【完結】売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と期限付き契約を交わす

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)

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2.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と同居生活を始める

2-4.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と同居生活を始める

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ずっとカリタスが喋りかけているけど、何を言っているのか理解できない。
頭が外部の情報を拒否して、後ろ向きの妄想が脳裏を駆け巡っていた。

(もう人間には戻れない。これからは症状を抑えながら、生きる方法を考えないと)

魔物と医学的に関わっている人の言葉は、無責任に流れている噂とはまるで違う。
校医が希望を見出せなかった以上、俺が考えても時間の無駄にしかならない。

(普通に生きるのすら難しくなった。服も着れないし、食事も気持ち悪くなるだけ)

虚弱な後天性サキュバスの体質は、人間だった頃の俺を容赦なく蝕んでいく。
元の世界に戻れる方法も存在せず、手掛かりは全て途絶えてしまった。

(淫魔の体質に、俺が合わせるしかない? ダメだ、考えただけで吐き気がする)

夜の世界になんて縁がなかったから、性行為について曖昧な知識しか持っていない。
それでも組み敷かれるのを想像することはできたが、途中で心が拒絶する。

――そして思考が諦め切ったのか、ようやくカリタスの声が耳に届くようになった。

「私に、できることはあるか? 受け入れられそうな物があるなら調達してくるが」
「……思いつかないから、大丈夫。主人なのに、気を使わせてごめんね」

ずっと無反応だった俺が反応を返したからか、彼も安堵の息を吐いた。
呆然自失に陥っている間に、片時も側から離れずにいてくれた人。

「私こそ役立たずですまない。衣食住の用意も手当ても、全て満足にできなかった」
「大丈夫だから、気に病まないで。それに睡眠は取れたから楽になってる」

本当は精神にも肉体も限界寸前ではあるが、これは本心からの言葉だった。
世界は理不尽なほど俺に厳しいが、彼には少しだけ心を許していたから。

「それなら今日は、君が寝台を使ってくれ。体の痛みもマシになるかもしれない」
「え、じゃあカリタスはどこで寝るの。まさか、椅子で寝たりしないよね?」

思わぬ提案に俺が体を起こすと、彼は優しく寝台に押し戻してくる。
そして自分の心配はいらないと、ぎこちなく口角を上げて見せた。

「小さいが、別室が備え付けられている。だから安心して休んでくれ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて。本当に色々ありがとう」

カリタスは俺に布団をかけ直すと、そのまま静かに遠ざかっていく。
けれど完全に気配がなくなる直前で、足を止めて振り向いた。

「おやすみ、リベラ。君が少しでも楽になることを、心から願っている」



まだ明るい部屋の中で一人、俺は眠ることもできずに天井を見上げている。
問題は解決する気配を見せないが、発狂に陥らない理由は一つだけ。

(手間が掛かるだけの淫魔に、随分献身的な人だな。手を出す素振りもないし)

カリタスは一瞬たりとも性的な興味を示さず、ただ寄り添おうと行動し続けてる。
今だって部屋の主だというのに、無能な従魔に眠る場所を譲ってしまった。

(まぁ自分の姿を見ても、性別感がなくなっただけで色っぽいとは思えないけど)

埃を拭った全身鏡を覗くと、西洋人形みたいな後天性サキュバスが映っている。
無表情でも整った顔、薄い体、白く細い手足。可憐だが性的魅力は感じない。

(……なんだか眠くなってきたな。空腹感はあるけど、痛みは感じないし)

そして頭が考え疲れたのか、この部屋は安全だと体が悟ったのか急に体が重くなる。
昨日の睡眠では不十分だったのか、俺は抗う間もなく眠りに落ちていった。



次に目覚めた時も窓の外は明るく、短い時間だけ意識を飛ばしていた事を察する。
だが連続した深い休息を取れた事で、身も心も格段に軽くなっていた。

(良かった。服も寝台も、血で汚れてない)

服への拒絶反応は治まったらしく、肌に傷跡は残っていない。
だが今度はお腹が小さく鳴り、空腹感が込み上げてきた。

(うわ、お腹すいてる。やっぱり食事、体が吸収できてなかったんだ)

睡眠と時間経過で回復はできたが、頭がちゃんとまわっている感じがしなかった。
しかし空腹感は感じるのに食欲が湧かず、不思議な感覚に纏わりつかれる。

「……? なに、この良い匂い」

そして飾り気もない部屋のどこかから、ふわりと甘い香りが漂ってきた。
俺は誘われるように導かれながら、不安定な足取りで寝台を降りる。

(小さい花束だ。雑に転がされてるけど、カリタスが誰かに貰ったのかな)

招待は机の上では無造作に置かれた花の束で、芳しい香りを放っていた。
見た目も愛らしく、淡い色の花弁は瑞々しく揺れている。

(でも、なんでこんなに欲しいんだろう。花なんて、興味なかったのに)

気づくと渇望するように、俺はその花を手に取ってしまっていた。
香りを堪能しようと顔を近づけ、唇が花弁に触れると。

「っ、え、なんで。俺が触ったら、花が枯れるの」

花弁は色を失って床に散らばり、葉も水分を奪われて干乾びていく。
そして俺の手に残されたのは、乾燥した花の抜け殻のみ。

(まずい、俺、主人の物を壊したんだ。そんなつもりじゃなかったのに)

真摯に向き合ってくれたカリタスも、持ち物に危害を加えられたらきっと許さない。
だって俺を引き取った理由の一つに、『なにもしないこと』があったのだから。

……けど俺には花の種類も分からないし、お金もないから弁償もできない。

(まだ眠ってるのか、幸いカリタスは部屋に入ってこないけど)

それでも善意を仇で返した事実は変わらず、花を枯らしたことは絶対に露見する。
信頼関係どころか価値も示せていない今、できることはただ一つだけ。

(今のうちに、逃げるしかない。結局、俺はサキュバスである以前に臆病なんだ)

身に余る程の優しさを与えられたのに、何も返せずに消えるしかない。
騙す形になって申し訳ないが、補える物など持っていないのだから。



とはいえ行く宛など当然存在せず、俺は身を隠しながら学校内を彷徨う。
授業中だからか人の気配はないが、油断はできる状況じゃない。

(これから、どこに行けばいいんだろう。魔物にも、人にも混じれないのに)

後天性サキュバスは俺以外にも存在するのだろうか、どこかにはいるのだろうか。
一人で生存する難しさは既に知っているし、考えられる生存圏は。

(やっぱり、娼館とかに行くべきなのかな。知らない人に、体を売って――)

淫魔の特性を活かせる場所といえば、当然風俗関係が挙がってくる。
けどそこに身を寄せるなら、俺にも対価は求められる訳で。

(無理、無理だ。怖くて生徒の前にも出られないのに、でも)

ここは寮の中にある庭でしかないのに、怖くて足が竦んでしまう。
草木が擦れる音にすら、過剰反応してしまうくらいに――。

「あ」

緑が奏でる音の中に低い唸り声が聞こえ、それが幻聴ではないことに気がつく。
顔を上げると大きな黒い犬のような魔物が、噴水の陰から姿を現していた。

(飢えた目の魔物が、俺を見てる)
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