僕の大好きな人、村山蒼空

霧野新庄

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闘病生活

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「コンコン」

「蓮ー!入るわよ~」

病室の扉がノックされる。

「あら、こんな所に綺麗なひまわり!」
 
 季節はずれなのに誰かしら?」

きっと蒼空が置いていってくれたものだろう。朗らかな彼女に相応しい、ひまわり。

「蓮、蓮?」

僕は外を眺めていた。

いつもただ、死ぬまでの退屈凌ぎで観ていたけど、今は違う。

『僕もあそこで一緒に遊びたい』

「お母さん、」

「ん?なーに?」

「僕ね、絶対治すよ。痛くても、辛くても頑張るよ。頑張って生きるよ」

「蓮…」

精一杯の笑顔を母に向けた。蒼空のような快活な笑顔はできないけれど、、

「グスッ、グスグス、グスッ」

「お母さん?」

母は涙を流していた。止まらない。止めどなく溢れてくる。ダムが決壊したように。

「グスッ、グスグス、グスッ」

「やーね、なんで泣いてるのかしら私。グスッ、グスッ」

「蓮は強いわね。グスッ、あなたはお母さんの誇りよ。一緒に頑張りましょうね」

母は知っていた。蓮の命は持って後半年、彼の命は冬を迎えるまでに尽きてしまう。

「うん!」

しかし、言えなかった。こんな小さな子にどうしてそんな残酷なことが言えるであろうか?

「グスッ、蓮、お母さん、これからお仕事だから…」

「うん、行ってらっしゃい!お仕事頑張ってきてね、お母さん!」

「ごめんね、直ぐ帰ってくるからね」

母の背中が僕の部屋から遠ざかっていく。

「蓮、蓮蓮蓮…」

「どうして、どうして」

涙は枯れる事無く、止めどなく溢れた。

「蓮くんはもう永くありません」

先日、医師から言われた言葉が彼女の脳で反復される。

「蓮くんは、蓮くんはもう、、永く…」

何度も何度も夢に見た。

蓮が、蓮が誰かに連れてかれてしまう夢。

「蓮、蓮、蓮?」

「……」

ぼんやりと蓮の後ろ姿が見える。

「蓮、誰と一緒にいるの?」

「……」

蓮が誰かと手を繋いでいる。背が高くて、全身が真っ黒な毛で覆われている。

「誰?あなたは誰?

「……」

「待って、蓮を蓮を連れて行かないで!」

「……」

黒い影は返事をしない。

2人の後ろ姿がどんどん、どんどん小さくなってゆく。

「蓮、お母さんよ。こっちへこっちへ戻ってきて、、」

『遠ざかってゆく。私から蓮が!追いかけなきゃ、追いかけなきゃ』

『!』

「足が…」

地中から黒い薔薇が所狭しと生えてくる。

地中から一本、また一本と薔薇の茎が足元に巻き付いてくる。

『棘が痛い。でも蓮が…蓮が!』

「れーん!!」

悪夢はそこで終わっていた。

「美智子。おい、美智子!!」

「!」

「おい、大丈夫か!?美智子。いつにも増してうなされてたぞ?」

「蓮は、蓮は?あの子は、ねぇ、あの子は大丈夫?影が黒い影が…蓮を、、」

「美智子!おい美智子!落ち着け、」

「大丈夫。病院から連絡はきてない、蓮は大丈夫だ」

「……」

「私、ちょっと行ってくる」

「行くって病院へ?こんな明け方の時間に門が空いてないだろ」

「……それでも、それでも!」

「……わかった、5分で支度しろ」

美智子は嫌な予感がしていた。さっきの夢、影が笑っていた気がするのだ。

「笑ってた、」

「え?」

美智子は知っていた。
“蓮の余命は短いことを、、

「蓮くんは今年の冬を迎えられないかもしれません」

医師の辛辣な意見が頭をよぎった。

蓮の命は風前の灯。風が吹けば直ぐにでも消えてしまう小さな蝋燭のよう。

『蓮、蓮、無事で、無事でいてね。お母さんとお父さんが今行くからね』

「ガラガラガラ」

「蓮?蓮?蓮!!」

「蓮?大丈夫。生きてる?起きて、起きて起きてよ!!」

「ん?どうしたのお母さ、、」

「あぁ、蓮、蓮、良かった!あぁ、もし、もし蓮に何かあったら私、私、、」

早朝の朝5時という時間。

母が突然僕の部屋に転がり込んできた。

「どうしたのお母さん、泣かないで、僕はなんともないよ、元気だよ」

「ああ、れん、れん。良かった」

「蓮ー!美智子!大丈夫か?」

「お父さんまでどうしたの?僕は大丈夫。いつも通り、元気だよ」

僕は狼狽する両親にニコリと微笑んだ。

「そうか、そうだよな。良かった、ほんとによかった」

「でも、どうしたの…こんなに朝早く」

「いや、実はなお母さんが、悪い夢を」

「ううん、なんでもないのよ。大丈夫、蓮は何も心配する事ないわ、頑張って治しましょう」

「お母さんがどうしたの?」

「大丈夫。蓮が心配することは何もないわ、」

「うん、これからはお父さんも毎日お見舞いに来るからな、待ってろ~」

「え、ほんと?お父さんも!?」

「良い子にしてたら美味しいものたくさん買ってきてやるかな」

「え!ほんと?じゃあ僕、良い子にして待ってるね!」

「蓮はいつでも良い子よ、大丈夫」

「うん!!ありがとう、お父さん、お母さん!」

「じゃあごめんな、蓮、お父さん会社があるから…だからまた後でな?」

「うん、じゃあねお父さん。お仕事頑張ってきてね?」

「おう!蓮にそう言われちゃ頑張んなきゃいけないな笑笑」

「お父さん頑張っちゃうぞ~」

そういうと父は、僕に小さく力こぶを作って見せてくれた。

「じゃあね、お父さん!」

「また後でな蓮!」

ベッドの上から見た父の背中はとても大きくてかっこよかった。

「蓮…」

「お母さん、僕は大丈夫だよ」

「蓮、寂しくない?」

「少し寂しいけど、最近ね、お友達ができたんだよ。そらって言うの。元気な女の子なんだ。蒼空が言ってたんだ、全ての事は願うことから始まるって。頑張ってればね、僕の病気も治っちゃうんだって!!」

「そう、蒼空ちゃんっていうの、じゃあ、あのお花もその子かしら?」

「うん!きっとそうだと思うよ」

「そう、よかったわね、蓮」

お母さんは小さくほくそ笑んだ。

どうしてだろう、その笑顔が僕には悲しい時にする顔のようにみえたんだ。

「蓮、ごめんね、母さん、お家のこと放ったらかしにしてきたから、ちょっと片付けてくるわね」

「うん!」

「朝早いから、もう少し蓮もおやすみなさいね」

「お母さん、また後でね」

「じゃあね、直ぐ戻ってくるね」

お母さんはお家へ帰ってしまった。

『寂しいな、、』

「カタン」

小さな音を立て、扉が静かに閉められた。

『お母さん、お父さん、僕知ってるんだよ。僕がもう直ぐ死んじゃうって…

 お医者さんの言ってること、こっそり聞こえたんだ……』

「悲しい。寂しい。怖いな、」

蓮は2人の前では素直で優しい男の子を演じ続けた。

心配させないために、、
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