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シュナイダー博士は所長室を出ると、がっくりと肩を落として歩き出した。何度もため息をつき、感極まったように口元に手を当てた。
シュナイダー博士は階段の前まで来たところで、とうとう立ち尽くしてしまった。
彼はその研究に十年を捧げていたのだ。
シュナイダー博士は珍しくヤケになり、昼間から酒場に繰り出した。それから、親友のクルトを呼び出すと、今朝の仕打ちについて愚痴り始めた。
「ということなんだ。まったく今日はなんて日だろう……」
シュナイダー博士はソーセージを投げやりに齧り、それからビールをあおった。
「もうよしたらどうだ。顔が真っ赤だぞ」
クルトは心配そうにシュナイダー博士を見て、彼のグラスに水を注いだ。
「僕は今日、自分は生かされていたんだと気が付いたよ」
「ヒマワリにかい?」
「明日からはそれがない」
「今にまた生きがいが見つかるさ」
「見つからないさ」
「どうしてそう思う?」
「僕にはもう新しい研究を見つけることができないんだ」
シュナイダー博士は生きる希望を失っていた。彼の研究は、目標である直径百三十センチまであと十センチに迫っていたところだった。
「研究テーマなんて至る所に落ちてるだろう」
「それがそうもいかないんだ」
「どうしてだい?」
「僕には野心というものが欠けているんだ……」
「君に野心が欠けているだって? 人々をより笑顔にすること以上に野心的な試みがあるだろうか」
「しかし、それじゃあ予算が下りないというんだ」
「そのアドルフというやつはとんでもない分からず屋だな」
「いや、所長の言っていることは正しい。ヒマワリじゃ予算が下りないなんて僕以外のみんなが知っていたことなんだ……」
シュナイダー博士はすっかり自信を失っていた。
「でも、三日以内に新しい研究を打ち立てなければいけないんだろう?」
「そこでなんとか、クルト君の力をお借りしたい。相談に乗ってほしいんだ」
「僕なんかが君の助けになれるだろうか」
「いや君にしかできない相談なんだ」
「聞くだけなら聞いてみてもいいが」
「クルト君、野心とは一体なんだろうか」
シュナイダー博士は、興味深い分野よりも何よりも、そのことについて考えなければならなかった。
シュナイダー博士は植物遺伝子工学のエキスパートではあったが、野心に関しては生まれたての赤ん坊同然だった。その道に打ち込んできた人間には、ときおりこういった極端な者がいるのだ。
「ううむ……」
「さあ、野心の何たるかを僕に教えてくれないか」
大の親友に自分の無知をさらけ出すのは心苦しかったが、シュナイダー博士は手段を選んではいられなかった。
シュナイダー博士は研究に人生を費やしてきたため、信頼できる相談相手というのをほとんど持ち合わせていなかった。
シュナイダー博士の一番の相談相手は、飼い犬のラディッシュだった。
彼はこらえようのない喜びや悲しみを、ときおりラディッシュに語り掛けることがあった。しかし、ラディッシュは今回の相談にはあまり適さなかった。
ラディッシュは野心家とはほど遠い忠実なダックスフンドだったからだ。
「僕だって庭付きの一軒家を買う以外、これといった野心もないからな」
「そこをなんとか、この無力な研究者に力を貸してくれないか?」
クルトは気の毒に思って、しぶしぶ野心について考え始めた。
しかし、クルトも今まで野心を抱いたことはあったが、野心そのものについて考えたことはなかった。そのため思い浮かぶのはごくありきたりなものばかりだった。
「そうだなあ。野心といえば、やっぱり世界征服じゃないかなあ」
シュナイダー博士の瞳がふいに力強くなった。
「そうじゃないか!! どうしてそんなことも思いつかなかったんだ。野心といえば、一にも二にも世界征服じゃないか!!」
シュナイダー博士は目の前が急に明るくなったような気がした。先ほどまでくよくよしていた自分が信じられないくらいだった。
世界征服。これほど野心的な言葉はあるだろうか。どんなに野心にうるさい人間でも、世界征服と聞かされれば、ぐうの音も出ないに違いない。
シュナイダー博士は水をゴクリゴクリと飲み干した。
「僕は世界征服につながるような研究をしよう」
「とはいえ、君は植物学者だろう。植物で世界征服なんてできるかね」
クルトは疑わしそうに博士を見た。博士が自分の言っていることが分からなくなるほど、酔っ払ってやしないかと心配した。
「それは訳ないことだ。ちょっとしたアイデアにひとひねり加えてやればいい。ネジをクル、クルと回すように、ひとひねり、ひとひねりね」
シュナイダー博士はそう言って、親指と人差し指をこすりつけるような仕草をした。
シュナイダー博士は今にもアイデアをまとめたかったが、家に帰ってひと眠りしなければならなかった。なぜなら彼は自分がひどく酔っていることを自覚していたからだ。
しかし彼は、それをしなかった。
明日にでも研究を始めたい一心で、不明瞭な頭で企画を練ってしまった。それが後にとんでもない失態につながるとも知らずに。
「これは素晴らしい。世界征服なんていともたやすいことじゃないか」
シュナイダー博士は彼の手帳に大きくこう書きこんだ。
「世界ブドウ化計画」
それはその名の通り、世界中の植物をみんなブドウに変えてしまおうというものだった。すべての植物がブドウに変われば、社会は大混乱をきたすに違いない。ブドウ狩りツアーには誰も参加しなくなるし、スシを作るのにも、ブドウの上に魚を乗せなければならない。
そんな状態にしてから、元に戻す薬を交渉材料にして、世界の覇権を握ろうと考えたのだ。
「これなら予算が下りるに違いない。世界征服と聞けば、誰だって一枚噛みたいと考えるだろう」
シュナイダー博士は、世界中の予算と名の付くものすべてを、ドイツ国立植物総合研究所の手中に収めるつもりだった。世界征服がそれを可能にすると信じていた。
翌日、彼はさっそく研究にとりかかった。
ブドウの遺伝子を抽出し、塩基配列を調べ、植物の遺伝子をそれと全く同じものに書き換える薬を作ろうとした。
植物が自分からブドウになる薬を作れば、世界中に出向いて、植物を引っこ抜き、ブドウを植える手間が省けるからだ。そうでなくては世界中の植物をブドウに変えるなど不可能だろう。
シュナイダー博士はひとつのアイデアを持っていた。
とあるイカには自分で遺伝子情報を書き換える能力がある。それを応用すれば、世界中の植物に干渉し、ブドウの遺伝子に書き換える薬ができるはずだ。
シュナイダー博士はあの日、ヒマワリを直径百三十センチ以上にしたいと思いたったとき以来の、熱くほとばしるときめきを感じていた。
そして、朝早く家を出て、夜遅くまで研究所に残った。
実験は失敗の連続だったが、シュナイダー博士は諦めなかった。順調に進んでいるかに見えたヒマワリの研究だって、日々失敗の連続だったからだ。
幸いにもシュナイダー博士は、これまで似たような実験をしたことがあった。植物遺伝子工学の大家、アメリカのロマン博士のもとで学んだ技術が役に立ったのだ。
シュナイダー博士はついにその薬を完成させた。
それは薄く青みがかった冷ややかな液体だった。美しいだけに、南米に生息する青い毒ガエルのような、不気味な感じがした。
シュナイダー博士は大量に精製した薬の一部を小瓶に入れると、大事そうに家に持ち帰った。そうして眠れない晩や退屈な午後に、それを眺めて過ごした。シュナイダー博士は母親が子どもを慈しむかのように小瓶を撫でつけ、手に包み込み、そっとキスをした。
シュナイダー博士は臨床実験を終えて、ついにその薬を海に流そうと考えた。
海に流した薬はやがて雨となり、世界中の植物に降り注ぐだろう。すると、じきにそれらはすべてブドウとなり、世界中を恐怖のどん底に陥れることができるのだ。
そのときのシュナイダー博士には倫理観などなくなっていた。予算が彼の目を曇らせ、世界征服へと駆り立てたのだ。
シュナイダー博士はバルト海まで車を走らせた。そして、その恐ろしい薬を海に流しいれた。そのときのシュナイダー博士は少しだけ寂しそうだった。
次の瞬間、彼は何かに気付いたようにハッとし、急いで家に戻った。そして、庭先に植わったヒマワリから種を一粒だけとっておくことにした。
計画は大成功を収めた。
あくる日目を覚ましてみると、町の植物はすべてブドウにかわっていた。
シュナイダー博士は飛び起きると窓をあけて、外を覗いた。
青い大粒の実が並木道の常葉樹を覆っていた。
庭に出てみると、芝生の根元に青い宝石が見え隠れしていた。
テレビをつけてみると、町へ出たニュースキャスターが深刻な表情でカメラに話していた。
「今日、この国は大変な困難に直面しました。見てください。どこもかしこもブドウだらけです。ここ、郊外にある麦畑にも、黄金色に輝く麦穂はどこにも見当たりません。一面真っ青なブドウにかわり、穂はブドウの重さで倒れかけています。麦ばかりではありません。トマトもジャガイモも玉ねぎも、コメも、大豆も、すべてブドウに変わってしまったのです」
シュナイダー博士はテレビを消すと、家を出る支度を始めた。
国立植物総合研究所の前には大勢の記者が待ち構えていた。
シュナイダー博士は自分に疑いの目が向けられたのかと不安になったが、記者の質問を聞いて安心した。
「シュナイダー博士、植物学の権威として一言!」
記者たちは植物遺伝子工学の第一人者であるシュナイダー博士に意見を聞こうと考えたのだ。
「シュナイダー博士、今朝からこの国に起こっていることについて、何か説明できることはありますか?」
「シュナイダー博士、何か一言」
「国立植物総合研究所としては、どう対応していくつもりですか?」
シュナイダー博士は記者の一人が持っていたマイクを手に取ると、一つ咳払いをして言った。
「この件に関しては私たちも原因究明に向けて捜査を行うつもりです。一刻も早くこのブドウハザードを解決したいと思います」
シュナイダー博士はすべてを知りながら、素知らぬ顔をするつもりだった。
世界征服とは常に秘めやかに行われるものだからだ。
シュナイダー博士は所長室を出ると、がっくりと肩を落として歩き出した。何度もため息をつき、感極まったように口元に手を当てた。
シュナイダー博士は階段の前まで来たところで、とうとう立ち尽くしてしまった。
彼はその研究に十年を捧げていたのだ。
シュナイダー博士は珍しくヤケになり、昼間から酒場に繰り出した。それから、親友のクルトを呼び出すと、今朝の仕打ちについて愚痴り始めた。
「ということなんだ。まったく今日はなんて日だろう……」
シュナイダー博士はソーセージを投げやりに齧り、それからビールをあおった。
「もうよしたらどうだ。顔が真っ赤だぞ」
クルトは心配そうにシュナイダー博士を見て、彼のグラスに水を注いだ。
「僕は今日、自分は生かされていたんだと気が付いたよ」
「ヒマワリにかい?」
「明日からはそれがない」
「今にまた生きがいが見つかるさ」
「見つからないさ」
「どうしてそう思う?」
「僕にはもう新しい研究を見つけることができないんだ」
シュナイダー博士は生きる希望を失っていた。彼の研究は、目標である直径百三十センチまであと十センチに迫っていたところだった。
「研究テーマなんて至る所に落ちてるだろう」
「それがそうもいかないんだ」
「どうしてだい?」
「僕には野心というものが欠けているんだ……」
「君に野心が欠けているだって? 人々をより笑顔にすること以上に野心的な試みがあるだろうか」
「しかし、それじゃあ予算が下りないというんだ」
「そのアドルフというやつはとんでもない分からず屋だな」
「いや、所長の言っていることは正しい。ヒマワリじゃ予算が下りないなんて僕以外のみんなが知っていたことなんだ……」
シュナイダー博士はすっかり自信を失っていた。
「でも、三日以内に新しい研究を打ち立てなければいけないんだろう?」
「そこでなんとか、クルト君の力をお借りしたい。相談に乗ってほしいんだ」
「僕なんかが君の助けになれるだろうか」
「いや君にしかできない相談なんだ」
「聞くだけなら聞いてみてもいいが」
「クルト君、野心とは一体なんだろうか」
シュナイダー博士は、興味深い分野よりも何よりも、そのことについて考えなければならなかった。
シュナイダー博士は植物遺伝子工学のエキスパートではあったが、野心に関しては生まれたての赤ん坊同然だった。その道に打ち込んできた人間には、ときおりこういった極端な者がいるのだ。
「ううむ……」
「さあ、野心の何たるかを僕に教えてくれないか」
大の親友に自分の無知をさらけ出すのは心苦しかったが、シュナイダー博士は手段を選んではいられなかった。
シュナイダー博士は研究に人生を費やしてきたため、信頼できる相談相手というのをほとんど持ち合わせていなかった。
シュナイダー博士の一番の相談相手は、飼い犬のラディッシュだった。
彼はこらえようのない喜びや悲しみを、ときおりラディッシュに語り掛けることがあった。しかし、ラディッシュは今回の相談にはあまり適さなかった。
ラディッシュは野心家とはほど遠い忠実なダックスフンドだったからだ。
「僕だって庭付きの一軒家を買う以外、これといった野心もないからな」
「そこをなんとか、この無力な研究者に力を貸してくれないか?」
クルトは気の毒に思って、しぶしぶ野心について考え始めた。
しかし、クルトも今まで野心を抱いたことはあったが、野心そのものについて考えたことはなかった。そのため思い浮かぶのはごくありきたりなものばかりだった。
「そうだなあ。野心といえば、やっぱり世界征服じゃないかなあ」
シュナイダー博士の瞳がふいに力強くなった。
「そうじゃないか!! どうしてそんなことも思いつかなかったんだ。野心といえば、一にも二にも世界征服じゃないか!!」
シュナイダー博士は目の前が急に明るくなったような気がした。先ほどまでくよくよしていた自分が信じられないくらいだった。
世界征服。これほど野心的な言葉はあるだろうか。どんなに野心にうるさい人間でも、世界征服と聞かされれば、ぐうの音も出ないに違いない。
シュナイダー博士は水をゴクリゴクリと飲み干した。
「僕は世界征服につながるような研究をしよう」
「とはいえ、君は植物学者だろう。植物で世界征服なんてできるかね」
クルトは疑わしそうに博士を見た。博士が自分の言っていることが分からなくなるほど、酔っ払ってやしないかと心配した。
「それは訳ないことだ。ちょっとしたアイデアにひとひねり加えてやればいい。ネジをクル、クルと回すように、ひとひねり、ひとひねりね」
シュナイダー博士はそう言って、親指と人差し指をこすりつけるような仕草をした。
シュナイダー博士は今にもアイデアをまとめたかったが、家に帰ってひと眠りしなければならなかった。なぜなら彼は自分がひどく酔っていることを自覚していたからだ。
しかし彼は、それをしなかった。
明日にでも研究を始めたい一心で、不明瞭な頭で企画を練ってしまった。それが後にとんでもない失態につながるとも知らずに。
「これは素晴らしい。世界征服なんていともたやすいことじゃないか」
シュナイダー博士は彼の手帳に大きくこう書きこんだ。
「世界ブドウ化計画」
それはその名の通り、世界中の植物をみんなブドウに変えてしまおうというものだった。すべての植物がブドウに変われば、社会は大混乱をきたすに違いない。ブドウ狩りツアーには誰も参加しなくなるし、スシを作るのにも、ブドウの上に魚を乗せなければならない。
そんな状態にしてから、元に戻す薬を交渉材料にして、世界の覇権を握ろうと考えたのだ。
「これなら予算が下りるに違いない。世界征服と聞けば、誰だって一枚噛みたいと考えるだろう」
シュナイダー博士は、世界中の予算と名の付くものすべてを、ドイツ国立植物総合研究所の手中に収めるつもりだった。世界征服がそれを可能にすると信じていた。
翌日、彼はさっそく研究にとりかかった。
ブドウの遺伝子を抽出し、塩基配列を調べ、植物の遺伝子をそれと全く同じものに書き換える薬を作ろうとした。
植物が自分からブドウになる薬を作れば、世界中に出向いて、植物を引っこ抜き、ブドウを植える手間が省けるからだ。そうでなくては世界中の植物をブドウに変えるなど不可能だろう。
シュナイダー博士はひとつのアイデアを持っていた。
とあるイカには自分で遺伝子情報を書き換える能力がある。それを応用すれば、世界中の植物に干渉し、ブドウの遺伝子に書き換える薬ができるはずだ。
シュナイダー博士はあの日、ヒマワリを直径百三十センチ以上にしたいと思いたったとき以来の、熱くほとばしるときめきを感じていた。
そして、朝早く家を出て、夜遅くまで研究所に残った。
実験は失敗の連続だったが、シュナイダー博士は諦めなかった。順調に進んでいるかに見えたヒマワリの研究だって、日々失敗の連続だったからだ。
幸いにもシュナイダー博士は、これまで似たような実験をしたことがあった。植物遺伝子工学の大家、アメリカのロマン博士のもとで学んだ技術が役に立ったのだ。
シュナイダー博士はついにその薬を完成させた。
それは薄く青みがかった冷ややかな液体だった。美しいだけに、南米に生息する青い毒ガエルのような、不気味な感じがした。
シュナイダー博士は大量に精製した薬の一部を小瓶に入れると、大事そうに家に持ち帰った。そうして眠れない晩や退屈な午後に、それを眺めて過ごした。シュナイダー博士は母親が子どもを慈しむかのように小瓶を撫でつけ、手に包み込み、そっとキスをした。
シュナイダー博士は臨床実験を終えて、ついにその薬を海に流そうと考えた。
海に流した薬はやがて雨となり、世界中の植物に降り注ぐだろう。すると、じきにそれらはすべてブドウとなり、世界中を恐怖のどん底に陥れることができるのだ。
そのときのシュナイダー博士には倫理観などなくなっていた。予算が彼の目を曇らせ、世界征服へと駆り立てたのだ。
シュナイダー博士はバルト海まで車を走らせた。そして、その恐ろしい薬を海に流しいれた。そのときのシュナイダー博士は少しだけ寂しそうだった。
次の瞬間、彼は何かに気付いたようにハッとし、急いで家に戻った。そして、庭先に植わったヒマワリから種を一粒だけとっておくことにした。
計画は大成功を収めた。
あくる日目を覚ましてみると、町の植物はすべてブドウにかわっていた。
シュナイダー博士は飛び起きると窓をあけて、外を覗いた。
青い大粒の実が並木道の常葉樹を覆っていた。
庭に出てみると、芝生の根元に青い宝石が見え隠れしていた。
テレビをつけてみると、町へ出たニュースキャスターが深刻な表情でカメラに話していた。
「今日、この国は大変な困難に直面しました。見てください。どこもかしこもブドウだらけです。ここ、郊外にある麦畑にも、黄金色に輝く麦穂はどこにも見当たりません。一面真っ青なブドウにかわり、穂はブドウの重さで倒れかけています。麦ばかりではありません。トマトもジャガイモも玉ねぎも、コメも、大豆も、すべてブドウに変わってしまったのです」
シュナイダー博士はテレビを消すと、家を出る支度を始めた。
国立植物総合研究所の前には大勢の記者が待ち構えていた。
シュナイダー博士は自分に疑いの目が向けられたのかと不安になったが、記者の質問を聞いて安心した。
「シュナイダー博士、植物学の権威として一言!」
記者たちは植物遺伝子工学の第一人者であるシュナイダー博士に意見を聞こうと考えたのだ。
「シュナイダー博士、今朝からこの国に起こっていることについて、何か説明できることはありますか?」
「シュナイダー博士、何か一言」
「国立植物総合研究所としては、どう対応していくつもりですか?」
シュナイダー博士は記者の一人が持っていたマイクを手に取ると、一つ咳払いをして言った。
「この件に関しては私たちも原因究明に向けて捜査を行うつもりです。一刻も早くこのブドウハザードを解決したいと思います」
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