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40:巡り研究者の目覚めと、迫る黒影
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青年を安全な地帯まで運んだあと、
凰翔はまだ心臓がバクつくまま、丼をぎゅっと抱いた。
キツネが青年の呼吸を確かめる。
「……少し、動いた」
その言葉に、凰翔とギンが同時に前のめりになる。
青年の指がぴくりと動き、
やがて重い瞼が少しずつ開かれた。
「……ここ、は……?」
掠れた声。
目を開けた青年は、まず空を見て、そして自分の胸を触れ……顔が驚愕で歪んだ。
「歪み紋が……消えている……?
いや、あり得ない……普通なら即死してもおかしく……!」
キツネが微笑む。
「あなた、巡里の研究者でしょ?
“外縁域の亀裂調査”に来て巻き込まれたんだよ。運が悪かったね」
「……あなた方が助けてくれたのですか?」
青年は必死に体を起こし、何度も頭を下げる。
「本当に……ありがとうございます。
私は巡里研究所第三区所属、シロガネと言います」
凰翔は慌てて手を振る。
「いやいや、丼のおかげです」
キツネが横目で凰翔を見る。
「君が使ったんだから同じことだよ。
“巡り器の保持者”は、手を添えるだけで流れを導く存在なんだから」
「……存在が重すぎるような」
シロガネは凰翔の丼を見つめて、息を呑む。
「それは……巡り紋……?
しかもこんなに濃い……」
◇
シロガネは周囲を見渡し、表情を曇らせた。
「……やはり、巡りが漏れていますね。
この外縁域、もう長く持たない……」
「巡里の町って、今どうなってるの?」
キツネの問いに、シロガネは低い声で答えた。
「防護壁を張って、住民は全員避難しています。
巡りの流れが逆流し始めた時から、
“何か”が町の外周を徘徊するようになって……」
凰翔がごくりと唾を飲む。
「“何か”って……今のその言い方……嫌な予感しかないんですが」
「見え方が……普通じゃないんです。
視界の端で揺らぐ影、音に反応して寄ってくる気配……
あれは、巡りが生んだ“歪みの残滓”でしょう」
ギンがふっと毛を逆立てた。
その瞬間だった。
――ザ……ァァ……。
森の奥で、
黒い“揺らぎ”が音もなく生まれた。
シロガネが蒼白になる。
「……来た……!」
凰翔はキツネの方を見る。
「いやいや……あれ、お化けですよね!?」
「お化けじゃないよ。
巡りの異常で形になっちゃった“存在しないはずの影”。
まあ……ほぼお化けだね」
(どっちでも怖いから!!!!)
黒い影は、地面に触れるたびに草を黒く枯らし、
ゆらりと形を変える。
耳元で、かすれた声が響いた。
…………戻セ…………
……巡リ……戻セ……
凰翔の背筋が凍りつく。
「え、俺に言ってません!?」
キツネが即座に凰翔の前に出た。
「狙いは丼。
影は“流れの乱れを元に戻そうとしている”。
つまり――凰翔、あなたを排除するつもり」
(なんでだ!!!)
シロガネが声を張り上げる。
「逃げてください!
あれは……通常の武器では倒せません!!
巡りの器を持つあなたしか――」
その瞬間、影が地を滑るように一気に距離を詰めた。
影の触手のようなものが、丼へ向かって伸びる。その光景に凰翔が叫ぶ。
丼が――カンッ!!と甲高く鳴り、
巡り紋が光を放つ。
影が触れた瞬間、
光に焼かれるように後退した。
シロガネが目を見開く。
「あれほどの影を……弾いた……?
あなたの器、やはりただの巡り紋ではない……!」
キツネが短く言い放つ。
「凰翔、逃げるよ!!
戦うのは無理! あれはまだ“学んでる最中”!!
丼の力に慣れたら本当に狙われる!!」
黒影は形を揺らし、
今度はゆっくり、確実に追跡を始める。
その“狩人の歩み”は――
丼の光に魅せられた獣のようだった。
三人と一匹は全力で外縁域を駆け抜けた。
黒影はすぐそこまで迫っていた。
凰翔はまだ心臓がバクつくまま、丼をぎゅっと抱いた。
キツネが青年の呼吸を確かめる。
「……少し、動いた」
その言葉に、凰翔とギンが同時に前のめりになる。
青年の指がぴくりと動き、
やがて重い瞼が少しずつ開かれた。
「……ここ、は……?」
掠れた声。
目を開けた青年は、まず空を見て、そして自分の胸を触れ……顔が驚愕で歪んだ。
「歪み紋が……消えている……?
いや、あり得ない……普通なら即死してもおかしく……!」
キツネが微笑む。
「あなた、巡里の研究者でしょ?
“外縁域の亀裂調査”に来て巻き込まれたんだよ。運が悪かったね」
「……あなた方が助けてくれたのですか?」
青年は必死に体を起こし、何度も頭を下げる。
「本当に……ありがとうございます。
私は巡里研究所第三区所属、シロガネと言います」
凰翔は慌てて手を振る。
「いやいや、丼のおかげです」
キツネが横目で凰翔を見る。
「君が使ったんだから同じことだよ。
“巡り器の保持者”は、手を添えるだけで流れを導く存在なんだから」
「……存在が重すぎるような」
シロガネは凰翔の丼を見つめて、息を呑む。
「それは……巡り紋……?
しかもこんなに濃い……」
◇
シロガネは周囲を見渡し、表情を曇らせた。
「……やはり、巡りが漏れていますね。
この外縁域、もう長く持たない……」
「巡里の町って、今どうなってるの?」
キツネの問いに、シロガネは低い声で答えた。
「防護壁を張って、住民は全員避難しています。
巡りの流れが逆流し始めた時から、
“何か”が町の外周を徘徊するようになって……」
凰翔がごくりと唾を飲む。
「“何か”って……今のその言い方……嫌な予感しかないんですが」
「見え方が……普通じゃないんです。
視界の端で揺らぐ影、音に反応して寄ってくる気配……
あれは、巡りが生んだ“歪みの残滓”でしょう」
ギンがふっと毛を逆立てた。
その瞬間だった。
――ザ……ァァ……。
森の奥で、
黒い“揺らぎ”が音もなく生まれた。
シロガネが蒼白になる。
「……来た……!」
凰翔はキツネの方を見る。
「いやいや……あれ、お化けですよね!?」
「お化けじゃないよ。
巡りの異常で形になっちゃった“存在しないはずの影”。
まあ……ほぼお化けだね」
(どっちでも怖いから!!!!)
黒い影は、地面に触れるたびに草を黒く枯らし、
ゆらりと形を変える。
耳元で、かすれた声が響いた。
…………戻セ…………
……巡リ……戻セ……
凰翔の背筋が凍りつく。
「え、俺に言ってません!?」
キツネが即座に凰翔の前に出た。
「狙いは丼。
影は“流れの乱れを元に戻そうとしている”。
つまり――凰翔、あなたを排除するつもり」
(なんでだ!!!)
シロガネが声を張り上げる。
「逃げてください!
あれは……通常の武器では倒せません!!
巡りの器を持つあなたしか――」
その瞬間、影が地を滑るように一気に距離を詰めた。
影の触手のようなものが、丼へ向かって伸びる。その光景に凰翔が叫ぶ。
丼が――カンッ!!と甲高く鳴り、
巡り紋が光を放つ。
影が触れた瞬間、
光に焼かれるように後退した。
シロガネが目を見開く。
「あれほどの影を……弾いた……?
あなたの器、やはりただの巡り紋ではない……!」
キツネが短く言い放つ。
「凰翔、逃げるよ!!
戦うのは無理! あれはまだ“学んでる最中”!!
丼の力に慣れたら本当に狙われる!!」
黒影は形を揺らし、
今度はゆっくり、確実に追跡を始める。
その“狩人の歩み”は――
丼の光に魅せられた獣のようだった。
三人と一匹は全力で外縁域を駆け抜けた。
黒影はすぐそこまで迫っていた。
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