勇者、チー牛

チー牛Y

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56:何もしない夜

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戦闘、食事、そして別れ──
すべてが終わる頃には、すっかり夜の気配が森を満たしていた。

凰翔とギン、そして新しく名前をつけた“カゲ丸”は一緒に、
静まり返った牛丼屋に戻ってきた。

店は闇に沈み、壁のすき間から月明かりが細く差し込むだけ。
灯りがない店内は、昼間よりずっと狭く、ずっと静かに感じる。

ギンは勢いよく店に飛び込み──

「ワフッ!?」

暗闇の中で柱にぶつかったらしい。

「ギン……だから暗いんだって……」

凰翔は苦笑しながら中に入る。
その足元で、カゲ丸が小さく震え、周囲を落ち着きなく見回していた。

黒い影の体は闇に溶け、ほぼ同化状態。
ただでさえ存在感が薄いのに、今はもう“空気より見えない”レベルだ。

「カゲ丸……そこにいる?」

覗き込むと、影の塊が「ふるっ」と一度だけ震えて返事をした。
名前をつけた瞬間から、なんとなく距離が縮まった気がする。

ギンはすでに凰翔の足元で丸くなり始めていた。
寝る気満々だ。

カゲ丸も、牛丼屋の小さなカウンターにぺたりと張りつき、
柔らかく波打つように揺れている。眠たいらしい。

「……影でも疲れるのか……」

凰翔がつぶやくと
カゲ丸は、ふにゃ……と形がゆらいだ。

葉っぱの壁が風に揺れて「ササ……」と鳴り、
戦いの記憶や余韻さえ、ここでは遠い昔のことのように思える。

ギンは「スー……スー……」と、もう完全に寝息へ。

カゲ丸も丸くまとまり、ふわりと沈むような柔らかい影の寝姿を見せている。

「今日は……もう何もしなくていいよな。
 スキルも戦いもなし。ただ寝るだけでいい……」

凰翔は柱に背中を預け、大きく息を吐いた。

葉っぱ屋根から落ちる月光が、ギンの毛並みとカゲ丸の黒い影を静かに照らし出す。

互いに安心しきった寝息。
森の夜は深く、穏やかで──

葉っぱの牛丼屋は、
疲れ切った三つの寝息を、そっと優しく包み込んでいた。 
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