勇者、チー牛

チー牛Y

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36:巡りの欠片を拾うとき

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洞窟の静寂は、まるで世界そのものの息が止まったようだった。

凰翔はしばらく動けなかった。

胸の中で何かがざわつき、 丼の震えが手のひらに伝わる。

「……まさか……お前も、怖がってるのか? 俺と同じで」

冗談めかして呟いてみるが、声はうまく出ない。

丼は答えない。 しかし、震えはやまない。


("巡りを戻せ"って……なんだよそれ。世界が長くないって……そんなの、俺に言われても……)


自分には荷が重すぎる言葉が頭の中をぐるぐる回る。

その時だった。

――コツン。

足元から、何かが軽く当たる音がした。

見ると、金色に光る“欠片”が転がっていた。 さっきの残響が完全に消える瞬間、砕け散った光の一部だ。

凰翔は思わず拾う。

指先が触れた途端――

「……っ!」

視界が白く跳ねた。




一瞬だけ、誰かの“記憶”の断片が流れ込む。

荒れ果てた大地。 裂けた空。 黒い霧のような“渦”。

そして――
何かを抱きしめて倒れ込む人物の後ろ姿。

《……巡りが……止まる……このままでは……世界が……》

そこで映像はぷつりと途切れた。




「……? なんだったんだ、今の……」

めまいを手で押さえながら、凰翔はその場にしゃがみ込む。

キツネやギンの声も届かない。

ただ洞窟の奥から、かすかに“余韻”だけが残っていた。

(あれが……“呼んだ者”の記憶?)

(巡りって、何だ? まさか俺のスキルの……チーズ牛丼のことじゃないよな……?)

思考が変な方向に行きかけた時、

丼がふっと震えるのをやめた。

そして、まるで“次の言葉”を促すように、かすかな温もりだけを残した。

凰翔はゆっくりと立ち上がる。

「……分かったよ。
 とりあえず戻る。
 キツネとギンにも、何か聞かないとな……」

洞窟の出口へと歩き出す。

だが一歩踏み出した瞬間。

――トン。

足元から、あの大地の“脈動”が再び響いた。

凰翔はゾクリと振り返る。

洞窟の奥は真っ暗だ。

しかし、確かに“何か”がそこに記憶を残していた。


《……オマエダケ……》


「……はぁ……責任が重すぎる……」

弱々しく呟いたが、返事はなく。

代わりに――
丼の縁が、ちいさく“カンッ”と鳴った。

まるで、

『大丈夫。お前ならできる』

そう言われたように思えた。

凰翔は眉を寄せ、

「……お前まで励ましてくんなよ……
 俺……ただのチー牛だぞ……」

それでも、歩いた。

キツネとギンが待つ、光の外へ。

そして、そこから
“巡りを戻す旅”が静かに動き始めた。 
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