勇者、チー牛

４３：進化する黒影

研究所内の警報は鳴り止まず、赤いランプが壁を染めていた。

白衣A「外壁前に黒影が到達！　サイズ……前回の三倍！！」

白衣B「えっ！？　さっきまで“人型未満”だったのに！？」

白衣C「進化速度が早すぎる……これはもう“残滓”じゃなくて……」

「「「……敵性存在です」」」


モニターには、結界の外で蠢く黒影が映っていた。

さっきまでバケモノの形も定まらなかったそれが――
今は“人型に近い影”となり、白い目のような光が輝いている。


研究所の職員たちが慌ただしく動く。

「結界を強化します！　巡り濃度を二割増し！」

バシュンッ。

町を覆う青い壁が少し濃くなる。

「これで大丈夫なんじゃ……？」

「“三秒くらい”は持つと思います！」

（三秒！！？？）


ズシン――…ズシン――…！！

地面を揺らしながら、黒影が結界へ近づく。

光の壁に触れた瞬間、
前までは弾かれていたはずなのに――

ビリビリビリ……ッ

壁が、押し戻されていく。

「ま、まずい……！　黒影の“形”が結界を解析している！！」

「適応進行率……七十パーセント突破！！」

――ギンが吠えた。

「ワンッ！！」

だが黒影は一切怯まない。

「効いてない！！？」

「“存在証明”には耐性ができたんです……
　本当に学習が早い……！」

（学習速度バグってるだろ！！！）



結界の青い壁が、ついに――

バリィィィッ！！！！！

大きくひび割れた。

「破られる！！」

「ちょっとぉぉ！！？
　結界って“町最強の守り”じゃなかったんですか！？」

「最強だよ。ただし想定外には弱い」

（クソゲーか！！）


その瞬間。

――ピコン。

凰翔の丼が、淡く光った。

「……え？」

丼から、何かが吹き出すように光があふれる。

シロガネが震え声で叫ぶ。

「凰翔さん、そのまま持ってて！！
　器が……自動展開しようとしてる！！」

「え、なんか出るんですか！？　嫌なんですけど！！？」

「出してください！！　器は本来、世界を守るための――」


黒影が結界をこじ開けた。

ズガァァァァァン！！

破れた部分から、黒い腕が伸び、
結界内へと侵入してくる。

「「「入ってきたぁぁぁぁ！！」」」

「一瞬で町が終わるやつだよこれ！！」

ギンが歯をむき出しにして前に出る。

「うぉぉぉギン！！
　やめろ！！　お前……死ぬぞ……！！？」

「……ワン」

「そんな覚悟の声やめろぉぉぉ！！！」


黒影の腕が、凰翔の丼目がけて一直線に伸びた瞬間――

丼から、白い光の柱が天へ突き抜けた。

ゴォォォォォォォォッ！！

影の腕が光に焼かれ、黒い煙となって消える。

「……――――」

影は一瞬、動きを止めた。

シロガネが叫ぶ。

「器が“拒絶”してる！！……」

「俺を守ってくれてる！！？」

光が収まると――
丼の底から、ひとつの“ひび”が走っていた。

シロガネが息を呑む。

「……まさか……封印が一つ解けた……？」

「封印！！？？」

結界外の黒影が、ゆっくりと形を変える。

さっきまでバケモノだった影が――

人間により近い形へと進化し始めた。

シロガネが震える声で呟いた。

「……次に来るときは……
　“言語”を理解しているかもしれません……」