勇者、チー牛

チー牛Y

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47:研究所に隠されたもう一つの異常

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影獣の肉体は消えた。

だが――
“心臓だけ”が残っていた。

黒い宝玉のような球体が、
脈動しながら床に転がっている。

ドク…… ドク……

「……これ生きてますよね……?」

「はい。それが影の中枢……“核”です」



白衣Aが震えながら言った。

「……おかしい……
 核の動きが……通常と違う……」


「鼓動が速すぎる……
 これは再生じゃなくて――」

「“呼応”だ……!」

凰翔が驚く

「呼応!!?」

「施設内の……別の影と!!」

「え、影まだいるんですか!??」



研究所の奥から――
“ギィィィィ”と重たい扉の音。

白衣たちが青ざめる。

「まさか……!」

「保管してた“未解析の個体”が……!」

「核に呼ばれて……動き出した!?」


その瞬間。

黒い核が、ぴょんっと跳ねた。

核は、
まるで意志を持った生き物のように、
研究所の床をトビウオみたいに弾みながら――

たったひとつの方向へ跳ね続けた。

――凰翔。

「俺!?!?」

核はコロコロと転がり、
まるで吸い寄せられるように
凰翔の足元へ。

「凰翔さん、避けて!!
 それは危険――!」

核は跳ね上がり、
凰翔の器に――

吸い込まれた。



「え!?」


盾が赤く点滅する。

刃の縁が黒く染まり、
内部で何か蠢いている。

「影核……取り込まれた……!?」

「器が勝手に“素材扱い”してる!?」

「影の核は不安定すぎる!! 器でも制御しきれない!!」

キツネが静かな声で言い始める

「……凰翔。
 器が核を取り込むのは……
 本来“第五段階”の現象なんだ」

「第五!?!?
 今、第三形態なんですが!!?」

「つまり……
 影の核が器の進化段階を押し上げようとしている」


そのとき――

研究所の奥から、
ゆっくりと、しかし確実に重い足音。

ド……ン……
   ド……ン……

「……来た……!」

「あれは……!」

「“保管個体13号”……!!」


暗闇から現れたのは、
さきほどの影獣よりも遥かに大きい影。

四足だが、
背中から“腕”のような影が4本伸び、
頭部は獣ではなく――

人の顔の“空洞”だけがある。

「いや、さっき倒した影より強そうなんですが!! なんで謎の空洞あるんですか!?」

「影が“概念”を摂取しすぎて形が歪んだ個体……」



巨大影が凰翔をじっと見つめる。

いや――
凰翔の“器”を。

その瞬間。

巨大影の背中の腕が、
一斉にバキバキと折れ曲がり――

“奪い取りの構え”をとった。


「まずい!! 核を取り戻そうとしてる!!」

「器が奪ったと認識されて……真っ先に凰翔さんが狙われる!!」

「核を取り戻す!? 倒したやつと、あの影は別モンスターのはずじゃ!?」

白衣Aが必死に説明する。

「違うんです! 核が“同じ”なんじゃなくて――
 影は“核同士が全部つながってる”んです!!」

続けて白衣B

「影は元々“ひとつの大きな影”だった存在で……
 個体に分かれても、核だけは“同じ回線”で繋がってるんです!」

そして白衣C
 
「だから一つの核が刺激されると、
 近くの影個体が“信号を受け取って”動き出す!!」

「え、じゃあアイツは――」

キツネが淡々と答える

「“仲間を助けに来た”んじゃない。『奪われた自分の一部を回収しに来た』んだ」


巨大影がさらに腕を構え直す。

「だから奪われた核を“自分のもの”だと認識して……真っ先に凰翔さんを狙うんです!!」


さらに最悪の光景が続いた。

器の内部で――
影核が“脈動”を始めた。

ドクンッ……

器が赤黒い光を帯びる。

「凰翔……
 器が次の形になる……!」





巨大影が――走った。

床を砕く衝撃。
壁を揺らす咆哮。

「来る……!!」

「凰翔さん、構えて!!」

「器が今、形を……!!」

「うわあああああああ!!!!!」

盾が光り、
刃が収縮し、
内部で核の力が炸裂する。

――第三形態を超えて。

――第四形態の輪郭が浮かび上がる。

「ああ……これは危険だ……」

「なに!!!?
 なにが来るんですか!!!?」

シロガネが震えた声で答える。

「凰翔さん……
 器の第四形態は、支援でも防御でもありません……」


シロガネは息を呑んで言った。

「“斬滅(ざんめつ)領域”――
 範囲殲滅型です」

「範囲攻撃!?!?!?
 研究所ごと消し飛ぶじゃないですか!!!!」

巨大影が飛びかかる。

そして――

器の第四形態が、完全に展開された。
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