神の国から逃げた神さまが、こっそり日本の家に住まうことになりました。

羽鶴 舞

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10.神さまと水族館へ遊びに行く

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 七福駅近くにある七福水族館は、このあたり地域で最も大きい水族館。
 イルカショーやアザラシショー、ペンギンの触れ合い、色鮮やかな熱帯魚やウミガメなどを眺めるトンネルのような水槽までもある。
 今はクラゲがブームらしく、クラゲコーナーが1番にぎわっている。

 コノハはクラゲの水槽ガラスに、ぴたっとくっついて眺めていた。

「おお――、あたし、クラゲみたいな生き方したいな」

 神さま、現実逃避しないでください。


 ほんの少し前――
 
 思兼神オモイカネ様からくださった神の法についての本を読んでみたけど、分厚くて、難解な言葉がずら――っと書かれていた。

 これって、めちゃ難しい内容じゃないですか!

 なになに……
 
 いにしへ天地未あめつちいまわかれず、陰陽めをわかれず。
 その清陽せいようなるものは、薄靡たなびきて天になり、重濁じゅうだくなるものは、滝滞とどこほりて―――― 

「…………」

 思わず、分厚い本をそっと閉じた。

 これが名を授かるための試験なのか。
 不安になった僕は、コノハにどうやって教えたらいいのかと頭を抱えた。

 そんな時に、コノハから嬉しそうな笑みを浮かべながら、僕の背中に乗せて言った。

「アキラっ! 悩むなら気分をスッキリするといいよ! 教えるのが上手いアキラならできるっ! だって、生活の仕方とか、料理の仕方とか、すらすらと頭入るんだもんっ!」

 続いて、魚やペンギンのショーをやっている画面が映っているテレビに指を差して、おねだりした。
 
「気分転換しようよっ! ここ、水族館に行きたい!」

 そういうやり取りで、コノハと水族館に行っている。
 

「アキラさん、コノハの進展はいかがですか?」

 突然、呼びかけられた方向に振り返ると、キャミソールにきれいなワンピース、うっとりするほどの美貌を備わっている女性。天女様と思わせるような――って天照大神様ではないですか!

「天照大――っ」

 僕の口の前に、天照大神様の人差し指で押し止められた。
 
 あっ、僕の唇に指で押さえるなんて……。

 天照大神様が、シーっというような仕草で、口の前に人差し指で当てて言った。

「ここでは目立つでしょう。
 そうですね。ここは、ハルカとお呼びくださいな」

「ハルカ……様?」

 天照大神様がうっとりするような微笑みを浮かべ、人差し指を立ち、小首を斜めにしていた。
 見惚れてしまった僕は一瞬、頭が真っ白になりそうだった。
 
「神さまはコノハでしょう? ならば、私は姉の役割として、しりとりという方法でハルカという名前にしました」

 コノハのハからハルカってことね。
 神様たちは一体、何を考えているのか分からない……。

「アキラっ! 遅いよ! 何して……げぇっ! 天照大神様っ!」

 だが、コノハが大きく声を上げたことで、目立ってしまった。
 周りが、神がいるのかというような視線が集まってきた。

「アマテラスオオミカミ? アマテラス様がいるのか?」

「あの少女じゃないか? めちゃ可愛いじゃないか!」

「可愛い姉妹がいるようだが、隣に男がいるぞ!」

 場がざわざわとしてしまった。

 天照大神様ことハルカさんは、額に青筋を立てながら微笑んでいた。

「ハルカと呼んでくださいな」

「ハ? ハルカ? 天て……はい。ハルカお姉ちゃん! 大きな声出してごめんなさい!」

 天照大神様の有無を言わせない視線を感じ、コノハは頭を縦に何度も振っていた。

 周りは神様ごっこだと思っていたのか、ざわめきが落ち着いてきたようだ。
 ハルカさんは安堵したかように、ホッと胸をなでおろした。

「そろそろ、イルカショーが始まるそうです。一緒に見に行きませんか?」

 ハルカさんのお誘いに、僕とコノハは畏まったようにイエスと答えた。


「イルカのショーへようこそっ! お待たせしました! 優雅なイルカたちをご覧くださいませ――!」
 
 青いウェットスーツを着ているお姉さんの掛け声で、観客は、

「「「わあぁぁぁ」」」と歓声があがった。

 イルカたちが水しぶきをあげて、躍動感あふれた飛び跳ねを見せる光景に、

「可愛いイルカだね――」と喜ぶコノハに、「演技に力入れていますね」と感心するハルカさん。

 2柱の神様と一緒に、水族館デートを楽しむのだった。
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