葉、貴女は今のところ女御でいらっしゃるけれども、もう"秋の宮"――中宮……つまり、"複数の中の一人"ではなくて、ちゃんとした后になるのがまさにちょうどいい頃合いだと、秋の深まりを表す紅葉の色によって知ることですよ)
散らで猶千年の秋も色そへよ藐姑射の山の峰の紅葉ば
御製
(中宮に代わって詠ませていただきます。どうか散らないで、さらに千年の秋も綺麗に秋を映えさせてくださいね。母君も、紅葉も、お二人ともいつまでもお美しく……。そうそう、お二人の秘密の日記は、三年半経った今でも私の手元に保管してありますのでどうぞ御安心なさってください)
君すめば千年の秋もみかは水くもらぬ月の影やどる也
中宮
(清らかなあなた様が住んでらっしゃるから溝の水には曇りのない月光が映って見えます……って、そんなことはさておき本当でございますか? てか、盗った? 三年半もソレ隠して置きながら今更「日記はここにあります」だなんてサラッと衝撃的注釈、寛成様ってば一体どんな料簡なの? あとさ、歌と関係ない注釈なんてもはや注釈でも何でもないから。まあ私のもそうだけど。んで、ずっとお黙りになられて三年半も私達のことを扇子の内側でほくそ笑んでおられたのね? 双六の頃からまんま変わってない。全然清らかじゃないし、寧ろ寛成様の御心ってばドロドロに澱んでんじゃん。今からでも詠み直そうかしらん。思い出したくないけど、思い出しちゃったわ。日記を失くしたあの時、私はボロ雑巾のように柿様にこっぴどく叱られたんだから! 本当シャレになんないんだから。……あ、そうだ。アレお読みになられた上でこの私を選んでくださったってことは、もう首チョンパはとっくに免れたって解釈していいわよね? よかった! この三年半ずっと生きた心地がしなかったんだからね。そうそう、日記の首謀者たる柿様のことは、どうぞ隠岐でも佐渡でも八丈島でもどこでも御好きな場所へと御流しあそばせ。何ならこの私もほんの少しだけの間なら流されてもよくってよ? 私、天橋立とか厳島神社に流されてみたいわ。死ぬまでに富士の御山にも流されたいし。そうよ! 寛成様は筋金入りの宿借でいらっしゃるのだから、どうせなら三人揃って景勝地でも巡りましょうよ? そうしたら私、いっぱいあなた様のために恋の歌を詠んでさしあげるわ。……無理よね。そんなの夢物語だってわかってる。あなた様は小さな縄張りに縛られ幕府に狙われる哀れな宿借ですもの。それでいて、北朝と和睦など到底受け入れられない頑固な御方ですから八方塞がりよね。でも、私はそういうまっすぐなぶれないあなた様の御心に惚れたのです。ドブ川のように澱んでおられるからこそ、誰にも流されない強固な御意志をお持ちなのだから。あ、コレ一応褒めてるから。これで御心までが宿借みたいにあっちこっちウロウロしてる優柔不断だったらもう救いようがないからね。ぶっちゃけ私、足利に敗けるのもう覚悟してるし。それ込みで私は寛成様の元へ飛び込んだんだから。……で、今度はいつ吉野へお戻りになられるの? 別にいいのよ。私、あの辺鄙な場所、決して嫌いじゃないから。京になんて戻れなくても私は幸せ。鯛も松茸も鮑もいらない。そこに寛成様と柿様が側にいてくれさえすれば……。ねえ? 私、またあの寂しくて退屈な吉野で筍と浅利をおなかいっぱい食べたいわ。勿論、筍は頓珍漢より大きくて浅利はちゃんと砂抜きしてるやつね?)
――了――
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
山本五十六の逆襲
ypaaaaaaa
歴史・時代
ミッドウェー海戦において飛龍を除く3隻の空母を一挙に失った日本海軍であったが、当の連合艦隊司令長官である山本五十六の闘志は消えることは無かった。山本は新たに、連合艦隊の参謀長に大西瀧次郎、そして第一航空艦隊司令長官に山口多聞を任命しアメリカ軍に対して”逆襲”を実行していく…
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。
克全
歴史・時代
西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。
幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。
北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。
清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。
色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。
一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。
印旛沼開拓は成功するのか?
蝦夷開拓は成功するのか?
オロシャとは戦争になるのか?
蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか?
それともオロシャになるのか?
西洋帆船は導入されるのか?
幕府は開国に踏み切れるのか?
アイヌとの関係はどうなるのか?
幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる