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第一章
16 家族:大切な時間
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僕はベッドで考え事をしていたがいつの間にか眠ってしまった――
そして今日、僕は家族と過ごす最後の一日だ。
最後といっても学校の寮に入るだけでずっと会えないわけではない。長期休みや親からの緊急の連絡があれば数日間帰ることは許されている。それでも年に数回だけで、それも確実に帰省できるかはわからない。
この国では7年の間学校に通わなければならないという決まりがある、つまり僕が二十歳になるまでだ。
学校に通う方が何かと都合が良いと思っていたが、家族と離れるのは少し寂しいものだな。
――たった一ヶ月だった。
転生してこっちの世界の両親がいることを知り、妹がいることを知り、ただエーデルを演じる事を考えいた。でも自分が思う以上に周りは優しくて僕に愛をくれて、僕を本当のエーデルのように接してくれて。僕はエーデルにしかなれなかった。
『罪悪感は無いか?』と言われると――ないとは言い切れない。
この気持ちを誰かにわかって欲しくて、1人じゃ抱えきれなくて、話してしまおうか? 僕はエーデルじゃなくて大夢なんだって誰でもいいからわかってくれないか? そう思ったこともあった。でも言えなかった――嫌われたくなかった。
今向けられている温かい目が冷めた目になるのが怖い。
だから何かで気を紛らわしたい時にタイミングよくアレクと出会い鍛錬に打ち込んだ。
結局僕はどの世界でも現実から目を背け、逃げているのだろうか――
今日という日はいつもと変わらず、アルメリアと庭で昼寝をしたり、クラウスの武勇伝を聞いたり、カルラの編み物を手伝ったり、家族四人で朝昼晩ご飯食べたり、最後の日だからといって特に何かをするわけではなかった。
ひとつだけいつもと違う事といえばクラウスが仕事の休みを取ってくれたということ。いつも人手が足りないと口癖のように言っているのに、これはエーデルの為だろう。
いつもと変わらない方が僕が落ち着いていられるという家族皆んなの配慮だ。特別感があればある程、最後という実感が湧いてしまうから。
そして夜、何故かアルメリアが僕の部屋に来た。
小さくトントンと部屋の扉を二回叩くと、そっと扉を開けて少しの隙間からアルメリアは顔を覗かせた。
「アル? どうした?」
「お兄ちゃん、今日一緒に寝てもいい?」
?!待てよ?!可愛すぎないか?!
「いいよ。おいでアル」
僕はベッドから体を起こし、布団をあけた。
アルメリアはよいしょと言いながらベッドに上がり布団に入ると満足そうな顔をした。
記憶ではアルメリアが六歳から九歳まではエーデルと二人部屋で、時々こうして一緒に寝ていたようだが、十歳になってからは部屋が別になり、一緒に寝る事もなかったようだ。
百合にもこんな時があったな。雷が怖くて一緒に寝たり、心霊番組を観た後一人でトイレに行けなくて、夜中に起こされてトイレまでついて行ったり、かと思いきや朝起きたら勝手に隣で寝ていたり、懐かしい思い出だが、今や語り合える人もいない。
「お兄ちゃん寂しいね。本当は私とても寂しいんだよ、絶対お兄ちゃんのこと恋しくなると思うの」
「うん、僕も寂しいよ、僕もアルのこと恋しがるよ」
(……君が恋しいと思うのは僕じゃないんだ――ごめんね。でもどうすることもできないんだ。本当にごめんねアルメリア)
「でも後三年経てば、お兄ちゃんとまた沢山一緒にいられるね」
「そうだね、先に行って待ってるよ」
アルメリアは今年十歳だ。十三歳になれば成人で、僕と同じ学校に通う事になるだろう。その時はアルメリアも寮に入り、頻繁に会うことができる。
「もう寝ようかアル、おやすみ」
「おやすみ、お兄ちゃん」
翌日、僕は荷造りした大きい鞄を持ち一階のリビングに降りた。テーブルには朝食が並んでいる、これを食べたら僕はこの家を出る。僕は椅子に座りパンを口に運んだ。
朝起きた時既にアルメリアの姿はなかった。何故か朝食の席にアルメリアの姿がない。
エーデルとの別れが寂しくて、小さい反抗で部屋に篭っているのだろうか?
朝食を終えて、遂に家を出る時間になった。
カルラとクラウスは僕の額にキスをした。
――最初は驚いたが、これも慣れたもんだ。
二人は目に涙を浮かべ今にも泣きそうな表情とは裏腹に応援の言葉をくれた。
「エーデル頑張れよ。お前は強い、お前が立派になって帰ってくるのを楽しみに待っているよ」
「うん、帰ってきたらパパの仕事手伝わせてほしい」
「ハハッ。前は嫌だって言ってたのに、お前は嬉しい事を言ってくれるな、成長したんだな」
「エーデル・アイビス……あなたは私たちの宝物よ。あなたは特別で何だってできる子なんだから、自由に生きなさい。何かあったらいつでも家族を頼りなさい」
「ありがとうママ。大好きだよ」
「私もよ」
僕は手を大きく広げて、二人を抱きしめた。
父と母が生きてくれてたらこんな感じだったのか……
たった一ヶ月の家族でもこんなにも情が生まれるものなんだな。僕は大きく広げた手を戻したくなくて、二人を抱きしめた手を離したくなくてしょうがない――
すると息を切らしたアルメリアが僕の元に走ってきた。
「アル、どうしたんだ? 朝からいなくてもう会えないかと思ったんだぞ」
「ハアハア、お兄ちゃんにこれを渡したくて」
小さい両手で大切そうに持っていたのは四角く白い石だった。
「……石?」
石をまじまじと見てみると、裏に「エーデル」と名前が彫ってあった。
「これ去年お兄ちゃんと海で拾った石に名前を掘ったの。これお守りだよ」
朝いなかったのは石に名前を掘るためか、僕のために小さい手を汚して名前を掘ってお守りを作ってくれた。僕はアルメリアを抱きしめた。
「ありがとうアル。大切ににするよ」
「毎日ポケットに入れてね」
石のお守りを大切に胸ポケットに入れて、僕は顔を上げた。
「じゃあ、行ってきます」
家族一人一人の顔を見てこの顔を忘れないように記憶して、この家族を守れる人になるように学校への道を足を歩み出した――
そして今日、僕は家族と過ごす最後の一日だ。
最後といっても学校の寮に入るだけでずっと会えないわけではない。長期休みや親からの緊急の連絡があれば数日間帰ることは許されている。それでも年に数回だけで、それも確実に帰省できるかはわからない。
この国では7年の間学校に通わなければならないという決まりがある、つまり僕が二十歳になるまでだ。
学校に通う方が何かと都合が良いと思っていたが、家族と離れるのは少し寂しいものだな。
――たった一ヶ月だった。
転生してこっちの世界の両親がいることを知り、妹がいることを知り、ただエーデルを演じる事を考えいた。でも自分が思う以上に周りは優しくて僕に愛をくれて、僕を本当のエーデルのように接してくれて。僕はエーデルにしかなれなかった。
『罪悪感は無いか?』と言われると――ないとは言い切れない。
この気持ちを誰かにわかって欲しくて、1人じゃ抱えきれなくて、話してしまおうか? 僕はエーデルじゃなくて大夢なんだって誰でもいいからわかってくれないか? そう思ったこともあった。でも言えなかった――嫌われたくなかった。
今向けられている温かい目が冷めた目になるのが怖い。
だから何かで気を紛らわしたい時にタイミングよくアレクと出会い鍛錬に打ち込んだ。
結局僕はどの世界でも現実から目を背け、逃げているのだろうか――
今日という日はいつもと変わらず、アルメリアと庭で昼寝をしたり、クラウスの武勇伝を聞いたり、カルラの編み物を手伝ったり、家族四人で朝昼晩ご飯食べたり、最後の日だからといって特に何かをするわけではなかった。
ひとつだけいつもと違う事といえばクラウスが仕事の休みを取ってくれたということ。いつも人手が足りないと口癖のように言っているのに、これはエーデルの為だろう。
いつもと変わらない方が僕が落ち着いていられるという家族皆んなの配慮だ。特別感があればある程、最後という実感が湧いてしまうから。
そして夜、何故かアルメリアが僕の部屋に来た。
小さくトントンと部屋の扉を二回叩くと、そっと扉を開けて少しの隙間からアルメリアは顔を覗かせた。
「アル? どうした?」
「お兄ちゃん、今日一緒に寝てもいい?」
?!待てよ?!可愛すぎないか?!
「いいよ。おいでアル」
僕はベッドから体を起こし、布団をあけた。
アルメリアはよいしょと言いながらベッドに上がり布団に入ると満足そうな顔をした。
記憶ではアルメリアが六歳から九歳まではエーデルと二人部屋で、時々こうして一緒に寝ていたようだが、十歳になってからは部屋が別になり、一緒に寝る事もなかったようだ。
百合にもこんな時があったな。雷が怖くて一緒に寝たり、心霊番組を観た後一人でトイレに行けなくて、夜中に起こされてトイレまでついて行ったり、かと思いきや朝起きたら勝手に隣で寝ていたり、懐かしい思い出だが、今や語り合える人もいない。
「お兄ちゃん寂しいね。本当は私とても寂しいんだよ、絶対お兄ちゃんのこと恋しくなると思うの」
「うん、僕も寂しいよ、僕もアルのこと恋しがるよ」
(……君が恋しいと思うのは僕じゃないんだ――ごめんね。でもどうすることもできないんだ。本当にごめんねアルメリア)
「でも後三年経てば、お兄ちゃんとまた沢山一緒にいられるね」
「そうだね、先に行って待ってるよ」
アルメリアは今年十歳だ。十三歳になれば成人で、僕と同じ学校に通う事になるだろう。その時はアルメリアも寮に入り、頻繁に会うことができる。
「もう寝ようかアル、おやすみ」
「おやすみ、お兄ちゃん」
翌日、僕は荷造りした大きい鞄を持ち一階のリビングに降りた。テーブルには朝食が並んでいる、これを食べたら僕はこの家を出る。僕は椅子に座りパンを口に運んだ。
朝起きた時既にアルメリアの姿はなかった。何故か朝食の席にアルメリアの姿がない。
エーデルとの別れが寂しくて、小さい反抗で部屋に篭っているのだろうか?
朝食を終えて、遂に家を出る時間になった。
カルラとクラウスは僕の額にキスをした。
――最初は驚いたが、これも慣れたもんだ。
二人は目に涙を浮かべ今にも泣きそうな表情とは裏腹に応援の言葉をくれた。
「エーデル頑張れよ。お前は強い、お前が立派になって帰ってくるのを楽しみに待っているよ」
「うん、帰ってきたらパパの仕事手伝わせてほしい」
「ハハッ。前は嫌だって言ってたのに、お前は嬉しい事を言ってくれるな、成長したんだな」
「エーデル・アイビス……あなたは私たちの宝物よ。あなたは特別で何だってできる子なんだから、自由に生きなさい。何かあったらいつでも家族を頼りなさい」
「ありがとうママ。大好きだよ」
「私もよ」
僕は手を大きく広げて、二人を抱きしめた。
父と母が生きてくれてたらこんな感じだったのか……
たった一ヶ月の家族でもこんなにも情が生まれるものなんだな。僕は大きく広げた手を戻したくなくて、二人を抱きしめた手を離したくなくてしょうがない――
すると息を切らしたアルメリアが僕の元に走ってきた。
「アル、どうしたんだ? 朝からいなくてもう会えないかと思ったんだぞ」
「ハアハア、お兄ちゃんにこれを渡したくて」
小さい両手で大切そうに持っていたのは四角く白い石だった。
「……石?」
石をまじまじと見てみると、裏に「エーデル」と名前が彫ってあった。
「これ去年お兄ちゃんと海で拾った石に名前を掘ったの。これお守りだよ」
朝いなかったのは石に名前を掘るためか、僕のために小さい手を汚して名前を掘ってお守りを作ってくれた。僕はアルメリアを抱きしめた。
「ありがとうアル。大切ににするよ」
「毎日ポケットに入れてね」
石のお守りを大切に胸ポケットに入れて、僕は顔を上げた。
「じゃあ、行ってきます」
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