【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

1.魔法契約編

11-1.距離感と自己幽閉編1

　街でフィルトゥラムと別れた後、俺は公爵邸に連れ戻される。
　もう脱走するつもりはなかったが、そんなことスヴィーレネスには分からない。

「オルディール、ワタクシが怒っている理由は分かりますね？」
「うん。勝手に屋敷を抜け出して、危ない目に遭ったから」

　さすがに今回は俺に非があるので素直に謝り、足枷にも大人しく嵌められた。
　スヴィーレネスは罪悪感に駆られたような顔をしたが、すぐに表情を引き締める。

「自覚があるなら、話は早いです。謹慎として数日は部屋にいてください」
「うん、分かった」

　初めてスヴィーレネスに強く叱責された俺は、大人しく自室への道を辿る。
　予想していたよりも遥かに軽い処断だったが、心は晴れない。

（今回は俺が全部悪い。相手が遊び目的じゃなかったら、最悪死んでいたかも）

　どんなに強がっても魔法使いに捕まってしまえば、俺は一人じゃ逃げられない。
　大事にならずに済んだのは、早々にスヴィーレネスが迎えに来てくれたからだ。

（大人しく部屋に籠ろう。彼の言う通り、不自由なんてないんだし）

　自室の扉を閉めて膝を抱えると、無力感に蝕まれる。
　けれどそれは俺が受け止めなければならない罰で、逃げることは許されなかった。



　数日経っても、俺はほとんど自室から出なかった。
　けど来客が来てしまえば、さすがに対応せざるを得ない。

「オルディール君、部屋入って大丈夫か？」
「エンヴェレジオさん、どうしたの」

　部屋にやってきたエンヴェレジオさんは困ったような、難しい表情をしていた。
　さっき階下からスヴィーレネスの声がしていたから、その関係かもしれない。

「オルディール君が、ずっと部屋から出てこないって聞いたんだけど」
「自主謹慎してるだけ。今回は本当に、反省してるから」

　困らせていたのはスヴィーレネスではなく、俺の方だったらしい。
　けれどその原因が良く分からず、エンヴェレジオさんに詳細を求める。

「食事はしてるし、部屋の中で本を読んでるだけだよ。危険なこともしてない」
「そうじゃなくて、欲しいものとかってないの？　スヴィーレネスからも聞かれたと思うんだけど」

　そう言われても、生活必需品はスヴィーレネスによって既に揃えられている。
　借りた魔法の教本を読んでいれば、暇だと思う時間もない。

「欲しいものなんてないし、要求するのも烏滸がましいでしょ」
「そこまで考えなくて大丈夫だよ、アイツ怒ってないから」

　エンヴェレジオさんはそう言うけど、付き合いの浅い俺は信じることができない。
　謹慎を受けてからは魔法の練習も取りやめになり、顔もあまり見ていなかった。

「オルディール君のことを気にしてるから、なにか言ってあげて。直接言いにくいなら、俺が伝えるから」
「じゃあスヴィーレネスが、本当に怒ってないか聞いてきてほしい」

　エンヴェレジオさんは一瞬渋る様子を見せたけれど、すぐに了承してくれた。
　彼は魔力なしの立場に理解を示しているから、表立って断ることはできない。

「それは、……いや、俺が聞いてくるわ」
「ありがとう、エンヴェレジオさん」

　本当は自分で聞くべきことだとは分かっていたけど、勇気が出なくて利用した。
　遠ざかる足音に罪悪感を覚えて、けれど止めることもできずに溜息を吐く。



　答えが分かれば良かったのに、エンヴェレジオさんは本人を連れてきてしまった。
　多分スヴィーレネスが、行くって言って聞かなかったのだと思うけど。

「オルディール。ワタクシ、怒ってなんていませんよ」
「そっか、良かった。じゃあ大丈夫」

　そう言って会話を打ち切ると、扉の前で焦ったような声が上がる。
　鍵を開ける前にスヴィーレネスの気配を感じたから、鍵は掛けたままだった。

（だから何度取っ手を捻られようと意味がない、命令さえされなければ）

　《開け》と一言命じられれば、俺はどんなに嫌でも従わざるを得ない。
　けれど彼は扉越しに、必死に声を掛けてくるだけだった。