【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

1.魔法契約編

14-1.拒否魔法編1

　スヴィーレネスから魔力供給を受けて微睡んでいたら、呼び鈴で目が覚める。
　玄関を覗き込むと、本を抱えたエンヴェレジオさんが迎え入れられていた。

「スヴィーレネス、頼まれてた本を持ってきたぞ！　手に入れるの苦労したわ！」
「ありがとうございます、助かります！」

　スヴィーレネスが受け取った本は、今にも崩れそうなくらい古い書物だった。
　様々な魔力を孕んだその本には、『魔法契約に関する覚書』と記載されている。

「魔法契約、ってなに？　聞いたことないけど」
「魔法使いが、他者と魔力的な繋がりを得る古い魔法のことです」

　保護魔法も掛けられてないそれを、スヴィーレネスは大事に抱えている。
　表紙に輪の紋様が描かれているのが、印象的だった。

「まぁつまり、今のスヴィーレネスとオルディール君の関係のことだよ」
「そんなにこの状況、深刻なの？」

　魔力供給を受け続けるうちに、俺もスヴィーレネスの魔力には耐性がついてきた。
　だから正気を保てる時間も出てきているのに、それでも二人は不安らしい。

「深刻だよ。オルディール君、考える力も弱まってるだろ」
（そう、かもしれない。逃げようとか、最近は全然思わなくなったし）

　隠れて考えていた逃走計画は、もう俺の中から消えかけている。
　今は魔力供給の方が重要で、飼われることへの抵抗感も失っていた。

「不健全な状態だけど解消させられない、だからせめて制御できるようにしないと」
「オルディール、後で一緒に読みましょうね！」

　大人二人は大騒ぎしているけど、俺には本の重要性が良く分からない。
　けれど場に合わせて、取りあえず小さく頷いておいた。



　エンヴェレジオさんが帰った後に本をめくってみたけど、すぐに閉じる。
　だってこの中に、役に立つ情報なんて絶対にない。

「これ、魔法使い側の本じゃん。俺が読む必要ないよ」

　色々書いてあるけど、結局は命令魔法で魔力なしを操れるというだけの話だった。
　加筆分はどれだけ魔力なしを虐げられたかが連らなっていて、気分が悪くなる。

「いやいやいや、さすがにそこまで一方通行な契約魔法はあり得な」
「どうしたの」

　本を捲っていたスヴィーレネスはなにかを見つけたようで、手の動きが止まる。
　そして開いた本の中心を、俺に見るよう促した。

「ここ、破かれてます」
「なにか不都合なことが掛かれてたのかな」

　魔力なしは基本的に学がないから、本を読んだところで反逆される危険性は低い。
　それでも破られたということは、その『もしも』が記載されていたのだろうか。

「本の時間を巻き戻して、復元しましょう。ちょっと離れててください」
（さらっと言うけど、相変わらずとんでもない魔法だよね。それ）

　時間操作魔法は死者蘇生ほどでないにしろ、難しいことを最近の勉強で知った。
　なのに彼は呪文を唱えることもなく、指先を動かすだけで時間を従える。

「……あぁ、なるほど。破られた理由が分かりました」
「なにが書かれてたの？」

　復元された本を覗き込むと、そこには隷属側についての書き込みがあった。
　支配側と比べるとないも同然の記載量だが、彼はその一部を指し示す。

「魔力なし側から使える、拒否魔法です」
（確かにそんなの、魔法使いは教えたくないよな）

　本が引き裂かれてしまった理由に、思わず納得する。
　むしろ焚書されずに残っていたことが、奇跡じゃないだろうか。

「そんな魔法の存在、俺に教えちゃって良かったの。スヴィーレネス」
「むしろこういう情報を得るために、本を手に入れたのですよ」

　自分の力を信じているからか、スヴィーレネスは俺を縛り付けようとはしない。
　不都合になるような話を、自分から提示してくることも多かった。

「拒否魔法は契約者間で、特定の言葉を呪文として定める必要があるようですね」
「決めたところで意味あるの？　絶対に拒絶できる魔法でもないでしょ」

　隠滅を図られる程の魔法だから、それなりに強力ではあるのかもしれない。
　けれど下手に期待すれば、効かなかった時に傷つきそうで嫌だった。

「いえ、決めましょう。ワタクシもそれを聞いたら、止まるようにするんで」
（拒否魔法を使う状況になったら、その時点で手遅れな気もするけど）

　特級魔法使い相手に「嫌だ」と言う状況に陥ったら、自殺を考えた方が有益だ。
　けれどスヴィーレネスは力がない者の発想がなく、ただ真面目に問いかけてくる。