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2.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と同居生活を始める
2-1.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と同居生活を始める
しおりを挟む契約の話を一通りされるが、過緊張で疲れ切った俺の頭には半分も入って来ない。
カリタスも最後は「共に授業に出てくれればいい」と、簡潔に会話を締め括った。
「明日は校医の検診に連れていく。それまで休息し、生活に慣れるよう務めてくれ」
「……頑張りはする、けど迷惑掛けるとも思う」
ただでさえ異世界に来てからの時間は短く、今の俺は知識も常識も欠けている。
心身共に疲れも相まって、日常生活すら恐らく危うい状況に陥っていた。
だがカリタスはにこりともせず、静かに俺を庇ってくる。
「日が浅いのだから当然だ、私こそ至らない部分も多いだろう」
首絞めに近い契約が成立してから、彼は少しも俺に近づこうとしない。
机を隔てて座り、手を伸ばしても届かない距離間を保っている。
「だから不足している部分は、遠慮なく言ってくれ。可能な限り補おう」
端正な顔こそ俺の方に向いているが、視線が合っているという実感はまるでない。
けど下手に向き合うと俺が怖がってしまうから、きっと正解なんだとも思う。
カリタスの部屋は学校寮の一角にあり、一人部屋にしては少し広い。
けれど家具は寝台、机、衣装入れ程度で、生活感は皆無だった。
「では浴室で、身を整えてくるといい。洗浄魔法は刺激があるからやめておこう」
(確かに今は、もう他の感覚を受け入れたくない。それが良いものだとしても)
「絶対に浴室には入らない」と約束し、カリタスは部屋の外へと足を向ける。
多分俺を受け入れる準備と、一人で休める時間を作ろうとする心遣いだ。
「入浴中に、私は衣服の用意をしておこう。出てきたら教えてくれ」
その言葉を最後に扉が閉まり、鍵が回る音を確認してから、俺は浴室に向かう。
まだ明るい時間だから照明は不要で、窓からは柔らかい光が差し込んでいた。
(お風呂場、埃だらけだ。魔法で身支度するから、使われてないんだろうな)
水場なのに湿度は少しも感じられず、髪や体を洗う為の洗剤も置いていない。
浴槽と水桶は存在するが、蛇口がないから水の張り方も分からず困惑した。
(代わりに用途の分からない道具が転がってる。曲がった管みたいな、っうわ)
だが道具に何度か触れると水が飛び出し、飛び退いた俺の顔をしつこく直撃する。
どうやらそれは術式で動くらしく、魔力が弱い俺でも作動させることができた。
(これを浴槽に入れて、水を浴びればいいか。冷たいけど、我慢できる程度だ)
そして氷の様な浴槽で膝を抱えると、俺は目を閉じて崩れそうな心を繋ぎ留める。
少しでも安らげる時に、修復しなければ耐えられなくなってしまうから。
扉が開かれる音と共にカリタスが帰宅を告げて、俺も浴室から顔を出す。
すぐに水滴を拭う布を渡されるが、直後に彼の動きが止まってしまった。
「リベラ、どうしてそんなに冷えている!? いや、魔道具が使えなかったのか!」
「大丈夫だよ。競売に出るまでの扱いも、碌なものじゃなかったし」
しかし冷え切った俺の体を見て、彼は血相を変えてより大きな布で包み込んでくる。
今まで不愛想だと思い込んでいたけど、実は顔に出ないだけなのかもしれない。
「君に不自由を強いる気はないんだ。すぐ入浴可能にする、本当にすまない!」
(飼い主なんだから、そんなに慌てなくてもいいのに。でも、今だけなんだろうな)
ばたばたと俺の水気を拭き取った彼は、慌ただしく浴室へと突っ込んでいく。
しかしそこでも短い悲鳴を上げ、直後に大量の水が内部を洗い上げる音がした。
(一人で風呂にも入れない淫魔なんて、使い道があるとは思えないのに)
少ししてから湯気と共にびしょ濡れのカリタスが現れ、再度俺に入浴を促す。
俺が僅かに振り向くと、やはり頭を抱える彼の姿が目に映った。
調整された魔道具が温かく湯船を満たし、俺は束の間の休息を享受する。
しかし主人を待たせる訳にもいかず、早々に切り上げて部屋に戻った。
「さすがに着ていた服は処分して構わないか。ここまで切り裂かれていては、もう」
「捨てちゃっていいよ。体も縮んじゃったから、大きさ合わないし」
魔法で自身を乾燥させたらしいカリタスは、既に俺の服を見繕っていた。
今まで着ていた物は残骸と化しているから、これは諦めるしかない。
「リベラの身長だと、中等部が身に着ける制服を選ぶべきなんだろうが」
「いいよ、別になんでも。外に連れ出すときだけ、簡単なの羽織らせてほしい」
律儀にカリタスは着衣を選ぼうとしているが、俺はもう自暴自棄になっていた。
何を着ても風評被害に遭うのは避けられない、それは彼も分かってるだろうに。
「いや、部屋の中でも露出は不安だろう。私物で悪いが、いったん着ていてくれ」
「……ありがとう、やっぱり借りさせてもらうね」
裸にさせておくのも気が引けたのか、カリタスは衣装棚から自身の服を差し出した。
大人しく俺も袖を通すが、体格が違いすぎてズボンが腰に引っ掛からない。
(仕方ない、下は諦めよう。それより肌が擦れて痛い、我慢できる範疇だけど)
シャツの丈が長いおかげで足以外は隠せたが、それ以上に肌の痛みが気になった。
けど俺は特別皮膚が弱いわけではないし、多分時間が経てば落ち着くと思う。
(材質は柔らかいし、生地の問題じゃなさそう。それに文句を言える立場でもない)
それより下着を履けなかった事の方が、人間としては大問題だった。
でも今は魔物扱いだから、尊厳なんて考えるだけ無駄かもしれない。
……結局悩みは口に出せず、俺は強く裾を握るだけで諦めてしまった。
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