勇者、チー牛

チー牛Y

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48:第四形態

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研究所全域が、
赤黒い閃光に飲み込まれた。

空気そのものが震え、
床の影が、液体のように波打つ。

「発動します!!
 凰翔さん、目を閉じ――」

その指示が終わる前に。

ドガァァァァァン!!

天地が反転したかのような轟音。

だが――

何も壊れていなかった。

研究所の壁も。
白衣の研究員たちも。
装置も床も天井も。

全部無傷のまま。

ただ一つ、異様な変化だけが残っていた。

空間が、切れていた。

研究所の真ん中に、
静かに揺れる裂け目が走り、
巨大影の“右半分”がスッ……と吸い込まれるように消滅していた。

「一体これは……???」

「……空間を“範囲指定”して、
 その範囲内の対象を全部削除した感じ?」

「第四形態《斬滅領域》は……
 『壊す』じゃなくて『無かったことにする』……」

研究員たちが言葉を失ったように見つめる。

「壁も装置も無傷……!」

「対象だけを座標から排除してる……!」

「じゃ、じゃあ巨大影は……」

“右半分”は消えている。
だが――残った“左半分”が、まだ動いていた。

ズリ……ズリ……

(倒せてない!!)

しかも。

残った半影が、ぐにゃ……と形を変え始める。

腕が一本にまとまり、
脚は捻じれ、
空洞の顔が増えてゆく。

「再構築が……速すぎる……!」

「第四形態に適応!? ありえない!!」

「いや……影は“学習”する……!」

半影は凰翔を鋭く見つめ、
その空洞の顔の奥で――低く鳴いた。

キィィィ……

怒りの音色に近い。

「まずい……
 核を奪った凰翔さんを、
 完全に“最優先敵”として認識した!」

その途端。

半分になった巨大影は、床を砕きながら突進を開始した。

ドガガガガガ!!!

クレーターが連続して生まれる。

「うわあああ!!
 第四形態!! またなんかして!!
 消して!! 消し飛ばして!!」

だが――

第四形態は動かない。
まるで息を潜めているかのように、沈黙したままだ。

「……まずいよ凰翔、第四形態は“維持コスト”が高い。
 一度発動したあと、次の発動までクールタイムがあるんだ」

「クールタイムって何秒!?!?!?」

「早くて……40秒!」

(長い!!)

巨大影の突進は止まらない。
研究員は逃げ場を失い、床に伏せた。

「くる……!!」
「もう防げない……!」
「凰翔さん……!!」

(落ち着け俺。あと40秒。
 40秒耐えればまた空間を削除できる。守るだけなら……!!)

「シロガネさん!!
 器の第二形態はまだ残ってる!?」

「はい!! 第四形態展開中でも、基礎防御は使用可能です!!」


凰翔は器を正面に構えた。

巨大影が跳びかかる。
牙のない空洞の顔が、まるで吸い込むように凰翔の頭を狙った。

「凰翔!!」

「避けろ!!」

「無理だ!!」

「いや、もう間に合わない!!」

ドガァァァァァン!!!!

次の瞬間。

巨大影は宙で“固定”された。

時間停止ではない。
影の動きそのものが、ねじ切られたみたいに凍り付いている。

「こんな……!!」

「まさか……!!」

影の体を包むように、
赤黒い“鎖”が空中に浮かび上がっていた。

鎖は凰翔の器から伸び、
影の四肢・胴体・顔へと絡みついている。


「俺こんなスキル知らないんだけど!!」

「第四形態の“副効果”……!」

「影核を取り込んだから……
 影の“暴走構造”を逆利用して拘束に回してるんだ!」

「つまりどういうこと!!?」

「今の凰翔、
 影の動きを“縛る”ことができる!!」

巨大影は暴れようとする。
鎖はそのたびに締まり、影を軋ませる。

ギチ……ギチギチ……

「すごい……!」
「影が……逆らえない……!」

だが。

「鎖は……40秒しか持たない」

「40秒!?」

「つまり――40秒間耐えれば、
 斬滅領域が再使用できます!!」

しかし。

その瞬間。

巨大影の“空洞の顔”が――奥で何かを灯した。

黒い光。
脈動。
鼓動。

シロガネの表情が固まる。

「……嘘だろ。
 核なしで……第二核を生成しようとしてる……!!」

シロガネは蒼白になり、声を震わせた。

「凰翔さん……!
 第二核が完成したら……
 第四形態でも消しきれません!!」

「いや待って!?
 倒すしかないの!? 完成する前に!?」

影が咆哮する。
第二核が形を取り始める。

「間に合うか……!?
 斬滅領域の再展開まであと……!」

「残り28秒!!」

(長い!!!!!!)

影は笑っている。
その空洞の奥で、黒く、冷たく。

そして――

第二核の形が、
ゆっくりと浮かび上がり始めた。
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