【完結】売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と期限付き契約を交わす

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)

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2.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と同居生活を始める

2-3.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と同居生活を始める

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魔法薬で傷が完治したにも関わらず包帯を巻かれ、大急ぎで保健室に搬送される。
幸いにして他の患者はおらず、清潔な部屋にはたくさんの薬瓶が並んでいた。

「クピド、この子の検診を頼む! 私の不手際で、酷く傷ついてしまっている!」
「サボり魔くん、やっと魔物を連れてきたと思ったら淫魔じゃん。正気?」

振り返った校医の色素は薄く、髪も長いので優美な女性のような容貌だった。
しかし顔の半分が覆われているせいで、明確な顔立ちが分からない。

(柔和な雰囲気の人だ。でもこの人も、仮面をつけてる)

競売場に来たカリタスが着用していた物と同じで、認識阻害の魔道具だとは思う。
しかし特に言及もされないから、それが通常の姿なのかもしれない。

「授業の相方にするつもりだ。授業の必要事項は、教師の方が理解しているだろう」
「性目的の方が、まだ正常に思えるね。出席しても、嬲り殺しにされるだけだよ」

クピドと呼ばれた校医は遠慮がなく、柔らかい口調の割に容赦がない。
でも指摘は的確で、魔法契約の危険性を俺達に突き付けてもいた。

(やっぱり魔物が必要な授業だから、安全じゃないんだ。でも後戻りもできない)

カリタスの優しさや衣食住と引き換えに、俺は魔物として従うことを了承した。
代償は隣にいることだけど、それを履行できるかの判断は未だできずにいる。

……しかし俺の内心など知らない主人は、校医に食って掛かっていた。

「人だろうと魔物だろうと、手出しはさせない。卒業まで身を守る契約をした」
「なるほど、それなら双方に利はあるかな。おいで、検診してあげる」

そして大して興味がないのか、校医は早々に話を切り上げて俺を診察台に乗せた。
常に微笑んではいるが、カリタスとは反対に情が薄い人なのかもしれない。



検診は滞りなく進められ、俺はただ座って時間が過ぎるのを待っていた。
むしろカリタスの方が、診察台の横で落ち着かずに俯いている。

「フェロモンはまだ発していないし、症状は進行していないように見えるが」
「正解。原種や先天性と違って、人間だった頃の感覚が強いだろうからね」

一通りの診察を終えた校医の説明によると、俺はまだ淫魔として未成熟らしかった。
体質こそ変わってしまったが、他者に影響する能力は目覚めていないんだとか。

「あの、サキュバスってそんなに種類があるものなんですか」

そして僅かだが状況を把握できた俺は、校医とカリタスの話に割って入る。
しかしカリタスは何度も口籠り、喋るのに抵抗を見せていた。

「……淫魔の特性上、貴族に悪用されている。元々は原種、純魔物が多かったが」
「複雑な命令を理解できないんだよね。それで改良されたのが先天性サキュバス」

対して顔色一つ変えないクピド先生は、滔々とサキュバスの史実を語っていく。
すると諦めがついたのか、カリタスも重い口を開き始めた。

「母体内で淫魔の血を混ぜた子供だが、法規制済だ。一度国が崩壊しかけたからな」
「家門で主従逆転が起きて、当主が軒並み先天性サキュバスの時代があったからね」

聞くと人とサキュバスの歴史は深く、お互いを利用しようとした痕跡でもあった。
そして後天性という言葉は出てこないが、俺の中で一つの予想が成り立っていく。

「それで今は後天性サキュバスが主流ってことですか、簡単に管理下に置けるから」
「需要も多いしね。身寄りのない異世界転生者なら、誰も気に留めないし」

正面から話に向き合う校医は否定しない代わりに、誤魔化すような優しさもない。
同情など一切感じられない澄んだ瞳で、校医は事実だけを俺に提示してくる。

「じゃあ俺は「もうこの子を怯えさせないでくれ。今日は検診をしに来ただけだ」」

だが最初に耐え切れなくなったのはカリタスで、彼は身を乗り出して話を遮った。
あっさりとクピド先生も話を断ち切り、俺だけが話題に取り残される。

「ごめん、つい喋り過ぎちゃった。じゃあ止血剤と栄養剤、出しておくね」

そのまま強制的に話は流され、口出しもできないままカリタスに抱き上げられる。
随分温かいなと感じたが、直後に俺の体温が下がっているのだと自覚する。

「それだけか? フェロモンを抑止する薬とか、せめて魔物化を遅らせる薬とかは」
「研究が端から潰されてるから、全くないよ。促進剤とかなら、色々あるけど」

治療がなかったことにカリタスは不満を漏らしているが、校医は少しも動じない。
仮面越しの微笑みを崩すことがない代わりに、希望も一切持たせない。

「利用する為の手段はあっても、守る為の方法は誰も考えていないという事か」
「純粋な魔物じゃないから、人外の医療にも耐えられないと思うしね」

淡々と事実を並べるクピド先生に、カリタスの方が険しい顔で唸っている。
むしろ当事者である俺の方が、冷静に話の内容を受け止めていた。

「じゃあ魔物化の治し方なんて、存在しないですよね。当然元の世界への戻り方も」

けれど冷え切った自分の声に、ただの虚勢だとすぐに気がついてしまう。
残酷な事実に、うまく現実感を抱けていなかっただけだ。

「まぁ死んでさえいなければ、いつでもおいで。僕の魔法で緩和してあげるから」

無情な言葉に心臓が嫌な音を立てて、周囲の景色が遠く感じる。
――気づくと俺は部屋に連れ戻され、寝台に横たわっていた。
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