勇者、チー牛

チー牛Y

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50:器が拒んだ、たった一つの理由

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器の中の影核は脈打ち続けているのに、その刃はピクリとも動かない。

まるで誰かに押さえつけられているように。

「なんで!?……
 どうしたんだよ急に!!」


「“器の暴走”でも、“核の暴走”でもない……これは――」

「意図的なブレーキ……!」

「このタイミングで!!?」

「このタイミング……だからこそです……」


巨大影の第二核が脈動する。

ドク……
 ドクン……
   ドクンッ!!

ほとんど完成している。


「まずい!!
 このままだと第二核が先に完成する!!」

その瞬間。

――器の中心で、黒い光が“形”を結んだ。

「……え?」

光は渦を巻き、
脈動が言葉のようなリズムを刻む。

ドク……ン……
   ドク……ン……

「これ……意思表示……?」

「凰翔、聞いて……
 “拒んでる理由”……なんとなく分かる……」


「……凰翔さん……」
「器が拒んでいるのは――」

“第二核の破壊”じゃなかった。

“外部影の殲滅”でもない。

では何か?

シロガネは息を呑んで言った。

「あなたの命を巻き込む未来だけは……
 器が絶対に選ばないんです……!」

「…………え?」






「第四形態“斬滅領域”は……!」
 
「“使用者の生命力”を燃料にする……!」

「だから暴走時は――“使用者の死”も……」

「凰翔さんの状態では……
 消費に耐えられないと判断したんです……!」

「器が……
 俺を……?」

「守ろうとしてるんだよ」


器は静かに光を震わせた。

ドク……ン……

まるで“首を横に振ってる”みたいに。


だが、時間は残っていない。

巨大影の第二核が完全に光を放ち始めた。


「第二核……完成します!!」

「逃げ切れない!!」
「外部影も到着します!!」

研究所の外壁が砕ける。

ズシャアァァァァァァ!!

黒い手足が、
無数に研究所に入り込もうとしている。


そのとき。

器の中の“影核”が、
急に脈動を速めた。

ドクンッ!
ドクンッ!!
ドクンッ!!!

「痛っ!!
 なに!? なんで急に!?」

「……なにかを……決めた……!」

キツネが鋭く叫ぶ。

「凰翔!!
 器は“斬滅領域”を拒んだ!!」

「でも――」

「“代わりに取る手段”を選んだ!!」


器が閃光を放つ。

その光は――
巨大影へ向かって
“吸い込まれていった”。

「……まさか……」
「これは……!」
「通常ではありえない……!!」

シロガネが叫ぶ。

「核同士を“繋ぐ”気だ!!」

「いやいやいやいや!!
 そんな事したら、もっと暴走するんじゃ!?!?」

「違う!!」

キツネが吠えた。

「核同士を繋いだまま――“同時に自壊させる”気だ!!」


そしてシロガネは震えながら言った。

「凰翔さんの命を使わずに勝つために、
 自分の内部に取り込んだ影核だけを犠牲にする方法です……!」

「――――え?」

器が光る。

ドクン……!!
   ドクン……!!

巨大影の第二核も脈動する。

「くるぞ!!
 核同士の逆流連結!!」

器の核が光を放つ。

巨大影の核も光を返す。

二つの核が――
ついに繋がった。

爆ぜる閃光。

衝撃波。

そして――

――世界が白く染まる。 
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