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15:文明レベル、試される
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森から戻ると、空の色が変わっていた。
さっきまで差し込んでいた陽光は、いつの間にか薄い灰色の雲に覆われている。雲はゆっくりと厚みを増し、風がひゅう、と森を撫でて通り過ぎる。
ギンがぴたりと足を止め、鼻先を空に向けてひくひくと匂いを確かめる。
「……あれ、雨、来るか?」
湿った風の匂いが、乾いていたはずの土にじんわりと混ざる。微かに湿気を帯びた空気は、雨の予兆そのものだった。
凰翔は布袋に抱えていた葉っぱの束を地面に下ろし、未完成の骨組みを見上げる。四本の柱。その上に渡された横木。その上には――まだ何もない。
「……マズい、屋根が間に合わない……」
葉っぱ自体は十分に集まっていた。だが、これをどうやって固定するか。試行錯誤する時間の余裕はない。このまま雨に降られれば、せっかく乾いた地面も濡れ、ギンの寝床もぐちゃぐちゃになってしまう。
「……よし、やるしかない!」
凰翔は葉っぱを抱え、横木の上に立てかけるように並べていく。だが、風が吹くたびに――
バサァッ!
並べた葉っぱが一気に舞い上がる。
「ちょ、飛ぶなって! うわっ!」
慌てて手で押さえる凰翔。だが数枚はそのまま森の方へ転がっていく。ギンはすぐに追いかけ、口で咥えて戻ってきた。
「……ギン、ありがとう! 助かる!」
ギンはドヤ顔で葉を置くと、柱を前足でトントン叩き、「ほら、早く固定しろ!」と言わんばかりの視線を送る。
「固定……だな。そうか、なら――!」
凰翔は柱の天端に掘った溝を思い出す。最初に横木をはめたときと同じ要領で、葉っぱも『差し込んで押さえる』形にすれば、風で飛ぶことはないはずだ。
横木と横木の間――わずかな隙間に葉の根本をねじ込む。
「くっそ……中々入らない……」
手のひらが汗で滑りそうになる。指先に力を込めても、葉っぱはなかなか木の隙間に入ってくれない。
ギンが横で、尻尾をピンと立て、短く「ワフッ」と鳴いた。まるで「まだ力が足りないんじゃない?」と言われているみたいだ。
グッ、とさらに力を込めた瞬間――
バチンッ!
葉っぱが木の隙間に噛み込んだ。指先に伝わる振動が小気味よく、思わず頬が緩む。
風が吹く。葉は揺れる――だが、しっかり噛み込んでいるため、ピクリとも動かない。
「やった……入った……!」
凰翔は思わず小さくガッツポーズを作る。隣でギンも前足を踏ん張り、尻尾をぶんぶん振って喜んでいる。
「見ろ、ギン! 飛ばなかったぞ! これで雨が降っても……ちょっとは大丈夫かも!」
凰翔は深呼吸し、緊張で硬くなった肩をゆるめる。手のひらのひりつきも、達成感でほんの少し和らいだ。
「この調子なら、全部押し込める……はずだ!」
――そして、一枚、また一枚。
屋根の上で葉っぱが次々に収まり、微かな雨音が混ざり始めても、作業は止まらない。
文明は、確かに加速している。
さっきまで差し込んでいた陽光は、いつの間にか薄い灰色の雲に覆われている。雲はゆっくりと厚みを増し、風がひゅう、と森を撫でて通り過ぎる。
ギンがぴたりと足を止め、鼻先を空に向けてひくひくと匂いを確かめる。
「……あれ、雨、来るか?」
湿った風の匂いが、乾いていたはずの土にじんわりと混ざる。微かに湿気を帯びた空気は、雨の予兆そのものだった。
凰翔は布袋に抱えていた葉っぱの束を地面に下ろし、未完成の骨組みを見上げる。四本の柱。その上に渡された横木。その上には――まだ何もない。
「……マズい、屋根が間に合わない……」
葉っぱ自体は十分に集まっていた。だが、これをどうやって固定するか。試行錯誤する時間の余裕はない。このまま雨に降られれば、せっかく乾いた地面も濡れ、ギンの寝床もぐちゃぐちゃになってしまう。
「……よし、やるしかない!」
凰翔は葉っぱを抱え、横木の上に立てかけるように並べていく。だが、風が吹くたびに――
バサァッ!
並べた葉っぱが一気に舞い上がる。
「ちょ、飛ぶなって! うわっ!」
慌てて手で押さえる凰翔。だが数枚はそのまま森の方へ転がっていく。ギンはすぐに追いかけ、口で咥えて戻ってきた。
「……ギン、ありがとう! 助かる!」
ギンはドヤ顔で葉を置くと、柱を前足でトントン叩き、「ほら、早く固定しろ!」と言わんばかりの視線を送る。
「固定……だな。そうか、なら――!」
凰翔は柱の天端に掘った溝を思い出す。最初に横木をはめたときと同じ要領で、葉っぱも『差し込んで押さえる』形にすれば、風で飛ぶことはないはずだ。
横木と横木の間――わずかな隙間に葉の根本をねじ込む。
「くっそ……中々入らない……」
手のひらが汗で滑りそうになる。指先に力を込めても、葉っぱはなかなか木の隙間に入ってくれない。
ギンが横で、尻尾をピンと立て、短く「ワフッ」と鳴いた。まるで「まだ力が足りないんじゃない?」と言われているみたいだ。
グッ、とさらに力を込めた瞬間――
バチンッ!
葉っぱが木の隙間に噛み込んだ。指先に伝わる振動が小気味よく、思わず頬が緩む。
風が吹く。葉は揺れる――だが、しっかり噛み込んでいるため、ピクリとも動かない。
「やった……入った……!」
凰翔は思わず小さくガッツポーズを作る。隣でギンも前足を踏ん張り、尻尾をぶんぶん振って喜んでいる。
「見ろ、ギン! 飛ばなかったぞ! これで雨が降っても……ちょっとは大丈夫かも!」
凰翔は深呼吸し、緊張で硬くなった肩をゆるめる。手のひらのひりつきも、達成感でほんの少し和らいだ。
「この調子なら、全部押し込める……はずだ!」
――そして、一枚、また一枚。
屋根の上で葉っぱが次々に収まり、微かな雨音が混ざり始めても、作業は止まらない。
文明は、確かに加速している。
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