【完結】売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と期限付き契約を交わす

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)

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7.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師のせいで情緒不安定に陥る

7-7.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師のせいで情緒不安定に陥る

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弱い後天性サキュバスの体では、一度に変化を促す薬には耐えられない。
だから何度も裏市場に足を運び、拒絶反応を抑える必要があった。

(爪の先が、少しだけ硬質化してる。不調もないし、牙の方も鋭くなってきた)

裏で魔物学や薬学の本を読み漁り、必要な材料を集めていく。
薬が喉を焼く痛みにも耐え、数日後に努力が実り出した。

(闇市で手に入った、上位種の血も馴染んでる。これならちゃんと強くなれる)

人の姿から離れ始めた体を隠す為、出来る限り飾り付けられた衣装を身につける。 
ずっと俺は肌を隠したがっていたから、不審に思われることもない。

……けれど杜撰な計画を進められたのは、僅かな期間だけだった。 



「リベラ、その爪はどうしたんだ。まさか、魔物化が再発したのか!?」
(マズい、こんなに早く見つかるとは思わなかった。血の瓶も、まだ隠せてない)

異なる魔物の血が入った薬を飲み続けたせいで、予想外の症状が表れてしまった。
そしてカリタスが帰ってくるまでに抑えられず、俺は蹲った状態で発見される。

(逃げたい、嫌われる覚悟は決めたはずなのに。あ、瓶が音を立てた)

焦って衣装の中に押し込んでいた瓶が滑り落ち、粉々に砕け散った。
魔物特有の魔力が漂って、カリタスが状況を把握してしまう。

「……血を得た過程は、後で聞く。それより、クピドの元に向かおう」
(カリタス、もう気づいてる。俺が、魔物になろうとしたことに)

細長くなった瞳孔も、斑に生えた鱗も、肥大化した角も。
全て、全て見られてしまった。

(逃げなきゃ、もう説得力なんかない。俺は、カリタスを裏切ったんだから)

カリタスは腕を伸ばしてくるが、怯えや痛みに耐えて俺は無理矢理後ずさる。
これから与えられるとしたら、それは罰だと分かり切っていたから。

「っリベラ、服に血が滲んでいる! どの魔物を再現しようとしたんだ!?」
「色々飲んだから、もう分からない。だから退いて、巻き込まれるよ」

けれど彼が処分を下すよりも早く、体の中から罪の形が現れた。
全身に針で刺したような痛みが走り、血と共に羽毛が這い出してくる。

(服を引き裂いて、背中から羽根が生えてくる。体が部屋の中を浮かびまわる)

骨が有り得ない形に変化し、皮膚を突き破って枝分かれする。
窓に映った俺は、出来損ないの半人半鳥になっていた。

「リベラ、一度降りてきてくれ! そのままだと、大怪我をしてしまう!」
「気にしないでよ。すぐに出ていくから、っうあ!」

無力で愛らしい人形だった面影はなく、そこにあるのは裏切り者の末路のみ。
だがそれが見えたのも一瞬で、血に濡れた翼が意に反して暴れまわった。

(カリタスの顔が見れない。でも想像はできる、この人は魔物嫌いだから)

部屋の壁や床に打ちつけられる醜い体を、カリタスは掴もうともがいている。
だが追われる気配に本能が怯え、逃げ場を求めた翼は窓へ向かった。

「恩を仇で返して、本当にごめん。でもすぐに、目の前から消えるから」

必死に叫ぶカリタスの声を聞きながら、俺は部屋の外へ投げ出される。
届かない彼の手を見つめて、もう彼を傷つけなくていい事に安堵する。

「忘れて」

落下を始めた体とは更に距離が生まれ、カリタスの声すらも掻き消していく。
なのに彼の絶望したような眼差しが、脳裏に焼きついて離れなかった。



翼の制御は出来なかったが、魔物化した肉体は落下の衝撃に耐え切った。
明るい未来なんて望めないんだから、死んだって良いと思ってたのに。

(普段なら追いつかれるけど、この翼なら逃げられる。それが悲しいなんて我儘だ)

元から生えていた黒く小さい翼は、新しいそれに押し潰されてしまっていた。
だが無秩序であっても飛行能力を備えているから、まだ動くことはできる。

(硝子を突き破ったせいで、血が止まらない。興奮で痛みは感じないけど)

遂にカリタスと決裂してしまった事実に頭が追いつかず、逆に恐怖心は薄れてきた。
いつもなら怖くて仕方ない部屋の外も、力を得た万能感で塗り潰されている。

けどそれが危険の兆候だというのは、流石の俺にも理解していた。

(っていうかここ、魔物学科の寮じゃん。見つかる前に、早く移動しなきゃ)

以前より俺は強くなったが、この程度の魔物など掃いて捨てるほど存在する。
それに体は薬に馴染み切っておらず、安定するまで身を隠すべきだったが。

「おい、もう消灯時間は過ぎているぞ! なにをそんなに騒いでいるんだ!」
(やばい、見回りをしてる監督生だ。しかも連れてる魔物が、俺を察知してる!)

小競り合いが多い魔物学科は、定期的に監視役が巡回している。
当然彼らの従魔も同伴し、危険分子の制圧を任せられていた。

「ん、そこになにかいるのか? 野良の魔物なら教師に連絡を、っておい!」
(血の匂いに反応して、こっちに走ってくる! うあ、爪が変質して痛い!)

距離を詰めてくる従魔に反応した体が、指先に無骨な爪を無理矢理作り出す。
接触前に従魔は制止させられたが、監督生は俺の姿に絶句していた。

「待て、俺の言うことを聞け! あれは後天性サキュバス、……なのか? 本当に」
(体内で混じった血が、恐怖で覚醒する。目の前の敵を、排除しろと告げてくる)

体の中で複数の因子が目を覚まし、肉体を別方向に作り替えていく。
まだ人型を保ってはいるが、俺の意識は混濁し始めていた。

「やめろ、こっちに攻撃の意思はない! お前も落ち着け、っあ」

監督生一人では状況に対応できず、彼の従魔も正体不明の敵に唸り続けている。
それに俺は攻撃衝動を刺激され、翼を拡げて威嚇を返してしまっていた。

そして暴れる従魔を抑え切れなかった監督生が、俺の前に投げ出されてしまう。

(体が言うことを聞かない。爪の先端が、彼の首を狙って――)
「よそ見をするな、リベラ。私を見ろ」

だが飛び出してきた獲物に爪を振り下ろす瞬間、圧倒的な魔力に押し潰される。
同時にカリタスが場へ介入し、強引に俺を抱き寄せてきた。
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