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マージナ領・1
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「入るぞ」
壮年の男は部屋の扉をノックし、断りを入れるが返事を聞くこと無く入った。仕立ての良い服を身に着け、髪は撫で付けてあり神経質そうな男であった。
「クロウリー。君が倒れたと聞いてね。」
ベッドに歩み寄りながら気遣わしげに言うが体調を問うような労りの言葉は無い。形だけ雇い主である領主として振る舞った。
「ハント様」
クロウリーの発する声は擦れ弱々しい。クロウリーは声の主に気が付くと横たえていた身体を何とか起こそうとした。
「ああ。身体が辛いのだろう?そのままで構わない」
「申し訳ありません。お言葉に甘えさせて頂きます」
クロウリーは謝罪の後、もう一度身体を寝台に沈めた。ハントは立ったままその姿を冷たい目で一瞥した。
瑠璃を喚んだ時から、日に日にクロウリーは身体の自由が利かなくなっていった。ポツポツと赤い発疹が全身に広がっており、より顕著なのは首だった。血まで出始めたので包帯を巻いてる。
全身の締め付けられるような苦しさと刺すような痛み。とうとうクロウリーは動くことすらままならなくなっていた。
「サカガミ殿の行方が分かった」
「そうですか。良かった」
ホッとクロウリーは安堵の息を吐く。
「手放しでは喜べんがな。ファズィスト国だ。国境を越えていた。」
ファズィスト国に送った手紙の返答には『いない』とあったが、ハントは密偵に裏を取らせていた。
「まったく。信の置けん国だ」
腕を組み苦々しくハントは吐き出す。
「一応知らせておこうと思ってな。その身体では現場に戻るのは辛かろう。このまま療養を続けてくれ」
実質上の解雇だった。当然だ。喚んだ者に逃げられ、あろう事か不仲である隣国への逃亡を許してしまったのだから。そしてこの体たらくである。様は無い。
「ハント様の期待に応えられず申し訳ありませんでした」
「まあ。仕方の無い事だ。サカガミ殿の奪還は別の者に任せてある」
気に病むな等とは消して言わない。もう済んだこととして切り捨てた物言いだった。
「さて、これ以上は障りがあるといけない」
どちらにとはハントは言わなかった。
「これで失礼するよ」
儀礼的言葉を掛け、入室時時同様返事を聞かず踵を返しハントは部屋を後にした。
「クロウリーは北の地へ早々に送れ。あれが流行病だったら命取りになりかねん」
部屋を出て直ぐ側近に命じた。遅すぎる処置ではあったが、今のところ他に罹患した者は居ないためハントとしてはこのまま乗り切りたい所だった。
杜撰な仕事をした見張りだった者達の処分は既に下してある。クロウリーに関してもこれで終わりだ。
(あとはサカガミを何とかこちらに。)
ハンスに、一層殺してしまおうか。との考えが頭をよぎるがそれは最後の手段だと思い直した。
クロウリーは言った。『喚び寄せた者は世界をひいては人類を助けるのだ』と。そのような甘言を信じている訳では無いが、利用価値があるならそれで良い。無ければ無理にでも使い潰すか、こちらの意にそぐわなければそれこそ殺してしまえば良い。
(あの人の形をした化け物共を一掃する為の駒になるのなら良いが)
憎々しいファズィスト国の者達をハントは思い浮かべた。姿形は人のそれなのに、その身に人外の力を宿している。そう思うと怖気が走った。
クロウリーにしてもそうだ。招喚の儀という常人には出来ない事を成す化け物。内心ではずっと嫌悪してきた。王都にある大聖堂の神官の出でなければとっとと解雇していた。外聞が悪いので今まで黙認してきたに過ぎない。
ただの神に仕える者だったらまだ良かった。教会で静かに祈るだけならば害は無い。
「クロウリーに近しい者を呼べ」
健常な者だ。そう言い添えて命を下した。
壮年の男は部屋の扉をノックし、断りを入れるが返事を聞くこと無く入った。仕立ての良い服を身に着け、髪は撫で付けてあり神経質そうな男であった。
「クロウリー。君が倒れたと聞いてね。」
ベッドに歩み寄りながら気遣わしげに言うが体調を問うような労りの言葉は無い。形だけ雇い主である領主として振る舞った。
「ハント様」
クロウリーの発する声は擦れ弱々しい。クロウリーは声の主に気が付くと横たえていた身体を何とか起こそうとした。
「ああ。身体が辛いのだろう?そのままで構わない」
「申し訳ありません。お言葉に甘えさせて頂きます」
クロウリーは謝罪の後、もう一度身体を寝台に沈めた。ハントは立ったままその姿を冷たい目で一瞥した。
瑠璃を喚んだ時から、日に日にクロウリーは身体の自由が利かなくなっていった。ポツポツと赤い発疹が全身に広がっており、より顕著なのは首だった。血まで出始めたので包帯を巻いてる。
全身の締め付けられるような苦しさと刺すような痛み。とうとうクロウリーは動くことすらままならなくなっていた。
「サカガミ殿の行方が分かった」
「そうですか。良かった」
ホッとクロウリーは安堵の息を吐く。
「手放しでは喜べんがな。ファズィスト国だ。国境を越えていた。」
ファズィスト国に送った手紙の返答には『いない』とあったが、ハントは密偵に裏を取らせていた。
「まったく。信の置けん国だ」
腕を組み苦々しくハントは吐き出す。
「一応知らせておこうと思ってな。その身体では現場に戻るのは辛かろう。このまま療養を続けてくれ」
実質上の解雇だった。当然だ。喚んだ者に逃げられ、あろう事か不仲である隣国への逃亡を許してしまったのだから。そしてこの体たらくである。様は無い。
「ハント様の期待に応えられず申し訳ありませんでした」
「まあ。仕方の無い事だ。サカガミ殿の奪還は別の者に任せてある」
気に病むな等とは消して言わない。もう済んだこととして切り捨てた物言いだった。
「さて、これ以上は障りがあるといけない」
どちらにとはハントは言わなかった。
「これで失礼するよ」
儀礼的言葉を掛け、入室時時同様返事を聞かず踵を返しハントは部屋を後にした。
「クロウリーは北の地へ早々に送れ。あれが流行病だったら命取りになりかねん」
部屋を出て直ぐ側近に命じた。遅すぎる処置ではあったが、今のところ他に罹患した者は居ないためハントとしてはこのまま乗り切りたい所だった。
杜撰な仕事をした見張りだった者達の処分は既に下してある。クロウリーに関してもこれで終わりだ。
(あとはサカガミを何とかこちらに。)
ハンスに、一層殺してしまおうか。との考えが頭をよぎるがそれは最後の手段だと思い直した。
クロウリーは言った。『喚び寄せた者は世界をひいては人類を助けるのだ』と。そのような甘言を信じている訳では無いが、利用価値があるならそれで良い。無ければ無理にでも使い潰すか、こちらの意にそぐわなければそれこそ殺してしまえば良い。
(あの人の形をした化け物共を一掃する為の駒になるのなら良いが)
憎々しいファズィスト国の者達をハントは思い浮かべた。姿形は人のそれなのに、その身に人外の力を宿している。そう思うと怖気が走った。
クロウリーにしてもそうだ。招喚の儀という常人には出来ない事を成す化け物。内心ではずっと嫌悪してきた。王都にある大聖堂の神官の出でなければとっとと解雇していた。外聞が悪いので今まで黙認してきたに過ぎない。
ただの神に仕える者だったらまだ良かった。教会で静かに祈るだけならば害は無い。
「クロウリーに近しい者を呼べ」
健常な者だ。そう言い添えて命を下した。
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