勇者、チー牛

チー牛Y

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森は、静かすぎた。

音がないわけじゃない。
風もある。葉も揺れる。
それでも――何かが整えられすぎている。

凰翔は、仕切りの前で腕を組んだ。

「最近、誰も来ない……」

ギンは伏せたまま、耳を立てている。
カゲ丸は影から出てこず、時折ぴくりと揺れるだけだ。

「空腹でも来れない、ってことあるのか?」

冗談めかして言った声は、
静けさに吸われて、どこにも届かなかった。


その頃、森の外ではローブの者たちが円を描くように集まっていた。

焚き火はない。
代わりに、簡素な布が敷かれ、その上に帳面が並べられている。

一人が淡々と告げた。

「通過者は、一名のみ」

「人は、意味がなくても動く」

別の者が続ける。

「だから――意味を"上書き"する」

一瞬、空気が変わった。


その日の午後。

森の入り口付近に、立て札が立てられた。

派手ではない。
文字も簡素。
だが、誰が見ても分かる内容。

『この先、巡礼・商行為・滞在を禁ず。違反者は、自己責任とする』


署名はどこにもなかった。
だが、この世界でそれが何を意味するかは明白だった。

さらに――
森の方角について、
いつの間にか触れない方が良いという噂が広がり始めた。

「あの辺、祈りが乱れるらしい」

「行くと、帰り道を忘れる」

「奇跡じゃない。触れてはいけない類だ」


凰翔は、立て札の存在を知らない。

ただ、森の空気が変わったことだけは感じていた。 
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