スーパーのビニール袋で竜を保護した

チー牛Y

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1 その竜は震えていた

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山道の途中で、俺は立ち止まった。

風が冷たい。
雪が残る岩場の影で、何かがかすかに動いている。

「……?」

近づくと、それは――

竜だった。

いや、正確には子竜だ。

体長は小型犬ほど。
黒い鱗はまだ柔らかく、翼は折り畳まれている。
鋭いはずの牙は、小さく、噛みつく力もなさそうだった。

そして何より――

震えている。

「……寒いのか?」

子竜は、俺を見上げた。

黄金色の瞳。
本来なら、見ただけで人を焼き殺すはずの竜の眼。

だが今は――
完全に、怯えきっていた。

この世界で「竜」とは、災害指定生物だ。

見つけ次第、討伐。
保護? ありえない。
近づくことすら自殺行為。

……の、はずだった。

「……いやでも」

俺は、背負っていたリュックを下ろした。

取り出したのは――
スーパーのビニール袋。

これが俺のスキルだ。

転生後に与えられた力が、
よりにもよって、これだった。

剣でもなければ、炎でもない。
シャカシャカ鳴る、あの袋だ。


「……濡れるよりは、マシだろ」

自分でも意味がわからなかった。

竜を、
スーパーのビニール袋で、
保護しようとしている。

人生で想定したことのない行動ランキング、堂々の一位だ。

子竜は警戒して、後ずさった。

「大丈夫、大丈夫。取って食ったりしない」

完全に逆だ。
食われる側は、どう考えても俺だ。

そっと、袋を広げる。

ビニールが、カサ、と音を立てる。

その瞬間。

子竜が、びくっと震え――
次の瞬間、袋の中に自分から入ってきた。

「……え?」

袋の中で、子竜は丸くなる。

そして――
満足そうに、尻尾を巻いた。

「おぉ……」

袋越しに伝わる、ぬくもり。
吐く息が、白く曇る。

どうやら、
この竜は――

ただ、寒かっただけらしい。

その時だった。

「――竜だ!!」

背後から、声。

振り向くと、武装した冒険者たちが駆け上がってくる。

「小型だが竜種だ! 討伐対象!」
「近づくな、ブレスが――」

彼らの視線が、俺の手元に集中する。

そして――

沈黙。

俺は、こうなっていた。

片手にスーパーのビニール袋。
中で丸くなる子竜。
完全に保護者の顔。

「…………」

冒険者の一人が、震える声で言った。

「……お前、何してる?」

正直に答えた。

「保護を……してます」

「……何で?」

一瞬、考えてから言った。

「寒そうだったんで」

その場にいた全員が、理解を拒否した。

「ま、待て! そいつは竜だぞ!?」 
「災害指定生物だ!!」
「町が吹き飛ぶ!!」

袋の中で、子竜がくあ、と小さくあくびをした。

ビニール越しに、
ほわっと、暖かい空気が漏れる。

「……今、あくびしたぞ」
「可愛くない?」
「……可愛いな」

誰かが、言ってはいけないことを言った。


俺は言った。

「とりあえず、町まで連れて帰ります」

「正気か!?」
「ビニール袋だぞ!?」
「せめて檻を――」

袋を少し持ち上げる。

「今、これが一番落ち着いてるんで」

子竜は、袋の中で完全にリラックスしていた。

翼をたたみ、
俺の指の動きに合わせて、しっぽを揺らす。

……完全に、保護された顔だ。

今はただ――

ビニール袋に包まれた竜が、
小さく、満足そうに眠っていた。
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