勇者、チー牛

チー牛Y

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18:副菜文明

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――森は、朝の光を受けて静かに揺れていた。

湿った土の匂い。昨夜の雨の名残が、草の葉先に小さな水滴として残っている。

「よしギン、まずは見た目が“汁物にいれたら映えそうなやつ”を探すんだ」

「ワフ!」

ギンが森の低木へ一直線に突っ込む。 葉っぱをかき分け、鼻をフンフンと鳴らしながら何かを探している。

凰翔はその後をゆっくり追いながら、地面の草をひとつ摘んでみた。

「……この草、味噌汁に入ってそうだよな」

見た目はただの雑草だ。 しかし、 “味噌汁に入っていても違和感がないか” という曖昧すぎる基準は、今の凰翔にとって立派な文明指標だった。

「こう……なんか、主役じゃないけど“いると雰囲気出る”やつってあるじゃん」

ギンの方を見る。 ――ギンが咥えているそれは、鮮やかな蛍光紫だった。

「……おい、それはダメだろ」

「ワフ?」

近づいてみると、そこにはファンシーな見た目をしたキノコがあった。 表面はテカテカ、触れた瞬間べたっと指に謎の粘液がまとわりつく。

「いや、どう見てもダメな見た目してるじゃん……なんで迷いなく持ってくるんだよ」

「ワフ!」

ギンの瞳には「見つけたぞ! 副菜!」と書いてある。 惜しい、実に惜しい。 方向性は合っている。だが、命が持たない。

凰翔はキノコを凝視しながら真剣な声で言った。

「……でもこれさ、干せば食えるパターンあるよな?」

理性:(やめろ)
好奇心:(干せばワンチャン)

「……いや、だって、現代でも“毒キノコを塩漬けとか天日干しして解毒する謎文化”あるし……」

ギンが期待に満ちた目でキラキラしている。

――副菜文明ポイント:+10
――命ポイント:-30

「……キノコ、保留な」

「ワフゥーーッ!!」

ギンが地面をドスドス踏んで抗議する。 凰翔はそれを無視し、次の草を摘んでは、匂いを嗅ぎ、舐め――一瞬で吐き捨てた。

「うっっっっわ苦っ!? なにこれ!? 絶対食えるやつじゃない!」


凰翔は叫びながら、 なぜか頭の中で文明ポイントのUIが浮かぶ。

【文明ポイント:副菜部門】
 ・草っぽいやつ→謎の苦味→-5pt
 ・紫キノコ→毒々しいが干せば食える気がする→+2pt(※不確定)

「文明ポイント、マイナスからのスタートってのがリアルで嫌だな……」

ギンがまた森の奥に突っ込んでいく。 凰翔もため息をつきながら歩き出し――そこで、 ふと鼻をくすぐる香りに足を止めた。

……なんだ、この匂い。

どこか、山菜を連想させる青い香り。 生でかじったら絶対苦い。でも――“煮たら美味しくなりそうな雰囲気” だけはある。

凰翔はゆっくりと、そこに生えていた細長い葉に手を伸ばした。

「……これは……副菜文明、鍵の素材じゃないか?」

ギンが目を輝かせる。 凰翔はごくりと唾を飲み込んだ。

――副菜文明、始動の予感。 
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