短編集

石鶴咲良

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エイプリルフール

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これは一人の男の子と悪い悪い嘘つきな私の話。
昔々…と言っても二十年くらい前のこと、男の子は言いました。
「おれ、ぜったいおまえとけっこんする!!」
遊んでいるときは普通に大きな声で笑ったり、泣いたりするのに、その時だけはとてもとても小さくて、声変りをする前の高くてかわいらしい声で。
だけれど、晴れた夜の星空のようにキラキラ輝いた目にはしっかり私の目を見据えていて。
その強がりな顔を後ろに見える夕日のように真っ赤に染めながら。
ドクンドクンと波打つ鼓動はとても大きく早く私の耳を包んで行くのです。
気づいたときには顔がとても熱くて私の耳には何もかもがぼんやりと膜が張ってしまったかのような聞こえ方をするのでした。
先に目を離したのは私の方でした。恥ずかしさと、よくわからない感情がこころにあふれてしまってうつむいてしまったのです。
「あ…あたしは…あたしは…そんなのしらない!!!」
心にたまるばかりのその感情を、湧き上がってくるマグマのようなその気持ちを、どうにか抑え込もうとした言葉がそれでした。
まるで相手を威圧するように。
きっと本当は誰に言いたかったわけでもなく、ただ、もやもやする自分が嫌で、口をついて出た言葉。心にかかった靄を振り払うように、強く、激しく。心の中で暴れる自分をそのまま口に出していました。
少しだけ男の子を見たとき、先ほどのキラキラしたその眼がまるでかみなりぐもが出たときのように暗く、陰っているのが見えたのです。
「そ…っか…。ごめん…。」
ぽつりとこぼれたその言葉とともに、彼はクシャりと前髪を握りしめて私と同じようにうつむいてしまいました。
あたりは、まるで雨でも降っているのかと思うほどに静かで。
雷の落ちる日のように顔は暗く陰っていて。
「ほんとに、ごめんね。」
陰った顔を必死に作り変えて彼は微笑んで。
そのまま、彼は走り去っていきました。
小さな背中、けれど、私の思い出では一番大きな背中。私が突き放した狂おしいほど今も愛しい彼の背中。
それからというもの、私は時たま夢に見ては自分を呪ったのです。
本当のことを言えずに、こころのざわめきを消すことばかりを考えたあの自分を。
謝りたいという決心ができたころ、男の子はもう、近くには居ませんでした。
それはそれは虚しくて、悲しくて、ちょっぴり切なくて。今となっては忘れられない大事な大事な恋の物語。


「あたしね、ほんとは知ってたの。本当はずっとずっと好きでたまらなかったってこと。」
「いいんじゃない?今思えば、あの日は四月のハジマリエイプリルフールだったんだから。」
「ふふっ。そうだね。ありがとう。旦那様。」
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