勇者、チー牛

チー牛Y

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４１：黒影の学習

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外縁域を駆け抜ける三人と一匹。
背後では、黒影がゆらり、ゆらりと形を変えながら迫ってくる。

走りながら凰翔は泣き叫ぶ。

「あの影！　なんで歩いてるのに追いついてくるんですか！！？　物理法則は！？」

キツネが横で叫び返す。

「影に物理求めないで！！　あれは“巡りの残滓”なんだから！！」

シロガネは必死で後ろを振り返りながら、震え声を漏らした。

「まずい……！
　形が安定してきています……！
　追跡対象を固定し、最適化している……！」

（影が！？　最適化！？　AIかよ！！？）

黒影はもはや、ただの揺らぎではなく。
“丼を狙って走るための形”へと身体を組み替えていく。

腕のようなものが伸び、
脚のようなものが生え、
音もなく地面を蹴って加速した。

「早くなってません！！？？」

キツネも顔を引きつらせる。

「ヤバいねこれ！　さっきより理解度高いよ！！」

影が伸ばした触手が凰翔の背中スレスレを掠めた。
触れた草は一瞬で黒く枯れる。

「ぎゃあっ！！？　触れたら死ぬやつですよねこれ！！？」

「ええ、死にます！！」
シロガネがはっきりと答える

そしてキツネが叫んだ。

「凰翔！！　左の丘へ！！
　あそこからなら“巡里の町の結界”が見えるはず！！」

言われた通りに左へ折れ、丘を駆け上がる。

その瞬間――。

視界の先に、淡く光る巨大な壁が見えた。

巡里の町をぐるりと囲う、“巡り結界”だった。

「あれに入れば助かるんですか！？」

シロガネ「本来なら！　あれは影を拒むはずです！！」

（……本来なら！？！？）

丘を駆け下りる。
だが黒影はそれ以上の速度で迫ってくる。

呼吸するようにサイズが揺れ、
丼だけを正確に追い続けている。

凰翔は涙目で丼を掲げる。

「なあ丼！！　レーザーとかは出たりしないのか！？」

「……」

ギンが牙をむき、黒影に吠える。

その一瞬、黒影の動きが止まった。

キツネが気づく。

「ギンの声……影が反応してる！
　“音”に弱い！！」

「ギン！！　もっと吠えて！！」

「ワンッ！　ワンワンワンワン！！」

すると黒影の表面がざわつき、形が乱れる。

「効いてる！！？　犬の声に弱い影ってなんだよ！！？」

シロガネが真剣に分析する。

「“巡りの残滓”は、本来あるべき姿を理解できていません。
　強すぎる“存在の証明”の音を浴びると混乱するのかもしれない！」

影が一瞬ひるんだすきに、町の結界が目の前に広がる。

結界は淡い青色で、触れると波紋のように揺れる。

シロガネが叫んだ。

「そのまま駆け抜けて！！
　器を持つ者なら通れる！！
　影は弾かれる！！」

「通れなかったらどうすんの！！？」

「死にます！！」

凰翔は半泣きのまま結界へ突っ込んだ。

――バシュン！

青い光が凰翔たちを通し、黒影は
ガッッッ！！
と強烈に弾き飛ばされ、地面に溶けるように崩れていった。

「…………はぁ………………生きてる…………？」

「わふ……」

キツネが凰翔の背中を軽く叩く。

「生きてるよ。ギンのおかげだね」

シロガネも胸を撫でおろしながら呟く。

「影は……まだ外にいます。
　でも、町の結界があるうちは安全です。
　あとは研究所へ行き、あなたの“丼”について……詳しく調べないと」

凰翔は黙って丼を見た。

丼は静かに光っていた。

まるで、“次の流れ”を示すように。

◇

その頃――
結界の外で、ひしゃげた黒影がゆっくりと“形を再構築”していた。

視線は、ただ一点。

凰翔の丼。

　……学習……完了……

――次は、もっと効率的に奪いに来る。

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