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第三部 学校へ行こう
第256話 シュリ争奪戦①
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「いつも孫娘がお世話になっておりますな、エイゲン校長」
「いやいや、わざわざお運びいただいてありがとうございます、シュタインバーグ学院長。サシャ先生にはいつも助けられとりますよ。彼女は非常に優秀じゃ。いたって平凡な我が校にはもったいないくらいに」
二人は顔を見合わせてはっはっはっ、と笑い合う。
その目は全く笑ってはいなかったが。
そうしてひとしきり笑いあった後、再びシュタインバーグのほうから口火をきった。
「平凡な、とおっしゃいますが、そんな貴方の学校から大変非凡な才能が出たと聞きましたぞ? シュリナスカ・ルバーノ。確かここの領主の血筋でしたかな?」
「さすがは王立学院の学院長。お耳が早い事じゃ。まだ彼の飛び級の打診は出してないはずですがの?」
キラリン、とエイゲン校長のふさふさな白い眉毛の下の目が光る。
それを受けて、シュタインバーグは鷹揚に微笑んだ。
「我が校の情報網は中々のものだと自負しております。その道のプロフェッショナルも育成しておりますし、それなりに伝手もある」
「なるほど。やはり、さすが、と言うしかありませんのう。しかし、シュリナスカ・ルバーノに関しては、我々はほとんどなにもしておらんというのが現状じゃ。彼は入学した瞬間から非凡で突出した才能を持つ少年じゃったからのう。正直、これほど早く彼を手放すのは寂しいような気もするが、あの才能を飼い殺しにしてしまうのも申し訳ない。と、いうわけで、近々王都の各校に飛び級生徒の受け入れに関する打診をする予定だっだのじゃが……」
「……なぜいきなり王都に?中等学校という選択肢もあったでしょう?」
「一応、中等学校での授業を体験させてみたんじゃが、彼には中等学校でも不足のようでしての。ならいっそ、王都の専門機関ならどうじゃろうと、これから色々と動こうとした矢先だったんじゃが」
まったく、油断も隙もないもんじゃ、とエイゲン校長は目の前でにこにこしている老紳士をじっとり見つめた。
もちろん、自分達からシュリの受け入れを打診しようとしていた相手の内の一人だが、こうして向こうから来られるとなんだかシュリをかすめ取りに来たように思えてなんだか面白くない。
事実、あわよくばシュリをかすめ取って帰ろうとしているシュタインバーグは、警戒心丸出しのエイゲンをなだめるようににっこり微笑んだ。
「そのご様子ですと、私達が一番乗り、ですかな?」
その言葉に、エイゲンはにまりと人の悪い笑みを浮かべた。
「確かに直接いらしたのは、シュタインバーグ学院長が一番ですじゃのう」
「直接は、という事は……」
「事前の打診はいくつか頂いとりますじゃ。こちらに向かうという連絡も貰っとるし、そろそろそちらも到着する頃じゃと思うんじゃが」
「……なるほど。完全に出し抜くには少々遅かったようですな。流石、海千山千の古狸達といったところか」
シュタインバーグは鷹揚に頷きながら、脳裏にライバル達の顔を思い描く。
手強いのはおそらく二人。
一人は、高等魔術学院の学院長をしている女狐。
アガサ学院長は、来る者は拒まず、去る者は追わずの精神で、優秀な生徒の獲得にさほど熱心ではなかったはず。
その彼女が重い腰を上げると言うことは、シュリがそれほど優秀だという事の証明とも言えるだろう。
もう一人は、冒険者養成学校の校長。
彼が動いたかどうかは微妙だとは思うが、もし動いていればかなりの強敵だろう。
なにしろ、彼自身が高名な冒険者だった経歴を持ち、更に各地の冒険者ギルドの長を勤め、最後に王都の冒険者ギルド長を勤め上げて、最終的に養成学校の校長へおさまったという男だ。
今のところ、シュリが冒険者ギルドから目を付けられる要素は思いつかないが、もし目を付けられていたら面倒な事になりそうだった。
他にも王都には雑多に少なくはない数の学校があるが、天下の王立学院のライバルになり得る学校はありそうにない。
警戒すべきは、高等魔術学院と冒険者養成学校と言うことになるだろう。
(アガサ殿だけならまだいいが、あの男……ディアルド殿も、となると少々やっかいだな。私一人で古狐と古狸の相手をするのは中々厳しい。まあ、負けるつもりは毛頭ないが)
そんな心の声を、彼の称する古狐や古狸が聞いていたら声を揃えて言い返したことだろう。
自分達よりもお前の方がよほど古狸という呼称にふさわしいだろう、と。
だがもちろん、この場でそんなつっこみが入ることはなく、シュタインバーグは目の前に立派な古狸の一員であるエイゲンを放置したまま、今回のシュリ争奪戦の作戦について頭をフル回転させる。
まさかライバルの一人が、今まさにシュリに接触しているなどとは夢にも思わないまま。
「いやいや、わざわざお運びいただいてありがとうございます、シュタインバーグ学院長。サシャ先生にはいつも助けられとりますよ。彼女は非常に優秀じゃ。いたって平凡な我が校にはもったいないくらいに」
二人は顔を見合わせてはっはっはっ、と笑い合う。
その目は全く笑ってはいなかったが。
そうしてひとしきり笑いあった後、再びシュタインバーグのほうから口火をきった。
「平凡な、とおっしゃいますが、そんな貴方の学校から大変非凡な才能が出たと聞きましたぞ? シュリナスカ・ルバーノ。確かここの領主の血筋でしたかな?」
「さすがは王立学院の学院長。お耳が早い事じゃ。まだ彼の飛び級の打診は出してないはずですがの?」
キラリン、とエイゲン校長のふさふさな白い眉毛の下の目が光る。
それを受けて、シュタインバーグは鷹揚に微笑んだ。
「我が校の情報網は中々のものだと自負しております。その道のプロフェッショナルも育成しておりますし、それなりに伝手もある」
「なるほど。やはり、さすが、と言うしかありませんのう。しかし、シュリナスカ・ルバーノに関しては、我々はほとんどなにもしておらんというのが現状じゃ。彼は入学した瞬間から非凡で突出した才能を持つ少年じゃったからのう。正直、これほど早く彼を手放すのは寂しいような気もするが、あの才能を飼い殺しにしてしまうのも申し訳ない。と、いうわけで、近々王都の各校に飛び級生徒の受け入れに関する打診をする予定だっだのじゃが……」
「……なぜいきなり王都に?中等学校という選択肢もあったでしょう?」
「一応、中等学校での授業を体験させてみたんじゃが、彼には中等学校でも不足のようでしての。ならいっそ、王都の専門機関ならどうじゃろうと、これから色々と動こうとした矢先だったんじゃが」
まったく、油断も隙もないもんじゃ、とエイゲン校長は目の前でにこにこしている老紳士をじっとり見つめた。
もちろん、自分達からシュリの受け入れを打診しようとしていた相手の内の一人だが、こうして向こうから来られるとなんだかシュリをかすめ取りに来たように思えてなんだか面白くない。
事実、あわよくばシュリをかすめ取って帰ろうとしているシュタインバーグは、警戒心丸出しのエイゲンをなだめるようににっこり微笑んだ。
「そのご様子ですと、私達が一番乗り、ですかな?」
その言葉に、エイゲンはにまりと人の悪い笑みを浮かべた。
「確かに直接いらしたのは、シュタインバーグ学院長が一番ですじゃのう」
「直接は、という事は……」
「事前の打診はいくつか頂いとりますじゃ。こちらに向かうという連絡も貰っとるし、そろそろそちらも到着する頃じゃと思うんじゃが」
「……なるほど。完全に出し抜くには少々遅かったようですな。流石、海千山千の古狸達といったところか」
シュタインバーグは鷹揚に頷きながら、脳裏にライバル達の顔を思い描く。
手強いのはおそらく二人。
一人は、高等魔術学院の学院長をしている女狐。
アガサ学院長は、来る者は拒まず、去る者は追わずの精神で、優秀な生徒の獲得にさほど熱心ではなかったはず。
その彼女が重い腰を上げると言うことは、シュリがそれほど優秀だという事の証明とも言えるだろう。
もう一人は、冒険者養成学校の校長。
彼が動いたかどうかは微妙だとは思うが、もし動いていればかなりの強敵だろう。
なにしろ、彼自身が高名な冒険者だった経歴を持ち、更に各地の冒険者ギルドの長を勤め、最後に王都の冒険者ギルド長を勤め上げて、最終的に養成学校の校長へおさまったという男だ。
今のところ、シュリが冒険者ギルドから目を付けられる要素は思いつかないが、もし目を付けられていたら面倒な事になりそうだった。
他にも王都には雑多に少なくはない数の学校があるが、天下の王立学院のライバルになり得る学校はありそうにない。
警戒すべきは、高等魔術学院と冒険者養成学校と言うことになるだろう。
(アガサ殿だけならまだいいが、あの男……ディアルド殿も、となると少々やっかいだな。私一人で古狐と古狸の相手をするのは中々厳しい。まあ、負けるつもりは毛頭ないが)
そんな心の声を、彼の称する古狐や古狸が聞いていたら声を揃えて言い返したことだろう。
自分達よりもお前の方がよほど古狸という呼称にふさわしいだろう、と。
だがもちろん、この場でそんなつっこみが入ることはなく、シュタインバーグは目の前に立派な古狸の一員であるエイゲンを放置したまま、今回のシュリ争奪戦の作戦について頭をフル回転させる。
まさかライバルの一人が、今まさにシュリに接触しているなどとは夢にも思わないまま。
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