勇者、チー牛

チー牛Y

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31:森に灯る微光

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凰翔はしばらく、光るキノコをじっと見つめていた。

青白い光は呼吸をするように淡く明滅し、湿った苔や落ち葉をやさしく照らす。

風のない森に、なぜかその光だけが生き物のように揺れている。
まるで森が「こっちへ」とひそかに誘っているかのような、不思議な気配があった。

「……行ってみるか」

小さくつぶやくと、足元にいたギンが耳を立て、短く鳴く。

「ワフ?」

「大丈夫。危ない感じじゃない……そういうの、なんとなく分かる」

自分で言いながら、凰翔は胸の奥のざわつきを押し込んだ。
恐怖よりも好奇心のほうが、ほんの少しだけ勝っている。

ギンとともに慎重に歩き出すと、足元の苔の隙間に、細い光の線が走っていることに気づく。
まるでキノコの光が地面に滲んで、小さな道を作っているかのようだった。

「……道、なのか?」

ギンは鼻を地面に近づけ、光を追うように小走りする。

「ワフワフ!」

「ちょ、待てって。お前はすぐテンション上がるんだから……」

森の奥に踏み入るほど、昼なのに暗さは増していく。

葉の隙間から差す光がスポットライトのように円を描き、その中だけが浮かび上がる。
小鳥の声は遠ざかり、水がどこかで滴る音だけが静かに響いていた。その時――。

足元で、光るキノコがひとつ、ポン、と跳ねた。

「……え?」

目を瞬く凰翔の前で、キノコはまるで意思があるかのようにゆっくりと転がり、
ちらり、とこちらを振り返るように光を揺らした。

「誘ってる……のか?」

そうつぶやくとギンは尻尾をぶんぶん振り、すでに追いかける体勢になっている。

「……よし、ギン。追うぞ」

「ワフッ!」

二人が走る先には、光るキノコが点々と続き、小さな円を描くように配置されていた。
まるで森が迷路を作り、その入口に導いているかのようだ。

湿った土の匂い。肌に当たるひんやりした風。
静けさと光だけが森に残り、他の生き物の気配がまったくない。

凰翔は深く息を吸い、少し固くなった肩の力を抜く。

「……なんだろうな、これ。迷子になる感じじゃない……どっちかっていうと、ちょっとワクワクする」

ギンが振り返り、鳴いた。

「ワフ」

「ああ、分かってる。行こう」


森のさらに奥、重なり合う木々の向こうに、淡く揺れる光が見えた。

青白いキノコの光とは違う、どこか温かくて柔らかい、金色の光。

ゆらり……ゆらり……

まるで森そのものが深く眠って息をしているような、神秘的な光の脈動だった。

「……あれ、なんだ……?」

凰翔は思わず足を止めた。
胸の鼓動だけが、静かな森の中ではっきり聞こえるような気がした。 
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