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第二章
18 アルメリアの想い②
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その瞬間思っちゃったの。
『…………誰?』
私を見た瞬間、泣き出しそうな顔をして、尊い何かを見るような目で、まるで会いたかった子にやっと会えたような表情。
アルメリア。お兄ちゃんにそう呼ばれたのはずっと前。
いきなりアルメリアと呼ぶのはおかしい――
私は頭は良くないけど、家族の異変に気づかないほど馬鹿じゃない。
そして私は少し探ることにした。
お兄ちゃんの昨日の言葉と、今日からの言動と行動を今まで以上に監視して、比較してみることにした。
数日が経ち、わかったことがある。
確かに見た目も声も兄だった。でも話し方や仕草には違和感がある。そして何より私のことを見ているはずなのに――見ていない。ずっと遠くを見ている気がする。
誰かと重ねているの?
頑張って兄に似せているけど、少し違う。
ボロを出さないように徹底しているから多分問い詰めてもきっと何も出さない。
それに「明日からの兄ちゃんも好きなままでいてくれるか?」この言葉がどうしても引っかかる。
これは多分、今のお兄ちゃんと関係している気がする。
そしてお兄ちゃんに師匠が付いた――名前はアレク・ブルータル。
最初かっこいい人だなって思ってたのに、後日女だったって聞いてガッカリした。それと同時にあまりにも二人の仲が良かったからお兄ちゃんが取られるかもしれないと思ったのも事実。でもお兄ちゃんがもし中身が違う人なら腹が立つし、憎たらしい。
あの優しくて、私のことが大好きなお兄ちゃんはどこ行ったの?
私の今考えいることは全て憶測でしかないけど、私はアレクとお兄ちゃんに対して八つ当たりをした。
その日は家を出て一人で散歩をしていた。
考えることが山積みで少し気晴らしに外の空気を吸いに行っただけなのに――私は迷子になった。
いつもの道のはずなのに、なぜか森に入ってしまったのだ。
森は木が太陽を拒み光を入れなかった。昼なのに夜のような感覚――怖い。
歩き続けているうちに来た道がわからなくなってしまった。
これからどうしようか。私はすぐそばにある横に倒れた木に腰を下ろした。
――前にもこんなことがあった。
以前家族で海に出かけたことがある。
海は小さいから端から端まで歩いていける距離だと思って、お兄ちゃんと一緒に海の周り一周しようと歩いていたら、いつの間にか暗くなってきて、パパとママのところに帰ることができなくなった。
その時はお兄ちゃんもいたし、お兄ちゃんは頭がいいから冷静な判断ができた。
「これ以上歩いたらパパとママとすれ違うかもしれない、だからここで座って探しに来るのを待とう」と言った。
その後本当にパパとママが探しに来てくれて、私は安心して泣いた。泣き疲れて寝ちゃってその後は覚えていないけど、お兄ちゃんはずっと私の頭を撫でてくれた。
でも今は一人だ。
「お兄ちゃんに会いたいな」
私はボソッと独り言を呟いた。
その時でサカサカと音がした。後ろの茂みが揺れている。
何?
茂みの中から1匹の猫がゆっくりとこちらに歩いてきた。
黄色の綺麗な毛並みをした猫が私の足に擦り寄り、ゴロゴロと音を鳴らした。
「君も迷子なの? ……君の目は綺麗な水色ね」
空が反射して透き通った水のような目をしている。猫に懐かれたことはないのに、私のの不安が伝わったのか、猫の擦り寄る仕草は励ましてくれているように感じた。
猫のおかげで気持ちは紛れた。紛れたどころか、この子を見ていると何故だが安心して涙が出そうになる。
「可愛い……私最近寂しいの。うちの子になる?」
猫の頭を撫でた。
誰か迎えにきてくれるだろうか……私が迷子だって、困ってるって助けに来てくれる人はいるだろうか……
「……お兄ちゃん……」
すると遠くから私の名前を呼ぶ声が聞こえた――
「アルメリアー!」
私は立ち上がり、この声の主が誰なのかすぐに理解した。
「……お兄ちゃーん!」
私は兄に駆け寄り、兄の胸に飛び込んだ。
「お兄ちゃん……ごめんなさい」
「良かった。本当に……寂しかっただろう……怪我はないか?」
「うん! 大丈夫。猫ちゃんが一緒いてくれたから……あれ?」
「猫……どこにもいないよ?」
「さっきまでいたの」
「そうか……また会えるといいな。帰ろうアルメリア」
お兄ちゃんはまだ私をアルメリアと呼ぶ時がある。
結局この人は誰なのか?
一ヶ月の間、私は沢山考えた。兄の言葉、兄の行動、全て憶測でしかない。全て空想の世界の物語なのかもしれない。私は兄のように頭は良くないけれど、少しだけ理解できることがあった。
「アルにはまだ時間がある――」
でも私は今の兄も嫌いじゃない、私を見ているかもしれないし、私を見ていないかもしれない、私を誰かに重ねているとしても。
街のお土産を買ってきてくれた。
私の頭を優しく撫でてくれた。
迷子になった時『私を』探しにきてくれた。
いつかお兄ちゃんが戻って来れるように、私はお兄ちゃんと行った海で拾った思い出の石のお守りを渡した。お兄ちゃんの身に危険なことがありませんようにと願って。
お兄ちゃんとの約束を守るために、私は今のお兄ちゃんを好きになると決めた。
「いつか私が眠りにつく日まで――」
『…………誰?』
私を見た瞬間、泣き出しそうな顔をして、尊い何かを見るような目で、まるで会いたかった子にやっと会えたような表情。
アルメリア。お兄ちゃんにそう呼ばれたのはずっと前。
いきなりアルメリアと呼ぶのはおかしい――
私は頭は良くないけど、家族の異変に気づかないほど馬鹿じゃない。
そして私は少し探ることにした。
お兄ちゃんの昨日の言葉と、今日からの言動と行動を今まで以上に監視して、比較してみることにした。
数日が経ち、わかったことがある。
確かに見た目も声も兄だった。でも話し方や仕草には違和感がある。そして何より私のことを見ているはずなのに――見ていない。ずっと遠くを見ている気がする。
誰かと重ねているの?
頑張って兄に似せているけど、少し違う。
ボロを出さないように徹底しているから多分問い詰めてもきっと何も出さない。
それに「明日からの兄ちゃんも好きなままでいてくれるか?」この言葉がどうしても引っかかる。
これは多分、今のお兄ちゃんと関係している気がする。
そしてお兄ちゃんに師匠が付いた――名前はアレク・ブルータル。
最初かっこいい人だなって思ってたのに、後日女だったって聞いてガッカリした。それと同時にあまりにも二人の仲が良かったからお兄ちゃんが取られるかもしれないと思ったのも事実。でもお兄ちゃんがもし中身が違う人なら腹が立つし、憎たらしい。
あの優しくて、私のことが大好きなお兄ちゃんはどこ行ったの?
私の今考えいることは全て憶測でしかないけど、私はアレクとお兄ちゃんに対して八つ当たりをした。
その日は家を出て一人で散歩をしていた。
考えることが山積みで少し気晴らしに外の空気を吸いに行っただけなのに――私は迷子になった。
いつもの道のはずなのに、なぜか森に入ってしまったのだ。
森は木が太陽を拒み光を入れなかった。昼なのに夜のような感覚――怖い。
歩き続けているうちに来た道がわからなくなってしまった。
これからどうしようか。私はすぐそばにある横に倒れた木に腰を下ろした。
――前にもこんなことがあった。
以前家族で海に出かけたことがある。
海は小さいから端から端まで歩いていける距離だと思って、お兄ちゃんと一緒に海の周り一周しようと歩いていたら、いつの間にか暗くなってきて、パパとママのところに帰ることができなくなった。
その時はお兄ちゃんもいたし、お兄ちゃんは頭がいいから冷静な判断ができた。
「これ以上歩いたらパパとママとすれ違うかもしれない、だからここで座って探しに来るのを待とう」と言った。
その後本当にパパとママが探しに来てくれて、私は安心して泣いた。泣き疲れて寝ちゃってその後は覚えていないけど、お兄ちゃんはずっと私の頭を撫でてくれた。
でも今は一人だ。
「お兄ちゃんに会いたいな」
私はボソッと独り言を呟いた。
その時でサカサカと音がした。後ろの茂みが揺れている。
何?
茂みの中から1匹の猫がゆっくりとこちらに歩いてきた。
黄色の綺麗な毛並みをした猫が私の足に擦り寄り、ゴロゴロと音を鳴らした。
「君も迷子なの? ……君の目は綺麗な水色ね」
空が反射して透き通った水のような目をしている。猫に懐かれたことはないのに、私のの不安が伝わったのか、猫の擦り寄る仕草は励ましてくれているように感じた。
猫のおかげで気持ちは紛れた。紛れたどころか、この子を見ていると何故だが安心して涙が出そうになる。
「可愛い……私最近寂しいの。うちの子になる?」
猫の頭を撫でた。
誰か迎えにきてくれるだろうか……私が迷子だって、困ってるって助けに来てくれる人はいるだろうか……
「……お兄ちゃん……」
すると遠くから私の名前を呼ぶ声が聞こえた――
「アルメリアー!」
私は立ち上がり、この声の主が誰なのかすぐに理解した。
「……お兄ちゃーん!」
私は兄に駆け寄り、兄の胸に飛び込んだ。
「お兄ちゃん……ごめんなさい」
「良かった。本当に……寂しかっただろう……怪我はないか?」
「うん! 大丈夫。猫ちゃんが一緒いてくれたから……あれ?」
「猫……どこにもいないよ?」
「さっきまでいたの」
「そうか……また会えるといいな。帰ろうアルメリア」
お兄ちゃんはまだ私をアルメリアと呼ぶ時がある。
結局この人は誰なのか?
一ヶ月の間、私は沢山考えた。兄の言葉、兄の行動、全て憶測でしかない。全て空想の世界の物語なのかもしれない。私は兄のように頭は良くないけれど、少しだけ理解できることがあった。
「アルにはまだ時間がある――」
でも私は今の兄も嫌いじゃない、私を見ているかもしれないし、私を見ていないかもしれない、私を誰かに重ねているとしても。
街のお土産を買ってきてくれた。
私の頭を優しく撫でてくれた。
迷子になった時『私を』探しにきてくれた。
いつかお兄ちゃんが戻って来れるように、私はお兄ちゃんと行った海で拾った思い出の石のお守りを渡した。お兄ちゃんの身に危険なことがありませんようにと願って。
お兄ちゃんとの約束を守るために、私は今のお兄ちゃんを好きになると決めた。
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