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第一話『解決後の推理』弐
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居間に入り、椅子に座ると伸一郎が台所から温かい飲み物を運んできた。
どうやらコーヒーのようだ。お盆の上には一緒にスティック砂糖が何本か乗せられている。
私と絢辻、そして自分が座る席の前にマグカップを置き、自身も椅子に座った。
「それで、依頼の方なんですが」
「確か、お知り合いからの紹介でしたね。所長から伺ってます。依頼内容は密室の謎の解明。これでよろしかったですか?」
絢辻が確認するように尋ねると、伸一郎はコクリと頷いた。
「はい。その通りです。一週間前にこの家の地下室で私の父親、赤城正明が真っ黒な焼死体で発見されました」
「しょ、焼死体!?」
私はおもわず声を上げてしまった。
その間に絢辻はスティック砂糖を二本、コーヒーに入れて飲んでいた。
「えぇ。あ、でもすぐに警察を呼んで、事件はその日のうちに解決しました。犯人も捕まりましたし、犯行動機、手口。それから使われた凶器も全て判りました。ただ一つだけ判らなかったのが」
「どうやって密室を作ったのか」
「はい。犯人だった妹の婚約者は密室以外の全てを語った後、ナイフで自分の首を切って自殺しました。本当のことは分からないままです」
「なるほど。分かりました。では、調べてみますので地下室まで案内していただけますか?」
「はい、どうぞこちらです」
そう言うと伸一郎は席を立って歩き始めた。
私と絢辻も立ち上がって彼の後を追った。
地下室へと続く階段はコンクリート製、周りの壁もコンクリートでできているので上よりもかなり寒い。
事件からすでに一週間が経過しているが、腐敗臭がすると感じるのは、ここで人が焼けたという先入観があるからだろうか。
地下室のドアは新しいものに取り替えられていた。
「ドアは事件解決後に新しいものに取り替えましたが型は同じです」
「この鍵も以前のドアについてたんですか?」
絢辻がドアノブの少し下についている鍵穴を指差して言った。
「あぁ、それは新しいドアにしたときにつけたんです。以前のは内側にある掛け金でした。そこで警察の方も悩まれていました」
「そうでしょうね。部屋の中を調べてみてもいいですか?」
「えぇ、どうぞ。私は台所に戻ります。今日は海外出張から姉が帰ってきますので」
「分かりました。調べ終わりましたら声をかけます」
絢辻の言葉を聞くと、伸一郎は軽く頭を下げてから上に戻っていった。
「よし、まずはどこから調べる?」
私が尋ねると、絢辻は部屋の中央に置いてあるソファに腰掛けた。
「調べる必要はないよ。警察が調べてるから」
そう言うと絢辻はカバンから書類の束を取り出した。
私も絢辻とは反対側のソファに腰掛け、彼女が取り出した書類を眺める。
「赤城正明殺害事件。あ、この事件の捜査資料か!」
「コピーだけどね。特別にお願いして貰っちゃった。後で返さないといけないけど」
さすがは警察に捜査協力しているだけはある。
「これを見ればわざわざ調べなくてもいいわけだ」
「そういうこと。まずは事件のことを知らなくちゃね」
犯人の名前は工藤秀明。伸一郎の妹、秋子の夫だった男だ。
犯行の動機は正明と秋子の関係だった。正明は夜な夜な秋子のことを自室に呼び出し、無理矢理性的行為を迫っていたのだ。
そのことを知ってしまった秀明は正明の殺害を決意した。
殺害を決意した秀明は正明が推理小説好きなのを利用し、地下室に呼び出した。
何らかの方法で正明を暖炉を覗き込むように仕向け、煙突からツボを落として殺害。その後灯油を注ぎ、火を放った。
その証拠に、暖炉の内側には黒いペンで薄く文字が書かれているのが確認され、筆跡鑑定の結果、容疑者のものと一致した。また、容疑者自身の供述とも一致した。
「なるほど。確かに動機、凶器、手口は判ってるな。肝心な密室のことはなにもかかれてないけど」
そう言って絢辻の方を見ると、彼女は右手を顎に当てて何やら考え事をしていた。
やがて立ち上がると、書類をまとめてカバンにしまい出した。どうやら考えがまとまったようだ。
「とりあえず上がるか?」
「うん。大体分かった。まだ推測だけどね」
そう言って笑った絢辻だったが、私には確信を持っているように思えた。
地下室を出て居間へと向かう。
居間に入ると台所には伸一郎が、そして椅子には女性が一人座っていた。
「あ、絢辻さん。調査はもういいんですか?」
「えぇ、ありがとうございます。そちらの方は?」
絢辻は椅子に座っている女性の方を見て言った。
「あぁ、姉です」
伸一郎がそう言うと、先ほどまで座っていた女性が立ち上がって頭を下げた。
「初めまして。伸一郎から聞きました。姉の祐奈です。今日はどうも有難うございます」
「いえ、そんな。そうだ、祐奈さんはいつから海外出張に行ってらしたんですか?」
「えっと、一ヶ月前ですかね?ついさっき戻ってきたばかりです」
「地下室について何か知っていることはありませんか?」
なぜそんなことを聞くのだろう。私はそう思ったが口出しは止めておいた。絢辻には何か考えがあるはずだ。
「え?地下室ですか?父が使っていたということしか。あ、そうだ。ドアの立て付けが悪くて、鍵をかけないと開いてしまうんですよ。あそこって結構冷えるんですよね」
祐奈の言葉を聞いた絢辻は嬉しそうな顔をしていた。
「有難うございます。伸一郎さん。判りましたよ密室の謎が」
そう宣言した絢辻の顔は自信に満ち溢れていた。
どうやらコーヒーのようだ。お盆の上には一緒にスティック砂糖が何本か乗せられている。
私と絢辻、そして自分が座る席の前にマグカップを置き、自身も椅子に座った。
「それで、依頼の方なんですが」
「確か、お知り合いからの紹介でしたね。所長から伺ってます。依頼内容は密室の謎の解明。これでよろしかったですか?」
絢辻が確認するように尋ねると、伸一郎はコクリと頷いた。
「はい。その通りです。一週間前にこの家の地下室で私の父親、赤城正明が真っ黒な焼死体で発見されました」
「しょ、焼死体!?」
私はおもわず声を上げてしまった。
その間に絢辻はスティック砂糖を二本、コーヒーに入れて飲んでいた。
「えぇ。あ、でもすぐに警察を呼んで、事件はその日のうちに解決しました。犯人も捕まりましたし、犯行動機、手口。それから使われた凶器も全て判りました。ただ一つだけ判らなかったのが」
「どうやって密室を作ったのか」
「はい。犯人だった妹の婚約者は密室以外の全てを語った後、ナイフで自分の首を切って自殺しました。本当のことは分からないままです」
「なるほど。分かりました。では、調べてみますので地下室まで案内していただけますか?」
「はい、どうぞこちらです」
そう言うと伸一郎は席を立って歩き始めた。
私と絢辻も立ち上がって彼の後を追った。
地下室へと続く階段はコンクリート製、周りの壁もコンクリートでできているので上よりもかなり寒い。
事件からすでに一週間が経過しているが、腐敗臭がすると感じるのは、ここで人が焼けたという先入観があるからだろうか。
地下室のドアは新しいものに取り替えられていた。
「ドアは事件解決後に新しいものに取り替えましたが型は同じです」
「この鍵も以前のドアについてたんですか?」
絢辻がドアノブの少し下についている鍵穴を指差して言った。
「あぁ、それは新しいドアにしたときにつけたんです。以前のは内側にある掛け金でした。そこで警察の方も悩まれていました」
「そうでしょうね。部屋の中を調べてみてもいいですか?」
「えぇ、どうぞ。私は台所に戻ります。今日は海外出張から姉が帰ってきますので」
「分かりました。調べ終わりましたら声をかけます」
絢辻の言葉を聞くと、伸一郎は軽く頭を下げてから上に戻っていった。
「よし、まずはどこから調べる?」
私が尋ねると、絢辻は部屋の中央に置いてあるソファに腰掛けた。
「調べる必要はないよ。警察が調べてるから」
そう言うと絢辻はカバンから書類の束を取り出した。
私も絢辻とは反対側のソファに腰掛け、彼女が取り出した書類を眺める。
「赤城正明殺害事件。あ、この事件の捜査資料か!」
「コピーだけどね。特別にお願いして貰っちゃった。後で返さないといけないけど」
さすがは警察に捜査協力しているだけはある。
「これを見ればわざわざ調べなくてもいいわけだ」
「そういうこと。まずは事件のことを知らなくちゃね」
犯人の名前は工藤秀明。伸一郎の妹、秋子の夫だった男だ。
犯行の動機は正明と秋子の関係だった。正明は夜な夜な秋子のことを自室に呼び出し、無理矢理性的行為を迫っていたのだ。
そのことを知ってしまった秀明は正明の殺害を決意した。
殺害を決意した秀明は正明が推理小説好きなのを利用し、地下室に呼び出した。
何らかの方法で正明を暖炉を覗き込むように仕向け、煙突からツボを落として殺害。その後灯油を注ぎ、火を放った。
その証拠に、暖炉の内側には黒いペンで薄く文字が書かれているのが確認され、筆跡鑑定の結果、容疑者のものと一致した。また、容疑者自身の供述とも一致した。
「なるほど。確かに動機、凶器、手口は判ってるな。肝心な密室のことはなにもかかれてないけど」
そう言って絢辻の方を見ると、彼女は右手を顎に当てて何やら考え事をしていた。
やがて立ち上がると、書類をまとめてカバンにしまい出した。どうやら考えがまとまったようだ。
「とりあえず上がるか?」
「うん。大体分かった。まだ推測だけどね」
そう言って笑った絢辻だったが、私には確信を持っているように思えた。
地下室を出て居間へと向かう。
居間に入ると台所には伸一郎が、そして椅子には女性が一人座っていた。
「あ、絢辻さん。調査はもういいんですか?」
「えぇ、ありがとうございます。そちらの方は?」
絢辻は椅子に座っている女性の方を見て言った。
「あぁ、姉です」
伸一郎がそう言うと、先ほどまで座っていた女性が立ち上がって頭を下げた。
「初めまして。伸一郎から聞きました。姉の祐奈です。今日はどうも有難うございます」
「いえ、そんな。そうだ、祐奈さんはいつから海外出張に行ってらしたんですか?」
「えっと、一ヶ月前ですかね?ついさっき戻ってきたばかりです」
「地下室について何か知っていることはありませんか?」
なぜそんなことを聞くのだろう。私はそう思ったが口出しは止めておいた。絢辻には何か考えがあるはずだ。
「え?地下室ですか?父が使っていたということしか。あ、そうだ。ドアの立て付けが悪くて、鍵をかけないと開いてしまうんですよ。あそこって結構冷えるんですよね」
祐奈の言葉を聞いた絢辻は嬉しそうな顔をしていた。
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そう宣言した絢辻の顔は自信に満ち溢れていた。
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