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その時~悠木ソラの場合~
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弓道部の見学を終え、今日の部活見学ですっかり仲良くなった亜希や静と一緒に下校していると、不意に後ろから名前を呼ばれた。
「ソラ」
数えるほどしか聞いたことがないのに、覚えている。ソラが、大好きな声。
ドキドキと高鳴りはじめた心臓をなだめながら、ソラはゆっくりと後ろを振り向く。
そこに、あの人が居た。ソラが憧れてやまない人。
軽音部の歌姫、立樹涼香。
ぽかんとして、彼女の顔を見上げた。
今日再会した幼なじみより、少し近いところにある顔に見とれながら、涼香さんはカエちゃんより背が低いんだなぁと、そんなどうでも良いことを考える。
思考が空回りしているのは分かるがどうにもならない。
なんでこの人が自分を呼び止めたのかも分からず、ソラは声も出せずにただ彼女を見ていた。
「明日は、来る?」
短い問いに、部活見学の事だとすぐに検討がついた。
ソラは大きく頷いて答えに代える。
それをみた彼女が満足そうに微笑んだ。とても、綺麗な笑顔で。
その顔に見ほれていると、彼女の手が伸びてきて、ソラの頬をそっと撫でた。
そのあまりに優しい感触に陶然となる。頬が熱くなり、もっと触っていてほしいと思ってしまう。
ソラは、潤んだ瞳で涼香を見上げた。
だが、彼女の手はあっさりと離れていき、
「じゃあ、待ってる」
再び短くそう言うと、ソラの脇を通り抜け、颯爽と歩いていってしまった。ソラを振り返ることもなく。
ソラはその背中を見送った。涼香は後ろ姿でさえも綺麗だった。
ぽーっとその背中を見ていると、後ろから誰かがのしっとのしかかってきた。
肩の辺りに顎が乗っかって、ほっぺたがぺとりとくっついてくる。
(こう言うことをするのはしーちゃん、かな)
つきあいはまだ短いが、それくらいは推測できた。
亜希は何となく、こう言うことをあまりしそうにない。
「あの人、軽音部の先輩だよねぇ。美人でかっこいい人だね~」
案の定、すぐ耳の横で聞こえた声は静のもの。ソラは微笑み、
「うん」
短く答える。
ソラはまだ、涼香を語れるほど彼女の事を知らない。だが、いつかもっと彼女の話を出来るようになりたいなと思いながら。
「こら、離れな。ソラが潰れるでしょ?」
ちょっと毒舌な亜希の言葉に、
「ひどーい、亜希ちゃん。私、そんなに重くないもん」
ブーブー言いながら静がソラの背中から離れる。
体は軽くなったが、離れた温もりが少し寂しいと思う。
そんな思いと共に見上げると、こっちを見てる静と目があった。彼女がにこっと笑うので、同じように笑い返すと、
「ソラちゃん、かわいーなぁ~」
と、ぎゅーっと抱きしめられた。
今日何度目の包容だろうか。
静に抱きしめられるとなんだかほっとする。
それはきっと、彼女がソラに対する好意を隠さないからだ。
だが、静の力は結構強く、ソラは毎回目を白黒させてしまう。
そうすると亜希が静をひっぺがしてソラを助けてくれる。
今回ももちろんそうだった。
ありがとうの思いを込めて微笑むと、亜希も笑い返してくれる。そんな感じが嬉しくてくすぐったい。
今日の放課後だけで、何となくそんな関係性が出来上がった。
その関係性が、心地良いと思う。出来るだけ、長く続けばいいな、とも。
だが、ソラは知っていた。
人間関係は些細なことで壊れてしまう。
壊さないように気をつけるけれど、それでも壊れるときは壊れてしまうのだ。
ソラに出来ることは、そうならないように気をつけて過ごすだけ。
亜希の顔と静の顔を交互に見上げる。
2人のことを好きだなと思う。このまま友達として過ごしていきたいと。
それはいつまで続くだろう。
だが、たとえいつか壊れてしまい、2人が離れていってしまっても、この気持ちは変わらないだろうなと思う。2人を大好きだと思う、この気持ちは。
「ソラは、やっぱり明日は軽音部に行くの?」
「うん」
「軽音部は柄の悪い男子の先輩が多いから心配だなぁ」
「うーん、ソラちゃん、可愛いからねぇ」
亜希と静が唸る様子が面白い。
2人とも、なんだかとてもソラに対して過保護なのだ。
そうやって守られるのは何とも言えずにくすぐったい感じがする。
「やっぱ、護衛について行くか」
「あ、それいいかも」
真面目にそんな相談をする2人に、
「大丈夫だよ、2人とも。私、空手も合気道も柔道も黒帯だから」
にこりと微笑んで、身につけた己の戦闘力の高さを打ち明ける。
「え?それって冗談じゃないよね?」
「うん。今は、キックボクシングも習ってるよ?お父さんが総合格闘技の選手なんだ」
「へぇ~。人は見かけによらないって本当だねぇ」
「うん。だから、大丈夫。変なことされたらちゃんと自分で反撃できるから」
ソラは微笑み、ありがとうと2人の顔を見上げる。
2人は照れくさそうに顔を見合わせ、それならソラの自主性にまかせると言ってくれた。
それでもやっぱり心配は心配のようで、危ないと思ったら徹底的にやるようにとのアドバイスを貰い、困ったら必ず相談するよう約束をさせられたが。
2人の友人に囲まれながら、ソラは微笑む。
それは本当に久しぶりの、友人と過ごす穏やかな時間だった。
「ソラ」
数えるほどしか聞いたことがないのに、覚えている。ソラが、大好きな声。
ドキドキと高鳴りはじめた心臓をなだめながら、ソラはゆっくりと後ろを振り向く。
そこに、あの人が居た。ソラが憧れてやまない人。
軽音部の歌姫、立樹涼香。
ぽかんとして、彼女の顔を見上げた。
今日再会した幼なじみより、少し近いところにある顔に見とれながら、涼香さんはカエちゃんより背が低いんだなぁと、そんなどうでも良いことを考える。
思考が空回りしているのは分かるがどうにもならない。
なんでこの人が自分を呼び止めたのかも分からず、ソラは声も出せずにただ彼女を見ていた。
「明日は、来る?」
短い問いに、部活見学の事だとすぐに検討がついた。
ソラは大きく頷いて答えに代える。
それをみた彼女が満足そうに微笑んだ。とても、綺麗な笑顔で。
その顔に見ほれていると、彼女の手が伸びてきて、ソラの頬をそっと撫でた。
そのあまりに優しい感触に陶然となる。頬が熱くなり、もっと触っていてほしいと思ってしまう。
ソラは、潤んだ瞳で涼香を見上げた。
だが、彼女の手はあっさりと離れていき、
「じゃあ、待ってる」
再び短くそう言うと、ソラの脇を通り抜け、颯爽と歩いていってしまった。ソラを振り返ることもなく。
ソラはその背中を見送った。涼香は後ろ姿でさえも綺麗だった。
ぽーっとその背中を見ていると、後ろから誰かがのしっとのしかかってきた。
肩の辺りに顎が乗っかって、ほっぺたがぺとりとくっついてくる。
(こう言うことをするのはしーちゃん、かな)
つきあいはまだ短いが、それくらいは推測できた。
亜希は何となく、こう言うことをあまりしそうにない。
「あの人、軽音部の先輩だよねぇ。美人でかっこいい人だね~」
案の定、すぐ耳の横で聞こえた声は静のもの。ソラは微笑み、
「うん」
短く答える。
ソラはまだ、涼香を語れるほど彼女の事を知らない。だが、いつかもっと彼女の話を出来るようになりたいなと思いながら。
「こら、離れな。ソラが潰れるでしょ?」
ちょっと毒舌な亜希の言葉に、
「ひどーい、亜希ちゃん。私、そんなに重くないもん」
ブーブー言いながら静がソラの背中から離れる。
体は軽くなったが、離れた温もりが少し寂しいと思う。
そんな思いと共に見上げると、こっちを見てる静と目があった。彼女がにこっと笑うので、同じように笑い返すと、
「ソラちゃん、かわいーなぁ~」
と、ぎゅーっと抱きしめられた。
今日何度目の包容だろうか。
静に抱きしめられるとなんだかほっとする。
それはきっと、彼女がソラに対する好意を隠さないからだ。
だが、静の力は結構強く、ソラは毎回目を白黒させてしまう。
そうすると亜希が静をひっぺがしてソラを助けてくれる。
今回ももちろんそうだった。
ありがとうの思いを込めて微笑むと、亜希も笑い返してくれる。そんな感じが嬉しくてくすぐったい。
今日の放課後だけで、何となくそんな関係性が出来上がった。
その関係性が、心地良いと思う。出来るだけ、長く続けばいいな、とも。
だが、ソラは知っていた。
人間関係は些細なことで壊れてしまう。
壊さないように気をつけるけれど、それでも壊れるときは壊れてしまうのだ。
ソラに出来ることは、そうならないように気をつけて過ごすだけ。
亜希の顔と静の顔を交互に見上げる。
2人のことを好きだなと思う。このまま友達として過ごしていきたいと。
それはいつまで続くだろう。
だが、たとえいつか壊れてしまい、2人が離れていってしまっても、この気持ちは変わらないだろうなと思う。2人を大好きだと思う、この気持ちは。
「ソラは、やっぱり明日は軽音部に行くの?」
「うん」
「軽音部は柄の悪い男子の先輩が多いから心配だなぁ」
「うーん、ソラちゃん、可愛いからねぇ」
亜希と静が唸る様子が面白い。
2人とも、なんだかとてもソラに対して過保護なのだ。
そうやって守られるのは何とも言えずにくすぐったい感じがする。
「やっぱ、護衛について行くか」
「あ、それいいかも」
真面目にそんな相談をする2人に、
「大丈夫だよ、2人とも。私、空手も合気道も柔道も黒帯だから」
にこりと微笑んで、身につけた己の戦闘力の高さを打ち明ける。
「え?それって冗談じゃないよね?」
「うん。今は、キックボクシングも習ってるよ?お父さんが総合格闘技の選手なんだ」
「へぇ~。人は見かけによらないって本当だねぇ」
「うん。だから、大丈夫。変なことされたらちゃんと自分で反撃できるから」
ソラは微笑み、ありがとうと2人の顔を見上げる。
2人は照れくさそうに顔を見合わせ、それならソラの自主性にまかせると言ってくれた。
それでもやっぱり心配は心配のようで、危ないと思ったら徹底的にやるようにとのアドバイスを貰い、困ったら必ず相談するよう約束をさせられたが。
2人の友人に囲まれながら、ソラは微笑む。
それは本当に久しぶりの、友人と過ごす穏やかな時間だった。
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