僕の大好きな人、村山蒼空

霧野新庄

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ひまわりみたいな女の子

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初めて蒼空が僕のもとを訪れてからというもの、毎日のようにお見舞いに来てくれる様になった。

「ガラガラガラ」

病室の扉が開く音がした。

「れーんんん!!」

無機質で静観な場所に突然彼女はやってくる。彼女が居るだけで無機質なここがまるで宴会場に見えてくる。

僕の部屋が水を得た魚のように踊り出す。

彼女は人だけでなく空間すらにも愛される素質を持っているのかもしれない。

「聞いて聞いて、今日ね、幼稚園にね、
うさぎさんがやってきたんだよ~!」

蒼空はおしゃべりだ。だから決まって僕が話を聴く側になる。

「うさぎさん?」

「うん、」

「ねぇ、れん、なんのご本読んでるの?」

彼女の興味はうさぎさんから僕が読んでいた本に映ったらしい。

「れん、何読んでるの?」

「ん?ヘンゼルとグレーテル。グリム童話だよ」

「へ、ヘンゼルとグレ、テル?」

「ヘンゼルとグレーテル!笑笑」

「どんなお話なの?」

「うーんとね、ある時、ヘンゼルとグレーテルという兄弟がいました。お母さんは先に亡くなってしまい、2人はお父さんと3人で仲良く暮らしていました。でも、ある日、新しいお母さんがやってきます」

「えーなんでー!!私だったら、新しいお母さんなんて嫌だな。私のママはママだけだもん!!」

「ふふ、そうだね」

僕はこうやって自分の気持ちを素直に言える蒼空が好きだ。

自然と笑顔になれるから

「僕もお母さんとお父さんが大好きだよ。だから、新しいお母さんなんて嫌だな」

「ねー!で、で、続き教えて?」

「うんうん、それでね、新しいお母さんがすごく意地悪な人でヘンゼルとグレーテルを森に捨てちゃうんだ」

「酷い!2人は何も悪い事してないのに」

「うん、かわいそうだよね」

「2人はね、新しいお母さんは嫌いだけど、お父さんは大好きだったんだ。だからお家に帰ろうとしたんだ。でもね、森の魔女に捕まってしまうんだ」

「え、え!魔女?」

「うん、2人はお腹が減っていて、森でお菓子の家を見つけるんだ。でもね、そのお家が魔女のお家だったんだ」

「怖いねー2人はどうなったの?」

「2人はね、力を合わせて魔女を倒すんだ。そしてね、大好きなお父さんが居るお家に帰ったんだ」

「でも、新しいお母さんは?」

「お父さんがね、追い出しちゃったんだって、だからねお家にはいなかったの」

「そっか、じゃあまた3人で仲良く暮らしたんだね」

「うん。そういうお話だよ」

「そっかぁ~良いお話だね。蒼空、感動しちゃったよぉ~」

「うん、僕も大好きなんだこのお話。僕も2人のように諦めないで頑張れば、病気が治るのかな?」

「うん!言ったでしょ、全ての事は願うことから始まるって!れんが蓮のこと信じなきゃダメだよ!」

「そっか、ありがとう蒼空!元気出たよ」

「良かった!」

「じゃあ蓮、また明日も来るね!下でママが待ってるから!」

「じゃあね蓮!バイバイ」

「うん、バイバイ」

彼女は突然やってきて颯爽と帰っていく。

明るくて、落ち着きがなくて、まるで台風の目のような子。

「蒼空…僕は生きられないよ…」

僕は小さく誰にも聞こえない声で囁いた。
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