掌の上の園

すずしろ

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 創造主と会話が出来るなど普段のギルバートなら狂信者の発する妄言だと一蹴するところだ。だが経典の異世界招喚の体現者である瑠璃である。本来ならあり得ないことも覆る。

(クロウリー・ウェルダだと?)
 瑠璃をこちらの世界へ連れ込んだ人物だ。一連の騒動の発端である人物の名にギルバートは眉を顰めた。

「そいつの所へ行ってどうする」

「え?殴…」
 瑠璃はさも当然と言わんばかりに不穏当な発言をしようとした。

「蹴……」
 言い直してもまだ酷い。

「けりを付けに」

「お前」
 どれだけ無謀な事をしようとしているのか分かっているのだろうか?そもそもクロウリー・ウェルダだけで終わる筈がない。そう思いながらギルバートは胡乱な視線を瑠璃に向けた。

「このままにはしておけないでしょ」
そんな視線をものともせずに瑠璃はキッパリ言い切った。

「と言うか別の国に逃げても何だかんだで落ち着かないと思うし」
 敵前逃亡は良いが気の休まらない逃亡人生は御免だ。

「逃げた結果が今日の火事」

「本当笑えない」
 瑠璃は口調こそおどけているが顔は能面の様だった。

「そうね。後は領主とやらにも可能なら会いたい所」

「直接間接問わず二度と私に関わるな」
 そう直談判するつもり。そう言って瑠璃は笑った。勝算など無いが腹が据われば後は行動だ。

「お前。死ぬぞ」
「ふふ。それロウディアシャ様にも言われた」

また創造主。

(この女は何処まで繋がりがあるのか)

主の思し召し。と言えばそれまでだが、創造主は溺愛が過ぎて盲目になっている節がある。

(死を予見して尚この女の思うとおりにさせるのか。過大評価しすぎだ)

「自暴自棄になってるつもりはないけど」
ぽつりと瑠璃は零す。

「放置して良い問題じゃないから。ちゃんと向き合うの」
その結果が相手方への電撃訪問なのだった。相変わらずの浅慮である事は瑠璃自身も自覚している。

昼間のシュテファンの泣く姿を思い出す。トラウマになって引きずらないと良いが。

(これ以上ここの人達を巻き込んでたまるか)
だからこその単身突撃だ。

「お前の覚悟は分かった。だがカイン達がすんなり受け入れないぞ」
「そうかな?」
「もう少し自分の価値を考え直した方が良い」
瑠璃の利用価値では無く存在そのものを。ギルバートの言葉をどう捉えたのか瑠璃は無言を返した。

「バングルがあるだろう。不在が知られればすっ飛んでくるぞ」
「あはは。だよねぇ。だから時間との勝負ってとこ」
 
ギルバートの前に改めて立ち
「ちくんなよ」
瑠璃は釘を刺した。

ギルバートがカインに報告さえしなければ一晩は瑠璃の出奔は露見しない。

「私は行く」
瑠璃は静かに宣言した。

(ロウディアシャ様。よろしくお願いします)
『分かったわ。目を閉じて彼の者を思い浮かべて』
彼の者もといクロウリー・ウェルダを思い浮かべる。と言ってもほぼ一瞬の邂逅だったため、瑠璃は余り詳しくは覚えていなかった。

(ええっと)

野暮ったいローブ

顔色の悪い

ロン毛

中々に酷い認識だった。

『じゃあ行きましょ』
(はい)

「Let's go!」
矢鱈発音の良いかけ声を残し瑠璃はファズィスト国から姿を消した。

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