【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

2.魔法契約の裏側編

11-2.巻き戻った邸宅と子供魔法使いの群れ編

　屋敷の中は一件目と違い、荒れ果てた様子がなかった。
　代わりに玄関広間には紋様が描かれ、それが淡い光を放っている。

「床に大きな図形が描いてある、なんか文字も混ざってるね」
「魔法陣です。けどワタクシも初めて見ましたし、使ったことはありませんね」

　図形には俺が読めない文字が刻まれてるが、スヴィーレネスは読み取れるらしい。
　同じようにヴェセルも顔を近づけ、興味深そうに鼻を鳴らしていた。

「俺は使うなぁ。下級魔法使いが、難しい魔法をやる時に使うことが多いかな」
「なるほど。準備が必要な代わりに、高確率で魔法を行使できますからね」

　俺よりも魔法に詳しい二人は、意見を交換しながら描かれた図形を観察する。
　少し疎外感を感じなくもないが、同時にヴェセルの言葉で興味が湧いた。

（へぇ、俺も勉強してみようかな。どこかで役に立つかもしれないし）

　俺も今の実力は下級魔法使いに近いから、覚えて損はないはずだ。
　とはいえ、今やるべきことは他にある。

「やろうとしたのは、時間戻しの魔法っぽいな。けどこの魔法陣、破綻してるぜ」
「実力のない魔法使いが組んだんでしょうか、なら襲撃事件と関係なさそうですね」

　彼らが言うには、魔法陣は発動に失敗したような痕跡が残されているらしい。
　俺は知識がないので詳しくは分からないが、起動時の魔力が足りていないそうだ。

（でも確かに。襲撃事件の犯人って、スヴィーレネスに勝つような相手だもんな）

　下級魔法使いが組む陣作成に失敗する者が、特級魔法使いを下せるとは思えない。
　となるとこれは事件と関係なく、屋敷の主人が研究していたものだろうか。

（犯人が複数いて、それで差が出ている可能性も否めないけど）

　群れの主人が強い魔法使いを魅了して、手先にしているならあり得る話だ。
　戦闘は彼らに任せて、それ以外を群れの主人が行っている線もあるかもしれない。

（魅了魔法で操っても、細かい命令はできないってフィルトゥラムが言ってたし）

　集団で暴れる以上の作業は、どうしても命令者が行わなければならない。
　であれば群れの主人自体は、俺と同じくらい弱い可能性も出てくる。

「まぁこれはこれで追うけどな！　記者に取って事件は多ければ多いほどいいし！」
「そういえばヴェセル、あの懐かしさってここでも感じるの？」

　ふと俺は、事件現場で毎回言及されていた感覚について聞いてみる。
　するとヴェセルは一瞬無表情になり、笑顔を貼り付けようとして失敗した。

「……正直、感じる。もしかしたら懐かしさは、視覚情報じゃないかもしれない」
「じゃあ匂いとか？　でも共通点も思い浮かばないんだよなぁ」

　ヴェセルが懐かしさを感じたのは保護施設の礼拝堂と、貴族の屋敷二つ。
　どれも事件現場ではあるが、構造もなにも違っている。

「なんか蠱惑的な感覚なんだよなー、もっと欲しくなるっていうか」
「魔力的なものでしょうか、ワタクシには感じられませんが」

　ヴェセルは頭を抱え、スヴィーレネスは不思議そうな顔で周囲を見渡している。
　香るのは花の匂いばかりで、それだって他の場所には咲いていなかった。

「俺も分かんない。愛し仔は、他人の魔力に結構敏感なのにね」
「まぁ不思議だけど、不便じゃないから別にいいけどな」

　そう言いながらヴェセルは新たな情報を求めて、屋敷の中を更に漁り始める。
　俺もその言葉を区切りに魔法陣から離れて、目に付いた書架に入り込んだ。

（しかしこの世界の貴族は、血筋を改造するのが好きだな。『瞳の顕現条件』？）

　家門の研究内容が記載された書類を見つけた俺は、紙面に目を通していく。
　この世界で多く起こる事件の理由の一つには、『家門の研究の強奪』があった。
　だから俺はそれが事件原因ではないかと考え、書類を見るようにしているが。

（『現在の推測では、高位魔法使いの限界魔力放出が有力である』か。小難しいな）

　内容を読んでも話が繋がらず、あまり関係性を見つけられない。
　しいて言うなら、『瞳』や『王』に関する記述が多いくらいだろうか。

（しかしそんなに『目』が重要なのかな、……っあ）

　ふと屋敷の外に蠢く生き物を見つけ、俺は視線を吸い寄せられる。
　――そこでは半獣の魔法使いが集まり、街路に広がって移動していた。

「窓の外に、魔法使いの群れがいますね。でも、子供だらけじゃないですか」

　俺の様子に気づいたスヴィーレネスが近づいてきて、共に窓の外を覗く。
　彼の指摘通り、群れの大半は小さな子供にすり替わっていた。