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第一話『解決後の推理』壱
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雪降るその夜、一つの命が失われた。
その日、赤城家で開かれていた親戚同士のパーティーは集まった人物の三分の一が酔い潰れた為、深夜二時頃解散となった。
まだ動けるものが、酔い潰れた者を部屋まで運び、自分たちも自室へと戻っていった。
その翌朝、インターホンの音で目が覚めた家の主人である赤城伸一郎が玄関を開けると、そこには郵便の配達員がいた。
荷物を受け取り、受領書にサインを書いていると配達員が話し掛けてきた。
「暖炉使ってるんですか、いいですね。今朝は冷えますもんね」
「暖炉…ですか?あれはしばらく使ってないんですよ。最近は石油ストーブです」
「いやいや、使ってるじゃないですか。煙出てますし」
そう言うと配達員は屋根の上を見上げる。
伸一郎も外へ出て上を見る。確かに煙突から煙が出ている。
おかしいと思った伸一郎は配達員と別れた後、急いで家の中に戻ると全員を起こしてまわった。
全員を居間に集めると、一人だけ、伸一郎の父親である赤城正明がいない。親戚全員で家中探したが、自身の部屋にも書斎にもいない。
伸一郎は配達員との話を思い出し、もしかしたら地下室にいるかもしれないと、その日泊まっていた親戚四人と共に地下室へと向かった。
地下室へと続くコンクリート製の階段を降り終えた瞬間、全員が慌てて鼻を塞いだ。何かが焦げたような臭いと腐ったような臭い。
伸一郎と従兄弟の河内肇がドアに近づく。ドアノブを回し開けようとしたが鍵がかかっていて開かない。肇がドアの脇にある棚からバールを持ち出し、ドアノブの少し上を目掛けて振り下ろした。二撃目でドアに穴が開き、伸一郎がその穴に腕を突っ込み掛け金を外した。
地下室に入った彼らが見たのは、火のついた暖炉の中に座り込んでいる真っ黒な死体だった。
その日は朝から雪が降っていた。
このまま降り積もれば、昼過ぎには一面真っ白になることだろう。
私は車を運転しながらため息をついた。これは下手をすると今日は帰れなくなるかもしれない。私は周りの景色を見ながらもう一度ため息をついた。
信号待ちの際に、チラッと助手席の方に視線を向けた。
座席を少し倒し、先ほどまで読んでいた本を自分の顔に被せて寝ている。
彼女の名前は絢辻真希。私と同じ二十六歳で職業は探偵。その頭脳を買われ、警察の捜査に協力しているから探偵というわけではない。実際警察の捜査に協力しているし、頭脳も高いと思う。だが、お手伝いではない。
彼女は櫛木探偵事務所に勤める正真正銘の探偵なのだ。
今日は彼女の仕事で岐阜県多治見市にある依頼人の家に向かっている。
車の免許を持たない彼女は中長距離移動の際には私をタクシー代わりに使う。まぁ、近場の移動にも利用されるのだが。
自己紹介がまだだった。私の名前は村瀬若菜。若菜という女の子っぽい名前だが、正真正銘男である。四年前からミステリー作家として活動している。まだまだ新人の部類だ。一年ぶりとなる三冊目の新作長編の案を練っていた時に、絢辻から呼び出された。まぁ、行き詰っていたし、探偵の仕事に同行する機会などそうはない。気分転換も兼ねて何かいい案が浮かぶかもしれないと思い、私は彼女の呼び出しに応じた。
中央自動車道を多治見インターで降り、国道248号線を可児市方面に走る。高校前の信号を左折し、その先の踏切を渡る。さらに左折し、太多線小泉駅前を通り抜け、一つ目の角を右折する。その後坂を下り、一軒目の家の前の路肩に一旦車を止める。
煙突の付いている横長の家。ここが今回の依頼人が住む家だ。
到着する頃には、雪は止み、空は晴れていた。
「着いたぞ。起きろ」
私はシートベルトを外し、助手席で寝ている絢辻の顔に被さっている本を取った。本が日除けになっていたのだろう。本を取ると彼女の顔に日差しが当たり、彼女は眩しそうな顔をして目を覚ました。
「あ、若菜ちゃんおはよう。今どの辺?」
寝ぼけているようだ。大きく口を開けて眠たそうにあくびをしている。
「ちゃん付けはやめろ。もう着いてるぞ。そのだらしない口を閉じてさっさと準備しろ」
私がそう言うと、彼女は恥ずかしそうにして慌てて口を閉じた。
「そういうことは早く言ってよ!」
そう言うと彼女は足元に置いてあったカバンを持ち、車を降りた。
私も車を降り、鍵を掛けると彼女の後を追った。
「お待ちしてました。依頼した赤城伸一郎です」
家のインターホンを押すと、すぐに玄関が開き、家の主人である赤城伸一郎が出てきた。
「ご依頼ありがとうございます。櫛木探偵事務所の絢辻と申します。こっちは助手の村瀬です」
いつから私は彼女の助手になったのだろうか。
そう思いながらも口にはせず、彼女の仕事の邪魔をしてはいけないと思い、怪しまれないように私は挨拶をした。
「助手の村瀬です」
「どうぞ中へ。今日は冷えますから温かい飲み物でも出しましょう」
にっこり笑ってそう言った伸一郎は家の中に戻っていった。
「お邪魔します」
そう言って私と絢辻は家の中に足を踏み入れた。
玄関から居間までは長い廊下が続いていた。左右には幾つも部屋がある。その廊下を歩きながら私は絢辻に話しかけた。
「なぁ、今回の依頼ってどんな内容なんだ?」
私は絢辻から場所と依頼人の名前しか聞いていない。
「事件の後処理って言ったほうがいいかな?一つだけ分からないことがあるんだって」
「分からないことって?」
私の質問に絢辻はにっこり笑って答えた。
「密室だよ」
その日、赤城家で開かれていた親戚同士のパーティーは集まった人物の三分の一が酔い潰れた為、深夜二時頃解散となった。
まだ動けるものが、酔い潰れた者を部屋まで運び、自分たちも自室へと戻っていった。
その翌朝、インターホンの音で目が覚めた家の主人である赤城伸一郎が玄関を開けると、そこには郵便の配達員がいた。
荷物を受け取り、受領書にサインを書いていると配達員が話し掛けてきた。
「暖炉使ってるんですか、いいですね。今朝は冷えますもんね」
「暖炉…ですか?あれはしばらく使ってないんですよ。最近は石油ストーブです」
「いやいや、使ってるじゃないですか。煙出てますし」
そう言うと配達員は屋根の上を見上げる。
伸一郎も外へ出て上を見る。確かに煙突から煙が出ている。
おかしいと思った伸一郎は配達員と別れた後、急いで家の中に戻ると全員を起こしてまわった。
全員を居間に集めると、一人だけ、伸一郎の父親である赤城正明がいない。親戚全員で家中探したが、自身の部屋にも書斎にもいない。
伸一郎は配達員との話を思い出し、もしかしたら地下室にいるかもしれないと、その日泊まっていた親戚四人と共に地下室へと向かった。
地下室へと続くコンクリート製の階段を降り終えた瞬間、全員が慌てて鼻を塞いだ。何かが焦げたような臭いと腐ったような臭い。
伸一郎と従兄弟の河内肇がドアに近づく。ドアノブを回し開けようとしたが鍵がかかっていて開かない。肇がドアの脇にある棚からバールを持ち出し、ドアノブの少し上を目掛けて振り下ろした。二撃目でドアに穴が開き、伸一郎がその穴に腕を突っ込み掛け金を外した。
地下室に入った彼らが見たのは、火のついた暖炉の中に座り込んでいる真っ黒な死体だった。
その日は朝から雪が降っていた。
このまま降り積もれば、昼過ぎには一面真っ白になることだろう。
私は車を運転しながらため息をついた。これは下手をすると今日は帰れなくなるかもしれない。私は周りの景色を見ながらもう一度ため息をついた。
信号待ちの際に、チラッと助手席の方に視線を向けた。
座席を少し倒し、先ほどまで読んでいた本を自分の顔に被せて寝ている。
彼女の名前は絢辻真希。私と同じ二十六歳で職業は探偵。その頭脳を買われ、警察の捜査に協力しているから探偵というわけではない。実際警察の捜査に協力しているし、頭脳も高いと思う。だが、お手伝いではない。
彼女は櫛木探偵事務所に勤める正真正銘の探偵なのだ。
今日は彼女の仕事で岐阜県多治見市にある依頼人の家に向かっている。
車の免許を持たない彼女は中長距離移動の際には私をタクシー代わりに使う。まぁ、近場の移動にも利用されるのだが。
自己紹介がまだだった。私の名前は村瀬若菜。若菜という女の子っぽい名前だが、正真正銘男である。四年前からミステリー作家として活動している。まだまだ新人の部類だ。一年ぶりとなる三冊目の新作長編の案を練っていた時に、絢辻から呼び出された。まぁ、行き詰っていたし、探偵の仕事に同行する機会などそうはない。気分転換も兼ねて何かいい案が浮かぶかもしれないと思い、私は彼女の呼び出しに応じた。
中央自動車道を多治見インターで降り、国道248号線を可児市方面に走る。高校前の信号を左折し、その先の踏切を渡る。さらに左折し、太多線小泉駅前を通り抜け、一つ目の角を右折する。その後坂を下り、一軒目の家の前の路肩に一旦車を止める。
煙突の付いている横長の家。ここが今回の依頼人が住む家だ。
到着する頃には、雪は止み、空は晴れていた。
「着いたぞ。起きろ」
私はシートベルトを外し、助手席で寝ている絢辻の顔に被さっている本を取った。本が日除けになっていたのだろう。本を取ると彼女の顔に日差しが当たり、彼女は眩しそうな顔をして目を覚ました。
「あ、若菜ちゃんおはよう。今どの辺?」
寝ぼけているようだ。大きく口を開けて眠たそうにあくびをしている。
「ちゃん付けはやめろ。もう着いてるぞ。そのだらしない口を閉じてさっさと準備しろ」
私がそう言うと、彼女は恥ずかしそうにして慌てて口を閉じた。
「そういうことは早く言ってよ!」
そう言うと彼女は足元に置いてあったカバンを持ち、車を降りた。
私も車を降り、鍵を掛けると彼女の後を追った。
「お待ちしてました。依頼した赤城伸一郎です」
家のインターホンを押すと、すぐに玄関が開き、家の主人である赤城伸一郎が出てきた。
「ご依頼ありがとうございます。櫛木探偵事務所の絢辻と申します。こっちは助手の村瀬です」
いつから私は彼女の助手になったのだろうか。
そう思いながらも口にはせず、彼女の仕事の邪魔をしてはいけないと思い、怪しまれないように私は挨拶をした。
「助手の村瀬です」
「どうぞ中へ。今日は冷えますから温かい飲み物でも出しましょう」
にっこり笑ってそう言った伸一郎は家の中に戻っていった。
「お邪魔します」
そう言って私と絢辻は家の中に足を踏み入れた。
玄関から居間までは長い廊下が続いていた。左右には幾つも部屋がある。その廊下を歩きながら私は絢辻に話しかけた。
「なぁ、今回の依頼ってどんな内容なんだ?」
私は絢辻から場所と依頼人の名前しか聞いていない。
「事件の後処理って言ったほうがいいかな?一つだけ分からないことがあるんだって」
「分からないことって?」
私の質問に絢辻はにっこり笑って答えた。
「密室だよ」
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