はーい、ダンジョン経営代理人です!

るちぇ。

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第2話「狡猾な電撃作戦・前編」

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 その日の夕暮。ステラは僅かなお金を持って夕食の買い出しに出ていた。肉は夢のまた夢。一欠けら買えるかどうかの金額だが、そんなものを買おうものならルーテシアに何を言われるかわからない。
ステラは時折ため息を吐きながら歩いて行く。

「……んん? 今のため息は私じゃないよね?」
「今のは我じゃ。気にするでない」

 幼いものの、どこか威厳がある口調の男の子の声だった。ステラはあちこち見渡すもその主を見つけることができない。

「下じゃ、下」
「えと……ひょっとして、あなた?」

 ステラはしゃがみ込んで視線を落とす。その声の主は豚の貯金箱だった。夕日を浴びて茜色に染まっているものの、本当の色はピンク色。どこにでもある普通の貯金箱である。

「む……お主、その出で立ち……その服装……もしや、代理人かの!?」

 ステラは上下黒のスーツに黒のパンプス、赤いワイシャツを着ていた。これは代理人が着る制服のようなもので、一目見て役職がわかるようになっている。

「はい、そうですよ。えーと……貯金箱さん、よく知っていますね。偉い偉い」

 ステラが頭をなでると、豚の貯金箱の表情が曇る。

「うぅむ……やはり威厳など微塵も無いかのぅ……。これでも一応……その、魔王なのじゃが」
「そうですか、魔王さんなんですね。それで、どのようなご用件でしょうか?」
「えっと……うぅん……? お主、どうして驚かぬのじゃ?」
「え? 簡単なことですよ。こんな可愛い姿の悪魔や魔物がいたら、見逃すはずがありません」

 悪魔や魔物は姿形に多少に違いはあれど、必ずいくつも共通点がある。サキュバスであれば黒い尻尾と腰から生える一対の翼がそれだ。しかし魔王は千差万別で、これといった共通点は何ひとつ無い。

「……つまり、何か? お主、我が魔王だとわかっていながら頭をなでて、あろうことか偉い偉いなどと……?」
「んー……正確には少し違います。最初は魔王の子供さんかと思いました」
「う……うぅむ……ならば仕方ない……のかのう? そ、そんなことより代理人! 少し手を貸してくれぬか!? 我のダンジョンが敵の侵攻を受けているのじゃ!」
「いいですよ。どこですか?」
「え……? 本当に良いのか? 前金とか契約とかは?」

 ここは魔界。ある程度の卑劣な行為は目をつぶられるため、こういったビジネスの時は必ず契約書と前金が必須だ。魔王が戸惑うのも無理はない。

「情けは人のため……いや、悪魔のため? ならずーってやつです。さ、行きましょう!」

 ステラは魔王を肩に乗せ飛び立つ。

「我も相当な変わり者じゃが、お主には劣るのう……。名前を聞いても良いか?」
「ステラですよ。一応サキュバスです」
「さ……サキュバス?」
「他に何に見えるんですか?」

 ステラは翼と尻尾を見せびらかす。

「……我はアルじゃ。ステラ、そう自分を卑下するでない」

 アルは悲しそうに目を伏せ、ステラの頭を後ろから軽く叩いた。

「んん? そういえばお名前を聞いていませんよ?」
「聞いてなかったのか!? まぁ良い……我はアルじゃ。ダンジョンはあっちじゃ」

 二人はダンジョンに降り立つ。そこは森。その一角を開拓し、地下へと続く洞穴のようなものがあった。

「聞こえるかの? 人間たちの足音が」

 辺りには何十、何百もの草をかき分けて歩く音が響いている。ステラは空を見上げて唸ると、晴れやかな笑顔を浮かべた。

「勝てません」
「……は?」
「こんな正攻法じゃ勝てないです。足音を聞く感じだと、真っ直ぐにこっちへ向かっているじゃないですか。ということは途中の分岐は無いんですよね? それに交戦の音もしないし、部下の出迎えも無い。つまり、こちらの戦力は私たちだけ。とても真っ向からぶつかる状況じゃないですけれど、それ以外の方法が無かったってことですよね?」

 アルは開きかけた口を閉じて俯く。ステラの言う通りで、返す言葉も無いのだ。

「な……何ともならんのか?」
「サクッとやっちゃいます。勝率は九割五分といったところですか」
「な……! 何じゃ……と?」

 ステラは相も変わらず微笑んでいる。だが、仮にも魔王のアルですら言葉を失うほどに、その笑みからは底知れない恐怖が醸し出されていた。

「万事任せちゃって下さいね!」

 ステラは意気揚々と手を挙げ、森へと歩いて行った。
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