勇者、チー牛

チー牛Y

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16:雨の中の文明達成

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差し込んだ葉っぱはしっかり固定されていたが、屋根の隙間はまだいくつも残っている。

葉が厚すぎると入りづらく、薄すぎると風で飛ぶ。
片手で押し込み、片手で横木を押さえる――指先がしびれ、手のひらには小さな擦り傷ができた。
汗と雨で掌が滑るたび、葉が跳ね返り、また一枚、慎重に押し込む。

――ポツッ。

肩に、冷たいものが一滴落ちる。

凰翔はゆっくりと空を見上げた。灰色の雲が低く垂れ込め、森の匂いが湿っている。木々の葉や土の香りが、雨の匂いに混ざり、深く胸に吸い込まれる。

次の瞬間――

ポツッ、ポツ、ポツポツポツ――

雨粒が地面に落ち始めた。

「まずい、あと少し、あと――!」

凰翔は葉を押し込み、ギンが前足でバンバンと叩き、固定を確認する。
二人の呼吸は自然と合い、作業は一気にスピードを増す。
雨粒が木々の間を縫うように落ち、葉の表面を叩く。冷たさが肌を刺すが、体は自然と動く。

そして雨が、本格的に降り始めた。葉の表面を水が滑り落ち、滴が端から落ちる。
それでも、屋根に押し込まれた葉はびくともしない。

「――これで……!」

最後の一枚を押し込むと、葉の重なりが屋根全体を覆った。水滴は流れ、真下には確かに雨が届かない空間ができている。
足元の土はまだ乾き、雨音の中で小さな安全地帯を作った感覚が、胸の奥にじんわりと広がった。

凰翔は息を吐き、肩で呼吸しながら足元を見下ろす。
屋根の下――そこだけ、土がまだ乾いている。

ギンがトテトテと屋根の下に入り、丸くなって座り、「あったけぇ……」みたいな顔をする。
凰翔もその隣に腰を下ろし、雨を見上げた。

葉を叩く音。水の匂い。冷たい雨粒が屋根を伝って流れ落ちる。
風に揺れる葉の音が、小さな鼓動のように森に響く。

――土の上に、雨をしのげる場所がある。
たったそれだけのことが、信じられないくらいの安心感をくれる。

「……ギン」

「ワフ?」

「これ、多分……文明ってやつだぞ」

二人は雨音を聞きながら、しばしの休息をとった。 
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