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2.魔法契約の裏側編

5-4.現場検証と追いつけない特級魔法使い編

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「そんなに、あの男が好きなんですか? 魔力契約を交わした魔法使いよりも」
「一緒に襲撃事件を追ってるだけだよ、別に好きとかじゃない」

 悲嘆に暮れる声が降り注がれるけれど、俺は誘惑に流されないよう言葉を選ぶ。
 視線を取り戻そうと頬に触れられても、首を大きく振って抵抗した。

「好きじゃないなら、一緒に公爵邸へ帰ってくださいよ。ずっと寂しかったんです」
「それはしない。だって今のスヴィーレネスは、俺が好きなわけじゃないし」

 今までの行動から考えても、彼は魔力補給源として俺を求めているだけだった。
 現に記憶を失う前の優しさはなくなり、そこには支配欲しか残っていない。

「この分からず屋、もう魔力依存にさせた方が良さそうですね」
「スヴィーレネスはそれでいいの?」

 問いかけたところで答えはなく、再び俺の服に手をかけられる。
 けれど俺も脱がされたくないから、隙を見ては払い落とし続けていた。

「アナタが言うこと聞いてくれないからですよ、ワタクシは優しくしてます」
「確かに魔法使いの中では優しい方だよね、でも」

 次第に面倒になったスヴィーレネスは俺を押さえつけ、首筋に噛みつこうとする。
 だから反撃として彼の唇に指を当て、小さく呪文を呟いた。

「《食べないで》、スヴィーレネス」
「――――っ、な、んで」

 指先から魔法が行使され、あっという間に特級魔法使いを無力化する。
 その隙に俺は馬乗りになり、スヴィーレネスに対して姿勢的優位を取った。

「これは拒絶魔法。記憶をなくす前のスヴィーレネスが、使えるようにしてくれた」

 この魔法を正しく使うことなんてないと思っていたが、機会は訪れてしまった。
 でもこれで身を守れなければ、俺は本当に身を委ねることになっていただろう。

「俺が好きなスヴィーレネスは、俺に強制なんかしなかったよ」

 過去の彼は氷を解けるのを待つような気長さで、俺の心まで溶かしてしまった。
 力に頼らない、その優しさこそ俺が最も惹かれた強さだったのに。

「魔力的には跳ね返せるのに、どうして」
「触らないで。今のスヴィーレネスは、信用できない」

 魔力で抑えつけようとしてくる魔法使いは、最も俺が嫌いなもので。
 けれどそれに屈さずに済む力を、俺も過去のスヴィーレネスから貰っている。

「も、もう魔力供給、しませんから。せめて、手を繋ぐだけでも」
「嫌だ。薬もらって帰ってよ」

 やっと分かった、俺が好きなのは過去のスヴィーレネスだ。
 同一人物であっても、中身が違うならそれは彼ではない。

「待って、待ってオルディール! 嫌だ、戻ってきて! 優しくするから!」
(絆されちゃダメだ。スヴィーレネスは、魔力に依存してるだけだから)

 彼の魔力は強いけれど、殺せない相手には脅しにしかならない。
 そして俺のように屈しない相手には、無価値になる。

(俺が好きなのは、過去のスヴィーレネスだけだ)

 操を立てるなんて重いものじゃないけど、彼以外には触れられたくない。
 悲鳴のような声に背を向けた俺は、一人で部屋の扉を潜り抜けた。
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