23 / 48
5.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師に甘やかされて困惑する
5-4.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師に甘やかされて困惑する
しおりを挟む試験が全て終わった俺達は、部屋に戻って寝台の上で寛いでいた。
カリタスは手足を放り出して脱力し、俺も一緒に寝転がっている。
「お疲れだね、カリタス。部屋に戻ってすぐに転がるの、珍しいじゃん」
「どちらかと言うと、緊張が解けたんだ。試験への協力、感謝する」
髪をくしゃくしゃに乱したまま彼は、顔だけをこちらに向けて礼を言ってきた。
その様子は普段よりも幼さが際立ち、甘やかしたくなる衝動に駆られてしまう。
「俺は何もしてないよ、ずっと隣にいただけ」
「私にとって、それが何よりの救いなんだ」
出会った時は壊せない壁を感じていたが、今では内側に入った錯覚を覚えていた。
俺の警戒心が解けてきたのもあるが、彼も無防備な姿を見せるようになったから。
(言うだけ言って寝ちゃった。でも長年の悩みが、解決しそうなんだもんな)
俺は眠りに落ちたカリタスに毛布を掛け、寝床にしている場所に戻ろうとする。
けれど途中で腕が伸びてきて、彼の懐に連れ戻されてしまった。
(でも卒業できたら、俺は用済みだ。身の振り方、本当に考えないと)
カリタスの傍は居心地が良いけど、契約の為に存在することを許されているだけだ。
だから愛着を求める努力はしても、依存することだけは避けなければならない。
お互いに適度な距離感を保って、後腐れなく別れるのが俺達の理想なのだから。
後天性サキュバスは夜に属する生き物だから、人間だった時より朝に弱くなった。
だから毎日カリタスに起こされていたのに、今日は彼より先に目が覚める。
「……あれ、カリタスがまだ起きてない。今日、授業あったはずなのに」
隣で寝息を立てているカリタスは、普段より深く眠っているように見える。
だが触れると頬が熱く湿っていて、苦しげに息を吐いていた。
(それに熱で、顔の古傷が疼いてるみたいだ。でも誰が、そんな事できたんだろう)
今は痛みと病で苦しんでいるが、魔物相手だろうがカリタスは敵なしで戦える。
幼少期であっても、服従魔法を持つなら大概の相手には勝てるだろうに。
(それとも貴族の館には、並外れた怪物もいたのかな。売り物なら有り得るけど)
彼の家門では過去に魔物の取引を行い、その手伝いをさせられていたと聞いていた。
ならば彼でも敵わないような存在が、抜け出せない悪夢を刻み付けたのだろうか。
「カリタス、大丈夫? 熱あるみたいだけど、俺にできることとかある?」
「……感染の可能性があるから、離れていてくれ。私は、少し安静にしている」
声を掛けると反応するが、カリタスの焦点は不安定に彷徨っている。
体を起こそうとするが力が入らず、俺に倒れ掛かってしまった。
「分かった、距離取るね。 薬とかは部屋にある?」
「いや、放っておけば治る。いつもそうだった」
カリタスを寝台に押し戻した俺は部屋を歩きまわるが、薬は一つも見当たらない。
水に濡らした布を彼の額に載せても、根本的な解決には繋がらないだろう。
(仕方ない。クピド先生を呼ぶか、薬を貰ってこよう)
俺一人では看病できないと判断して、校医がいる保健室へ向かうことにする。
しかし部屋の外に向かうと、カリタスが無理矢理起き上がろうとしていた。
「カリタス、俺、保険室に行ってくる。すぐ戻ってくるからね」
「……一人でか? 無茶だ、校内には悪人も魔物もいるのに」
カリタスは熱で浮かされながらも、俺の身を案じて言葉を絞り出している。
けれど最近は、校内で俺に手出ししようとする奴もほとんどいない。
「カリタスの首輪もあるし、大丈夫だよ。危なそうなら、すぐ引き返すから」
部屋の外ではカリタスに抱かえられ、首には所有痕が刻まれている。
俺自身に力はないが、その主人には手を出せないと踏んでいた。
だが彼は納得がいかないようで、どうにか寝台から降りようとしている。
(けど意識が朦朧として、俺を引き留める事もできない。早く行って、戻らないと)
こんな無防備に喘ぐ主人の姿を、部屋の外で蠢いている悪意には晒せない。
独占欲にも似た感情だけど、保身欲の一種だと言って自分を納得させた。
カリタスの部屋から保健室は意外と近く、何度も訪れているから場所も覚えている。
治療場所は校内に複数存在しているが、目的地は生徒の生活圏から離れていた。
(それにこの辺りはカリタスの居場所だから、生徒はまず見かけないんだよな)
人間にも危機回避能力は備わっており、強い存在の領域には近づかない。
だから廊下も閑散としていて、時折野良の魔物が通り過ぎるのみ。
(徘徊してる妖精も、首輪を見てすぐに散っていく。保健室もすぐそこだ、っあ)
保健室の扉に駆け寄ろうとするが、その前に見慣れた青年が立っていた。
彼は俺を見て驚いていたが、身を屈めて視線を合わせてくれる人でもあった。
「リベラちゃん、一人で出歩くなんてどうしたの!? カリタスと喧嘩でもした?」
「ち、違うよディコラルタさん。カリタス、熱が出ちゃってさ」
俺が解熱薬を貰いに来たことを伝えると、ディコラルタさんは額を押さえていた。
だが手の隙間から見える表情は、激しい怒りに染まっている。
「あの馬鹿、また体調管理を放棄したのね。しかもリベラちゃんを危険に晒して!」
「お、俺の為に動いてくれた疲れもあるから、責めないであげて。試験もあったし」
口調から察するに、カリタスは以前にも体調を気遣わずに行動した事があるらしい。
ただその怒りは理解できるが、弱った彼に追い打ちは掛けたくなかった。
――しかし当の本人が、俺の背後から姿を見せてしまう。
「わ、たしは。……大丈夫だ。それよりリベラ、一人で外出するのはやめてくれ」
「原因を作ったのはアンタでしょ! 主人が倒れたら、従魔はすぐ狙われるわよ!」
覚束ない足取りで現れたカリタスは、容赦なくディコラルタさんに怒鳴られる。
その激情は心配で出来ていたけど、勢いが正体を包み隠してしまっていた。
「今回はアタシだったけど、悪人に遭遇してた可能性もあった。その結果を、アンタは受け入れられるの?」
11
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない
波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。
異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。
強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。
彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。
しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。
「俺に触れられるのは、お前だけだ」
呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。
となります。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
短編版【けもみみ番外編】卒業の朝〜政略結婚するつもりで別れを告げた宰相子息ユリウスは黒豹エドワードの策略に嵌る〜
降魔 鬼灯
BL
銀の髪が美しい銀狼獣人ユリウスは宰相家の一人息子だ。
留学中、同室になった黒豹獣人のエドワードと深い仲になる。
子供の頃からエドワードに想いを寄せていたが、自国では同性の婚姻は認められていない。しかも、文官トップの宰相家と武官トップの騎士団長家の仲は険悪だ。
エドワードとは身体だけの関係。そう言い聞かせて、一人息子のユリウスは、帰国を期にエドワードと別れ政略結婚をする決心をする。
一方、エドワードは……。
けもみみ番外編
クロードとアンドレアに振り回される学友2人のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる