勇者、チー牛

チー牛Y

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13:隣国

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ガルディア王国は、大陸南西に勢力を持つ武勇の国だ。

荒々しい山脈を背に構え、戦うことを前提とした石造りの街と訓練場が連なる、まさに戦士のためにあるような王国。

その北東――ガルディアとレオネスを結ぶ街道の中継点として機能する小さな自治領《アリスティア》がある。

地図上では国境にかすかに触れる程度の、ごくわずかな領域。しかし、旅人と商人が通る立地のため、“宿場町国家”と揶揄されることもある場所だ。

ギュードンヤ予定地と記された印は、そのアリスティアの外れ。森と街道の間に挟まれた、誰も注目しない未開拓の土地に――ぽつりと存在していた。

「ガルディアの兵が目にするには近すぎ、しかし国家として管理するには微妙に外れている」

そんな宙ぶらりんな位置に、謎の柱は立っていた。



――王都、執務室。

積み上げられた書類の山。その中に、ひときわ薄い一枚の報告書が紛れ込んでいた。

「……何だ、これ?」

若い文官が眉をひそめて紙を引き抜く。そこには、こう記されていた。


---

《森東部調査報告・第三分隊》
・森の端にて、謎の柱を一本確認。
・近くで犬一匹と、人間一名を目視。
・人間は柱の根元を掘っていた。
・意味不明な単語「ギュードンヤ」を発声していたため、現地語か呪文の可能性あり。
――以上


---

「……報告、雑すぎないか?」

文官は天を仰いだ。こんな報告が公式文書として上がってくる時点で、何かがおかしい。

(森の奥で柱? 祠か? いや、“ギュードンヤ”って何だ……)

そこへ、扉がノックもなしに開く。

「おう、例の異変報告ってのは届いたか?」

現れたのは第三王子。王族にしては妙に砕けた口調で、現場の噂を好んで集めるタイプの男だ。

文官は慌てて立ち上がる。

「き、来ておりますが……記載が、その……」

「どれどれ……」

王子はひょいと報告書を奪い、読み――数秒間、無言になる。

そして、ぽつり。

「……………………“ギュードンヤ”…?」

文官が恐る恐る言う。

「呪文、でしょうか?」

「いや、これは……」

王子は書面をじっと見つめたまま、意味深に目を細めた。

「……何かを“始める者”の声だ」

「は、はぁ?」

「森に柱を立て、言葉を発する。祠でも神殿でもねえ。これは…… “店”だ」

「?????????」

文官の思考は完全に停止した。

だが、王子は妙に真剣な顔で報告書を置く。

「……面白ぇ。行方不明の召喚勇者の捜索ルートに追加しておけ」

「えっ……まさか、関連が?」

「知らねぇよ。ただ――」

王子はニヤリと笑った。

「森の奥で、柱を立てて店を名乗る奴。普通の人間じゃねぇよな?」


――その日、王都の公式地図に “ギュードンヤ予定地” の印が正式に刻まれた。
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