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6.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と祝祭に参加する
6-5.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と祝祭に参加する
しおりを挟む血が滲んだ足跡を残しながら、カリタスは救済したはずの場所から遠ざかる。
遅れて到着した警備隊とすれ違っても、冷めた目で一瞥するだけだった。
……そして疲れ果てたカリタスは、校舎に隠れた木陰に俺と潜り込む。
「好きなだけして、好きにしていいよ。っちょっと力入れ過ぎ、苦しいかも」
他者の目が完全になくなると、覆い被さるように彼は抱き締めてきた。
だが子供のように鼻を小さく鳴らし、睫毛も涙で濡れている。
(カリタス、相当参ってるな。でも守る為に力を使って、警戒されたらそうなるか)
彼が吐く息は気疲れを纏っていて、伏せられた目はどこも捉えていない。
碌でもない身内が精神を削ったところに、更に追い打ちをかけられてしまっていた。
「本当に、リベラは大丈夫なのか。無理して、気を遣ってることはないか」
「服従魔法は従魔だからか影響なかったし、ディコラルタさんも庇ってくれたから」
対して俺は騒動の割に、心身共に少しも傷付いていない。
だからこそ彼を慰める為にも、自身の無事を主張した。
「それにカリタスが怖くないって、俺は知ってる。じゃないとくっつけないよ」
普段は移動の為に抱えられたり、魔力を貰う為の最低限の触れ合いしか行わない。
けれど今は信頼を伝える為に、自ら密着して彼に顔を擦り寄せていた。
(頭とか撫でたら、少しは落ち着くかな。あ、思ったより猫っ毛だ)
彼に凭れ掛かりながら撫でていると、徐々に視線が俺に注がれていく。
それに気づいてぎこちなく微笑むと、彼は苦しげな息を吐いた。
「一生守るから、ずっと傍に居てくれリベラ。もう手放したくない……」
「それは大袈裟だよ。あと軽はずみに言わない方が、待って誰か来る!」
そしてカリタスの気が緩んだのに、今度は近づいてきた気配に邪魔されてしまう。
荒々しく茂みを掻き分けながら現れたのは、長い髪を振り乱した青年だった。
「クッソ、最強格の魔物だったろアレ! 相手が悪すぎた、か」
(やっぱり裏幕は、ヴァントスだったんだ。けどなんか、いつもより幼い気がする)
千切れた拘束具を手にしているから、また魔物の制御に失敗したんだろう。
けれどその指が、鎖を重そうに掴んでいるのが気になった。
しかし理由を問う前に、ヴァントスの方から口を開いてくる。
「へぇ、茂みに後天性サキュバス連れ込んでんのか。良い趣味だなぁ、カリタス」
「あぁ、楽しんでいる最中だから邪魔するなヴァントス。お前は戻って、罪を償え」
相変わらずヴァントスは挑発を投げ掛けてくるが、カリタスも鋭い目線で牽制する。
だが冗談であっても、俺との関係を恋人的に言うのは珍しい。
しかしヴァントスはそれを揶揄わず、代わりに矛先を俺へと向け続けた。
「嫌だね。つーか後天性サキュバス、へぇ、お前そういう才能あんだな」
「カリタスは今、落ち込んでるだけだ。魅了されてる訳じゃない」
ヴァントスの不躾な視線を遮ろうと、俺は衣装を拡げながら立ち上がろうとする。
だが盾にもならない抵抗は鼻で笑われ、代わりに顎で服の端を示された。
「違ぇよ、自分の体を見てみろって。指先と口の中、つか良く気づかなかったな」
(俺の爪が、黒く硬質化している。……本当だ、歯も鋭く尖ってる)
裾を握った指先が硬い音を立て、視線を落とすと爪が染めたように変色していた。
口内に触れると鋭くなった犬歯に引っかかり、自分が変貌していることに気づく。
「リベラ、どの段階で変化したか分かるか!? 痛みは、違和感はあるか」
「な、ない、大丈夫。全然気づかなかったくらいだし」
異常を察知して心配するカリタスに肩を掴まれるが、俺も今気づいたくらいだ。
だがこの変貌はヴァントスの興味を強く惹き、悪い冗談すら鳴りを潜める。
「蘇生した魔物の特徴を取り込んでんな。かなり強い種族の真似事ができんのか」
普段とは違う好奇の視線から隠そうと、カリタスは俺を背後に隠す。
だがヴァントスは気にした様子もなく、変質した淫魔を眺め続けていた。
「リベラ、診察を受けに行こう。ヴァントス、お前に構っている暇はなくなった!」
「ただの防御反応だから、命に支障はねぇよ。だが、利用価値は出てきたな」
問題が手に負えないと悟ったカリタスは俺を抱き、保険室に向かおうと背を向ける。
対してヴァントスは冷静だが、その声には不穏な響きが滲んでいた。
……けれど彼の言葉に、俺は内心同意している。
(確かにこの鋭さがあれば、威嚇くらいはできるようになるな)
魔物には到底太刀打ち出来ないが、人間相手なら多少は時間稼ぎができる。
幼獣程度の武器だが、それは俺が渇望していた物の一端ではあった。
だが変化は一時的なもので、保険室についた時には既に元に戻っていた。
診察を終えた仮面の校医も、「特別な処方は必要なし」と結論付ける。
「サキュバスの防御本能による、一時的な身体変化だね。すぐ戻るよ」
「良かった。しかしヴァントスが野放しになっているが、処罰はどうするんだ」
俺の無事が分かると、今度はヴァントスへと話題が流れる。
有耶無耶になっていたが、確かに騒動の原因は彼だった。
だが秩序を守るべき大人は、仮面の隙間から気怠い視線を送っただけで終わらせる。
「怒った生徒たちが私刑にしたから、もう不要でしょ。今は刺激したくないし」
「いつも思うが、ヴァントスへの対応が甘すぎる。対策は考えられないのか」
カリタスは不満そうに眉を顰めるが、だがそれ以上にクピド先生は口を尖らせる。
いつも表面上は穏やかだから、こうも負の感情を表出するのは初めて見た。
「やりたくない。この学校を設立して、君を特待生にした理由を知ってるでしょ」
(面倒じゃなくて、やりたくない? あとカリタスの入学に、先生が関わってる?)
不可思議な発言に俺は疑問を抱くが、カリタスは思い出したように頭を下げる。
するとクピド先生は不機嫌な表情を霧散させ、薄い笑顔を浮かばせた。
「……そうだな、私が間違っていた。日常に夢中となって、契約を忘れていた」
「思い出してくれれば良いよ。時期もまだ、少し早いから」
カリタスと契約していたのは、どうも俺だけじゃなかったらしい。
主従や保護関係ではなく、もっと乾いた繋がりのようだけど。
「本当は閉じ込めたいんだけどね。でもいずれ、僕の元に戻るから我慢してるんだ」
二人は知らない話を交わしているが、その会話に混ざろうとは思わない。
ただ時折感じる、クピド先生への不信感が重なり続けていた。
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